29. 昼餐会の話。 その②
ウィルフレッドに手を引かれ下がってきた私をシャロンとトラビスが心配そうな顔で迎えてくれた。
「まさかあそこまでお馬鹿になるとは思いませんでしたわ…」
とシャロンがかなり辛辣だ。
「マリアさん大丈夫?ちょっと影に行こう。」と端に用意されている休憩用のソファへ連れていかれる。
酔いと驚きでされるがままの私に人々からの囁きが耳に入ってきた。
(…彼女が"マリア嬢"?)
(…確かに綺麗な娘だが…所作は……)
("農家クローヴィス"の娘だと聞いたぞ……)
(…まあ、ではほぼ平民と変わらないわね…)
……うるさいなぁなんて思いながらカーテンの影にある休憩用ソファに座る私。
「……マリア。気にしてはなりません。」「そうだよ。あんなのは羨ましくて仕方がない奴らの言い訳だからね。」と2人がちらりと広間に視線をやるとさっ、と顔を背ける人々が数人見えた。
「大丈夫ありがとう。それよりもびっくりした…」
そして少し時間が経ってきてじわじわと…
「…というか一体なんなの?悪目立ちしちゃったじゃない!」
と怒りが湧いてきた。
「ふふふっ…さすがマリアね」くすくすとシャロンが笑っている。
だがトラビスは「え。マリアさんてこんな感じの子なの?」と驚き、目を瞠っている。
「そうね、トラビスはまだこのマリアに会ったことないわね。この子普段怒ることないから」
「そうだよね。泣くでもなく怒る…マリアさんはやっぱり面白い子だね」
…"やっぱり"って何よ…
「私、何か甘い物でも取ってきますわ。」
「じゃ僕は飲み物探してくる。」
絶対ここから離れてはダメよ、と念押しされ2人は喧騒の中へ消えていった。
──はぁ〜…と深いため息が出てしまう。
…王族ならもっと感情コントロールして欲しい……
と考え、止めた。
ヴィンセントだって人間なのだからどうしようもない事があるだろう。
…私相手というのが解せないが。
そんなに私を好いてくれているのだろうか?
子供の頃に会ってはいたがあれからかなり年月も経っているのだからもう忘れていそうなものだけど……
ふ、と人影が目に入りシャロンかトラビスかと思い見ると
──聖女、セリス・ワイズだった。
「…マリア・クローヴィス様。少し、よろしいですか?」
「セリス・ワイズさん……私に、何か。」
「……噂」「…え?」
「…っ 貴女は、本当に──」
「失礼。」
ハッと、2人で声のした方を見るとヴィンセントがそこに立っていた。
「でん、か…」驚いたがすぐに切り替えぱっと立ち上がる。さすがに王族の前で座ったままではいられない。
あっ、とヴィンセントは驚いている。…おそらく止める前に私が立ってしまったからだろう。
「何かご用でしょうか?─ヴィンセント王太子殿下。」とほんの少し皮肉を込めて語りかけてみる。
ヴィンセントはバツの悪そうな顔をしつつ「マリア嬢、先ほどは大変失礼しました。」と頭を下げようとしたので
「なりません。…王族が簡単に頭を下げてはいけません。我が国の人間だけなら気にしないでしょうが本日は来賓の方々も大勢いらっしゃるのですから。」と強めにその行為を止める。
「しかし…「それよりも私の方こそ失礼しました。」とシャロンと特訓したカーテシーを披露してやる。…後ろにギャラリーがわんさかいるのは見えているから。
「驚いてしまって礼儀を欠きました。兄たちも失礼な態度を。」そうしてじっ、とヴィンセントを見つめていると
「…っ、ヴィンセント様っ!」とセリスが呼びかけた。このタイミングで呼びかけれる度胸に拍手しそうになる。
しかし「…私は、君に名を呼んでいいと言ったことはないが?」と冷たく言い放つヴィンセントにセリスの顔が一気に青くなる。
「その言い方は、あまりよろしくありませんね。ヴィンセント殿下」
