31.
だがここまでされると逆に冷静になってしまう。
我ながら可愛げのない女だなと思う…
「え、と…… 先日もお伝えした通り私には─」アシュクロフがいるのだけど……
しかしヴィンセントは「ただの"恋人"なのだろう?横恋慕は褒められたものではないかもしれないが、そもそも君は僕の"婚約者"だ。」とニヤリと意地悪そうな顔をする。
確かに知らなかった事とは言え、事実だけを見れば『浮気をしている』と取られても仕方のないことなのかもしれない…
「あまり難しく考えないで欲しい。いきなりその彼と別れて僕のものになれと言っているわけじゃないんだ。」
まあ、それはそうか…とふむ、と頷く。
「ただ、僕のことをこれから知ってもらえたら嬉しいかな。」
とはにかみながらも笑顔を見せてくるその笑顔になんとなくデジャヴュを感じながらもイケメンはズルいなぁそんな笑顔見せられたら邪険には扱えないじゃない、なんて心の中で独りごちた。
「わか、りました。─友人から、てことですね?」
「友人……うん、そう…そうだね。」少し不満そうだが納得したようだ。
「これから手紙を送ってもいいだろうか?あと、良かったらお茶にも誘いたいのだが…」
一気に距離詰めてきたな〜なんて思いながらもまあシャロンと話したようにヴィンセントを知る事にも繋がるかと快諾した。
「いいですよ。でも学園が始まるのであまり時間が取れないかもしれませんが…」「それは構わないよ。君の都合のいいときで頼む。」
とぶんぶんと振れる尻尾が見えそうなくらい嬉しそうで、結構可愛い人なのかなと少し認識が変わった。
「マリア嬢が前と変わらず優しい人で良かった。」
「え…?」小さい頃の話しなんだろうか?
だが返事は聞くことが出来なかった。
ヴィンセントの従者がお時間です、と彼を呼びに来たからだ。
「お時間を頂きありがとうございました。」
「いや、こちらこそ何やらお祝いを戴いたようで申し訳ない。」
とヴィンセントとお父様がぺこぺこしている。
庭から戻って報告しないわけにもいかないのでお祝いを戴いた、と伝えたのだ。
「では、急ぎ足で申し訳ありませんがこれで失礼します。」
「本当にお祝いありがとうございました。…大切にします。」
せっかく戴いたのだから大切にはするつもりだ。
「出来れば、学園に付けていって欲しい…無理にとは言わないが。」
え、と目を瞬いてしまったが「わ、かりました。…蝶は"吉祥文様"ですから。」
「─キッショウ?」
最後、独り言のつもりが聞こえていたらしい…まずいと思ったが「殿下、さすがにそろそろ…」と従者から急かされてしまったので
「あ、えと、あの…手紙!手紙に書きますから!」
「…わかった、楽しみにしている。」
となんとか納得してもらい送り出した。
「…最後、なんだったんだ?」とジョセフが聞いてきたが疲れていたのもあり内緒!と誤魔化した。
「あぁ、疲れた……お父様たちは夜会にも出席されるのよね?」
「そうだな。ジェイムスとメアリーから頼まれているんだ。」
「そう…ウィル兄様とジョセ兄様は?」
「俺は行かない。エスコート相手がいないしな。」
「俺は行く…というか呼ばれた。ヘザーから。」
「あら、ヘザーちゃん来るの?」
「そ。こういう時にしかここ、来れないしな。」
今日の夜会は特別で、婚約者同士でなくてもダンスが出来てエスコートする/してくれる相手がいれば誰でも入場出来る。
ジョセフとヘザーは婚約などしているわけではないので普段は一緒に来れないのだ。
「衣装はどうしたの?」とお母様が心配しているが、
「ああ、大丈夫。ミカエル女史の店で貸し衣装にした。」
豪華な衣装があっても宝の持ち腐れだしなにより邪魔なんだと、と笑っている。
「ヘザーって記念病院勤務だったか。」と考える素振りをしているウィルフレッド。
「そうだな。あ、でも確か義姉さんには関係なかったはずだ。」科が違ったはず、とジョセフ。
記念病院─正式名称は『聖女記念総合病院』。
ここもまた、向こうの世界の匂いのする場所だ。
総合病院の名の通り、本当に日本の総合病院と変わらない機能を持っている。
いくつかの科があり規模も国一番。病気や大きな怪我をしたら基本、ここに来ることになる。
産科があるのでサラも出産時はここのお世話になる予定だ。
「案外、彼女さんと仲がいいのね。」
「ん?まあ…な」
おや?珍しく照れているな。ふ〜ん、とにやにやしていたら
「……なんだよ。その顔止めろ!」
「うわ、怒らないでよ!」
こら止めなさい、なんて言いながらお母様が笑っている。
あまり騒ぐなとウィルフレッドから聞こえるが彼もお父様も笑っている。
なんでもないことだけどなんだか嬉しくなって私も、ジョセフも笑ってしまった。
そうやって家族で一旦帰路へとついた。
──私は気付かなかった。
一連の出来事を見つめていた人物がいたことなんて。
それがあんなことになるなんて──。




