28. 昼餐会の話。
「あの子が聖女だと判明してからなんだっけ?神殿が保護を言い出したの。」
「まあ、彼女は幼いときに判明したからな。」とニコラス。
セリスが聖女だと発表されたのは彼女が10歳の頃。
突然、神殿が大々的に発表したのだ。当時神殿長が代替わりしたのも一因だろう。
以前はどこそこの誰それが聖女らしい、と知っている・判っているがわざわざ指摘することはしない程度だったのが内外に発表されたものだから国内はともかく、外国からの注目度が高かった。
外国からすると聖女というものはとてもすごいらしい。
トラビスのいるグランツィア国はギレスビア建国当時から国交があり仲が良いので王家や古参貴族から特にアクションはなかったが、新興貴族からは色々あったようだ。(シャロンから愚痴を聞かされたことがある)
つまり"幼くして偉大な力を持つ彼女は保護されるべき"というのが神殿の言い分なのだ。
なんて4人で話していたらニコラスが
「マリア、今日はとても素敵だね。」と突然言い出した。
「は?一体なんなの気持ち悪い…」
シャロンと同じくニコラスも同い年なので勝手知ったる仲だが…こんなこと今まで一度も言われたことがない。
「ひどいなあ。僕だって男なのだから素敵な女性は口説きたくなる。」と私の手を取り、甲に触れるか触れないかの口付けを落とす。
3人してぽかんとしてしまう。こんなニコラスは見たことがない…
「あ、ほら。準備が終わったみたいだから行こうか?」とにこやかに告げる彼。
「…え、えぇ…」となんとか返事をし手を引き抜くと残念、と呟きが聞こえたが無視した。
そしてニコラスは家族に呼ばれたのかまたね、と言い残しそこから離れていった。
「…マリア、大丈夫ですの?」「ああ、うん…ちょっとびっくりしただけ。大丈夫ありがとう。」…なんだか悪寒を感じる。
「…彼、イルミネ伯爵家の?」「ええ、確か…2番目でしたかしら。」
ふーん…とトラビスが、ニコラスが去っていった方を見ているが
パッとこちらを振り返り「さ、僕たちも入ろうか。」と言うので揃って広間に戻ることにした。
入口で乾杯用のグラスを渡されながら再入場していく。
トラビスが「あ、僕の家族はあっちにいるみたい。またあとでね」と前の方に行ってしまった。
私たちは……とあたりを見回すとウィルフレッドとジョセフがこちらに手を振っているのが見えた。サーザラン侯爵家のみなさんもいるようなので「シャロン、こっち」と手を繋ぎそちらへと向かった。
シャロンのお父様とお母様にも挨拶をし、開始を待つ。
渡されたグラスを眺めながら「これ、お酒?」と独りごちると「シャンパンですわね。先日納品しましたわ。」とシャロンから答えが返ってきた。
…こっちではお酒をまだ飲んだことがない。
20歳から、なんてことはなく一応デビュタントを過ぎたら解禁らしいのだが。
(前世ではシャンパンは苦手だった。こっちでは美味しく飲めるかしら…)
「みな、待たせてしまってすまない。それでは始めるとしようか。」
と陛下の声が響く。
「では杯を。──乾杯!」とグラスを高く掲げると「乾杯!」とあちこちから声が上がる。
私も乾杯、と上げたあとシャロンやウィルフレッドたちと軽くグラスを当て少し口に含んでみる。
お?…おおお? これは美味しい〜!美味しく飲める〜!
あ、でも度数高いわねこれ、と感じる。どれくらい酔うのか未知数だからあまりぐびぐび飲まないように気を付けなければ。
とりあえずこの1杯は全て飲んでも大丈夫なようだ。…ほんの少しふわふわするけど。
前を見るとヴィンセントに寿ぎの言葉をかけるための列が出来ている。
ギレスビア国の人間はあとなので先に食事を頂くことにした。
「マリア、お前の好きそうなのあっちの机にあったぞ」とジョセフが言うのでシャロンと一緒に行ってみることに。
途中、トラビスを拾った。グラント王家は一番最初に行ったらしくすぐ終わった〜、とやってきたのだ。
言われたテーブルに着くと確かに私の好きなもの、野菜と魚料理だ。
立食形式、いわゆるバイキング形式で一口サイズに小さく作られた料理がところ狭しと並んでいる。
野菜はもちろんのこと、我が国は海に囲まれた半島にあるのでお魚もとても美味しい。それらがふんだんに使われた料理たち…少しずつお皿に取ってシャロン、トラビスと一緒に食べる。
「わ、これ美味しい〜」
「確かに…魚もこういう調理方法がありますのね」
「ああ…食べ物の美味しい国に住めるようになるとか最高…」
「待って。グランツィアもご飯美味しいでしょ?」
「いや、そうだけどギレスビアは特に食材の味がいいんだよ…」……
お腹が満たされた頃、そろそろ列に並ぶようでジョセフが呼びに来た。
「シャロンは俺らの前な。ほら行くぞー」と連れて行かれる。
「ジョセ兄様ありがとう。あの机、美味しかった。」
「言い方!机食べたわけじゃないだろ」とけらけら笑っている。
実は食べながらもう1杯お酒を飲んでしまったので頭のふわふわ度合いが上がっている。
それに気付いたのか「…マリア、また酒飲んだか?」と聞かれたので頷いた。
「……これ大丈夫か?…」となにやら呟いているがよく聞き取れない。
そうこうしているうちに順番が来たようでジョセフが「本日はまことにおめでとうございます。…まあ頑張れよ!」と軽い感じで言葉をかけている。
いいのかそれで、とも思ったがジョセフとヴィンセントは学園で先輩・後輩で仲が良かったらしい。
「あ、ジョセフ先輩。ありがとうございます!」とヴィンセントも軽く答えている。
そしてジョセフからほら、と前に出され「本日はまことにおめでとうございます。」となんとか笑みを浮かべ告げた瞬間、弾かれたようにヴィンセントが立ち上がった。
広間のざわめきが少し引き、こちらに注目しているのが背中越しにわかる。
「あ………」しまったー!という顔のヴィンセント。
私は驚いてしまって目を瞬くことしかできない。
驚いて固まっていると「…殿下。その行動はちょっと、如何かと思いますが。」と少し低い声のウィルフレッドと「まだまだだな。」なんて言っているジョセフの2人が私の両脇に立つ。
「……っ 失礼しました…」としょぼんとなりながらゆっくり座り直すヴィンセント。
私は「…行くぞ。」とウィルフレッドに手を引かれその場を後にした。




