30. 贈り物の話。
ぱらぱらと少しずつ出席者が帰宅しているようで広間がだいぶ空いてきている。
夜は夜で、夜会が開催される予定なのでその準備もあるのだろう。
ちなみに夜会に私たちは参加出来ない。
参加資格が"18歳以上(その年に18になるなら大丈夫)"なのだ。
まあ、色々あって疲れてしまったので例え参加出来る年齢だったとしても不参加だろうと思う。
広間を見ていたシャロンが「あら、お母様たちが呼んでいるわ。」と席を立つ。トラビスも一緒に行くようだ。
「ではマリア、明後日の入学式で会いましょう。」「またね、マリアさん」
と手を振るので「うん!またね。」と振り返す。
それと入れ替わるようにジョセフがやってきたので私もようやく帰れるようだ。
ジョセフは「マリアー無事かー」なんて言いながらもニヤニヤしている。
「ジョセ兄様…」「あははは、そんな顔するなってー」
…でも今はこの明るさに助けられているかもしれない。
「やっと帰れる〜」と零したら「残念、まだ帰れないんだな。」とジョセフ。
「ヴィンセント殿下からお呼び出しだ。」
……はい?
「マリア、どうしても話しがしたいとのことだから行くぞ。」
お父様、それは死刑宣告か何かですか?
「あまり行かせたくはないんだがな。仮にも王族だからな。」
ウィル兄様、"仮にも"はさすがにダメです…
「…黙ってかえ」「だめよ。」「お母様ぁ〜…」
「あはははは!マリアの百面相、面白すぎる! っていってぇ!」
ジョセフはお父様からげんこつを食らっている。痛そう…
家族漫才を繰り広げていたら遣いの方が来られご案内します、と連れて行かれる。
今日は広間から比較的近い部屋に案内された。
先日と違ってブラウンに臙脂色の家具でまとめられた応接室だった。
よく眺めたかったのだが「…見たいのはわかるがあまりきょろきょろするな。」とお父様から止められてしまった。
殿下はすぐ参りますので、と遣いの方が部屋を出ていく。
一応お茶を用意して貰ったが散々飲み食いした後なのでとりあえず置いておくことにしよう。
話しってなんだろう?とぽけーっと待っていたら扉が叩かれ「失礼します。」とヴィンセントが入ってきた。
立ち上がって挨拶しようとしたがヴィンセントから制されてしまったので甘えることにする。
一人掛けのソファに座るや否やガバッと頭を下げ
「ほんっとうに申し訳ありませんでした!」といきなり謝るヴィンセント。
全員ギョッとしてしまい、慌ててお父様が殿下!と諫めている。
だが彼は頭を下げたまま
「私の行動のせいでマリア嬢には不快な思いをさせていることは事実でしょう。いくら謝っても済むものではないと思っています。」
とかなり反省しているらしい。
「…マリアは、どうしたい?」とウィルフレッドから急に話しを振られる。
「マリアに関することなのだからマリアの意見も聞こう。」
……私、は…
「…とりあえず今日の事は、もういいです。終わってしまった事ですし、たくさんの人が見てましたからなかったことにはなりませんし。」
もう、この後のことは諦めるしかないだろう。あれだけの衆目のもとに晒されてしまったのだから…
こうなりゃとことん付き合ってやろうじゃん!
