27. 立太子の儀の話。
1話に入れたかったので長いです。
朝から気持ちよく、雲一つなく晴れている。
今日という日を祝福するかのように──。
今日はいよいよ【立太子の儀】の日だ。
なのにアシュクロフはと言うと…
『お嬢、すいません。どうしても仕事が入ってしまって明日、明後日といません。』
『え?仕事??祝日なのに?』
『旦那様に頼まれまして。』
『お父様から……』
『はい。だから、すいません。』
これが2日前の事。
「……仕立てたドレス、見てもらいたかったのに…」
お風呂に入ったあと、臨時侍女のみなさんから全身を磨いて貰いながら独りごちる。
ドレスを着る日は大変だ。
特に今日は一家揃っての支度をしなければならないので普段いる我が家の侍女だけでは足りない。
そういうとき臨時の侍女部隊が来てくれるのだが実のところ、昔勤めていて結婚やらなんやらで辞めていった方たちだ。
なので支度の間中、おしゃべりが絶えない。
「お嬢様大きくなられましたね〜!」
「ほんの数年ですのにますますお綺麗になられて…!」
「え〜そうかな?でもありがとう!」
彼女らは先日の夜会のときは来なかった侍女たちだ。
「デビュタントの日、本当にお綺麗でしたよ!」とティアナが言えば
「「見たかったわ〜〜!!」」と声が揃う。
「そういえば貴女のとこ──」「そうなのよ〜…」
世間話も交えながら着々と準備がなされていく。
仕上がったドレスは本当に綺麗だった。
先日は刺繍が一部にしか入っていなかったので完成したものは想像以上で、絹製の艷やかな紺地に銀糸が天の河のように映えている。
「今日のお化粧は衣装に合わせて銀色に致しますね。」
「うん、お願いします!」
「髪型は結い上げて…」
全ての準備が終わり、鏡で全身を見せてもらう。
「すごーい!私じゃないみたい。ありがとう!」
「とてもお綺麗ですよ。」とみな満足そうだ。
くるくると鏡の前で見ていたら扉がノックされ返事をするとジョセフが「マリアー準備出来たか?そろそろ出るぞ」と迎えに来たようだ。
「はーい、今行く!」と答えるとティアナからハンカチや手鏡の入ったポーチを渡され、「お気を付けていってらっしゃいませ。」と見送られる。
それが聞こえたのかジョセフが扉を開け、私を見ると「……馬子にも衣装。」とぼそっと呟いたのを聞き逃さなかった。
「素直に可愛いとか綺麗とか言えないわけ?!」と詰め寄るが何食わぬ顔で「ほら行くぞ。」と手を出してきたのでひったくる様に掴む。
「そういうのはな、好きな奴に言ってもらえ。」
「んなっ…!」
はははー顔真っ赤だぞ、なんて笑っているジョセフに呆れ顔をしながら『言ってもらいたかったけどいないんだもの』という言葉は飲み込んだ。
玄関にはもうみんな揃っていた。
「ごめんなさい、お待たせしました!」と言うとまだ大丈夫だ、とお父様から返事があった。
サラが「私も行きたかったけど、しょうがないわね。」と少し寂しそうにしている。彼女は妊娠中なので大事をとって欠席の旨が伝えてある。
「帰ったらたくさんお話しするわ!」「ありがとう、楽しみにしてるわね。」としゃべりながら馬車に乗り込む。
「ではいってきます!」と屋敷のみんなに手を振り、お父様が合図をすると馬車が出発する。
──王宮の広間にはすでにほとんどの出席者が集まっていた。
今日の広間は長椅子が並べられ中央の通路を挟んで片側には国内貴族や平民からの代表が、もう片側には外国からの王族や貴族ら来賓が座っている。
王族・貴族は1列に1家族座っているようで、私たちの前はサーザラン侯爵家の方々が座っている。
席につきながら「おはようシャロン!」「おはようマリア。」と言葉を交わす。
混雑しないように、と時間を後の方に調整して来たのでもう間もなく儀式の開始時間だ。
少しそわそわしながら待っていると前の方から
「静粛にお願いします。──ギレスビア国、ジェイムス国王陛下並びにメアリー王妃陛下のご入場です。」と宰相の声が聞こえたのでみな立ち上がり頭を下げ入場を待つ。
衣擦れと足音がし玉座に座る気配がした後、宰相から「皆様、ご着席下さい。」と言われ着席が済むと
「─それでは、『立太子の儀』を開始致します。」