「セリス様、あちらで貴女を探してる方がいらっしゃいましたわ。」
トラビスとシャロンが戻ってきたようだ。
女性が1人、人垣を掻き分けて出てきた。
「セリス様!こちらにいらしたのですか。そろそろ戻る時間です。」
「ミア…」と悔しそうに呟きながらミアと呼ばれた女性と挨拶をしその場を去っていった。
「ヴィンセント殿下、さすがに場所をわきまえてください。」
と静かにトラビスがヴィンセントだけに聞こえるよう囁いている。
「……"恋は盲目"とはよく言いますわね。」とのシャロンの呟きに彼は冷や汗をかきだした。
「…っ 重ね重ね、申し訳ない…マリア嬢、貴女はよい友人に恵まれていますね。」
「ありがとうございます。自慢の友人たちです。」と満面の笑みで答えると
「──これは一体、何事かな?」と威厳ある声が響いた。
「ジェイムス、国王陛下……」
……うーん、さすがにこの方の登場は予想していなかったわ。
どうしたものかとシャロンたちとちらちらと視線を交わすがとりあえず黙っておけ、と視線で制された。
「陛下、申し訳ありません。私の力不足で騒ぎを起こしてしまいました。」と頭を下げるヴィンセント。
「……まあ、追々ではあるが…よい勉強になったか?」「はい…」
「皆すまないな。…息子は私に似て少々、不器用なようだ。」ははは、と笑いながらヴィンセントの肩を叩き、一緒に広間の方へと戻っていった。
「……陛下が出て来られるとは思いませんでしたわ。」
「今日は驚きすぎて疲れた……」
「ちゃんと甘い物、持ってきましたわよ。」
「僕は果実水にしといたよ。」
と3人並んでソファに座り甘い物を食べながら残りの時間を過ごすことにした。
「登場したときは格好いいなんて思ったけどああいうことされちゃうと…」
私はプチシューを口に放り込んだ。
「……まあ、気持ちはわからなくもないんだけどね。」
トラビスが苦笑している。
「…トラビスもああいうことをしてしまいますの?」
シャロンはチーズケーキを口に運んでいる。
トラビスは「気持ちだけね気持ちだけはよくわかる。実際起きたらやらない……と思う…」と少し自信なさげに言いながらジュースを飲んでいるがシャロンから見つめられ
「いやね、ヴィンセント殿下が僕でマリアさんがシャロンでって想像したらちょっと、自信なくなるのは事実なんだよ…」と素直な気持ちを吐露している。
「……まあ人間ですからね。完全無欠だなんて思いませんわ。」とのシャロンの言葉に少しほっとした様子だ。
「ああ〜…ていうかどう考えてもこれから学園で色々言われそう…」普通に通学したかったのに……
「もう明後日ですものね。入学式。」「ところでセリスちゃんに目をつけられたっぽい件について。」と話題を自ら無理矢理変える。
トラビスが「セリス嬢はヴィンセント殿下狙いなの?」と声をひそめ聞いてくる。
「そうでしょうね。先日の夜会でも自分の方から殿下に声をかけてましたわ。」「すごい勇気だな…」
「肝心の殿下は眼中にないご様子でしたわね。誰かさんが隣におりましたから」と私のほうを見てくる。
「……殿下は『彼女が苦手』って言ってた。」
「だからと言ってあの態度はちょっとダメだけどね。」
トラビスも王子だからそのあたりよくわかるのだろう。
「学園、1組しかないから絶対顔合わすのよねー。」面倒くさいことしか起きない気がする。
「マリア、私たちと出来る限りいるようにしなさいね?」
「そうだね。僕は卒業するまではまだ王族扱いだしシャロンのことがあるから一緒にいても何も言われないだろうし。」と2人から約束させられる。
「…でも選択実技の授業が」「そのあたりは追々にしましょう。…今日は時間切れだわ。」と言われ広間に目をやるとどうやら昼餐会も終わりのようだ。
年下だけどトラビスの方が王太子歴が長いのでいろいろ先輩。