どんな口説き方してくるか逆に楽しみにしてやる!と前世のココロが顔を出す。
「…それでいいんだな?」とお父様から確認されるのではい、と頷いて答える。
「殿下、マリアもこう言っている事ですし私どもも何も言いません。」
当主であるお父様がこう言ってしまえばもうこの話しは終いだ。
ヴィンセントは「本当に、すいません…」とまだ項垂れている。
「本当に、そっくり親子ね。」と突然お母様が笑い出した。
どういうことかとお母様を見やると
「陛下…今はジェイムスと呼ぶわ、殿下の父君であるジェイムスも同じ事をしでかしたのよ。」
「あいつがうるさく言ってこないのは身に覚えがあるからだな。」とお父様と2人で笑っている。
お父様とお母様、陛下と王妃様の4人は魔法学園の同級生。
王妃様は外国からの留学生と聞いている。
「…陛下も今日の殿下みたいなことを?」と聞くと首肯された。
「ジェイムスは学園に入ってきたメアリーに一目惚れしていてな。」
「私たちが仲を取り持ったのよ。」とにこにこ話している。
ヴィンセントも初耳だったようで目を瞠って話しに聞き入っていたが
「ところで、ご用はこれだけですか?」
とウィルフレッドが割り込んできた。
確かに早く帰れるなら帰りたいのだが…
「あっ すいません、出来ればあの…マリア嬢と話しがしたいのですが…2人きりで。」とヴィンセントが言い出した。
何言い出すんだろうこの人は、と思ったがシャロンと話したこともあり「いいですよ。」とさらりと快諾した。
ヴィンセントはえっ、と顔をしたがすぐに「ありがとう。」と立ち上がり手を差し出してくる。
ジョセフが「…大丈夫なのか?」と心配そうだが
「そこの、扉を出たすぐのところで話しますから。」
と指された先を見ると部屋から直接庭に出る扉のようだった。
ヴィンセントの差し出された手に自分の手を重ね庭へと出る。
まだ陽が高いので花々が綺麗に咲き誇っているのがよく見える。
「王宮の庭も綺麗ですね!」
「ありがとう。庭師たちが毎日頑張ってくれているお陰だ。」
と自分の事のように嬉しそうだ。
「今日は来てくれて本当にありがとう。あと、その装い…とても似合っている。─すごく素敵だ。」
「あ、ありがとうございます…っ …それで、何でしょうか?」
ヴィンセントが愛おしそうな顔をするので急にとても恥ずかしくなり先を急かしてしまった。
「あ… あの、迷惑かもしれないんだが…」と言いながら上着のポケットから箱を取り出し、私に中を見せてくる。
「どうしても、直接渡したくて。…入学祝い、受け取ってくれないだろうか?」
箱の中身はブローチだった。
モチーフは私の大好きな"蝶"。
繊細な銀細工で出来た横から見た蝶の姿。
翅の部分は七宝焼きで青を基調とした色付けがしてある。
細工もだが何よりデザインが好みど真ん中すぎた。
「こ、れ……」
「……好きなモチーフだと聞いたのだが…どうだろうか…?」
「ほ、本当に戴いても…?」と恐る恐るヴィンセントを見ると、こくりと笑顔で頷かれた。
そっ、と箱ごと手に取りまじまじとブローチを見つめる。
「きれい……」もう語彙力とか知った事ではない。
「気に入ってくれた?」「はい!すごく好きです!」と満面の笑みで返事をするとヴィンセントの顔がほんのり赤くなった。
「あの、なぜここまでしてくれるのですか?」
思わず浮かんだ疑問をそのままぶつけてしまった。
「…っ えーっと… あの……その…… 」としどろもどろになるヴィンセント。
「小さい頃、確かに一緒に遊びましたが…」
「えっ 覚えててくれたのか?」とパッと顔が明るくなったが、
「いえ、忘れてました。先日思い出したところです。」と素直に告げると一気にあぁ…という顔になった。
「あれからだいぶ経っていますしその、書面もあるみたいですが私なんかより…」「いや、僕は君がいいんだ。」と食い気味に意見を却下された。…なぜ、そこまで…?
「一言では伝えられないし、今からはもう時間がないから話せないのだがとにかく、あれを白紙にするつもりはないし君を諦めるつもりもない。」と真っ直ぐ見つめられる。
──そんなに
「そんなに私の事が好きなんですか。」
と頭で考えていた事がそのまま口から滑り出してしまい慌てて「いやっ、今、のはっ す、すいません!忘れて下さい!!」と箱を持っていない方の手を振り否定するもその手を掴まれてしまった。
「すいませんすいませんごめんなさいごめんなさい!!」
やらかした〜〜どうしよう…!自惚れでしかない発言…!恥ずかしすぎる!!と内心冷や汗ダラダラだったのだが
「…そう、か。そうだな。最初からそうすれば良かったのか。」あんなに色々考えていたのが馬鹿らしくなるな、とヴィンセントは一人納得している。
手を離してくれないかな…なんて思っていたのだけどそんな思いも虚しく、掴んだ手を両手で包み込み
「マリア嬢、僕は貴女が好きだ。」
と真剣な眼差しで告げられてしまった。
私が驚きで目を瞬いていると「返事は今でなくて構わない。君の時機でいいから、いつまでも待つ。」それと─
「もう想いを告げてしまったからこれからは遠慮なく君を口説くことにする。」
と掴んだ手の手首にチュっとキスをされてしまった。
手首へのキスは【欲望】らしいです。
Twitterで知りました。
(読みづらかったので改行増やしました。)