と声高らかに告げられる。
──広間の入口扉が厳かに開かれ、ヴィンセントが姿勢良く入場してくる。
今日の衣装は燕尾服のようだ。
王族しか使うことの許されない、魔力を用いて染めると言われる濃紺色のジャケットとズボンには金糸と銀糸で豪華な刺繍が施してある。
髪をオールバックにし、きりりとした表情で真っ白なマントを翻しながら堂々とした態度で玉座の前へと進み、足元へ着くと陛下が立ち上がるのでそれに合わせヴィンセントが跪く。
横から一振りの剣を持つ人物が現れ、恭しく陛下に渡すとその剣をヴィンセントの頭上に掲げ、
「─ヴィンセント・ギレスビア。"王太子の座"に就く事をジェイムス・ギレスビアの名のもとに命ずる。精進するように。」
そうして剣を渡す仕草をし、ヴィンセントがそれを両手で受け取り
「謹んで、お受け致します。」
と返事をする。
その後、振り返り私たちに見えるように剣を高く、掲げたその時─
天窓から光が差し込みヴィンセントと剣が眩しく輝いた。
おぉ、とどよめきが起き次には割れんばかりの拍手が湧き上がった。
(さすが、持ってる人は持ってるのだなあ)と思いながら私も拍手をしていた。
この後は立食形式の昼餐会があるらしく、広間を準備するとのことですぐ隣の庭へと移動してきた。
飲み物だけ用意されていたので私もジュースを片手にシャロンとおしゃべりをして待つことに。
「トラビス殿下、おはようございます。」とシャロンの隣にいる彼に挨拶をする。今日は公式の場なのでちゃんとした態度で接しなければならない。
「おはよう、マリア嬢。…その衣装、とても良く似合っていますよ。」
「ありがとうございます。お2人もよくお似合いです。」
そう、先日言っていた"揃いの衣装"なのだ。
同じ布地で出来ているのであろう紺色の、シャロンはAラインワンピースドレスにトラビスは燕尾服。
白い糸で刺繍が施してあるが同じ場所に同じデザインだ。
そして2人の左手の薬指には揃いの婚約指輪が光っている。
「さ、挨拶も終わったし堅苦しいのはお終いね!」「もうマリアは…堪え性がないわね。」とシャロンは呆れ顔だが「ま、いいんじゃない?」とトラビスも了解済みだからいいのではないかしら。
「格好良かったなぁ」「…どなたが?」
ジト目をしてしまうが「……ヴィンセント殿下。」と素直に答えておく。
先ほど広間に現れた時、率直に"なんて格好いい人なんだろう"と思ったのは事実だ。夜会のときは軽くパニックだったしその後のことでよく見ることが出来なかったから。
夜会…そういえば今日は聖女も来ているはず、と思い少しあたりを見回すとシャロンから「……セリス・ワイズさんならあちらよ」と視線で指し示された。なぜわかった……
視線の先を見ると…人だかりが、出来ている。
中央にはあの時見た赤い髪をふわふわと揺らし、囲んでいる方々と楽しそうに話しをしている彼女の姿。
よく見ると囲んでいるのは外国の方々ばかりのようだ。…やはり"聖女"という肩書は外国からすると特異に映るのだろうか。
「─私たちは"聖女"を崇め奉ったりしませんが…」「外国からするとそうではないのだろうね。」とシャロンとトラビスが頷きあっている。
実はギレスビア国に、特定の宗教はない。あるのは日本の八百万信仰に近いものだ。
そして建国当時から聖女を崇めよ讃えよという教えはない。
初代聖女であり女王であった人物が『1人にそんな重荷を背負わせるな』と言ったのが始まりと言われている。
だから小さい頃、聞かされる聖女の物語も『隣人として支え合いましょう』といった感じで自分たちと同列であると説いている。
ではなぜ彼女が保護されているのかと言うと……
「ああいった奴らが彼女を助長させるんだよな。」
「うわ、びっくりした!急に出てこないでくれる?」
「あはは、ごめん。」
突然3人の輪に入ってきたのは同い年のニコラス。イルミネ伯爵家の令息だ。
「トラビス殿下、シャロン嬢、マリア嬢。ごきげんよう」
と挨拶をされるので「ごきげんよう」と私たちも返す。
「急に外国の奴らが彼女を持ち上げ始めたんだよなー。」なんか利点でもあるのかね?と胡散臭そうな顔だ。
儀式中のセリフの言い回しが、難しい…
そして増える登場人物!




