26. あの話と内緒の話。
「本当に今日は天気がいいねえ…」
「ご飯を食べたあとだから眠くなっちゃう…」
「もう、はしたないですわ…でも、確かにこれは…」
用意して貰ったお茶を啜りながら縁側の老人のようになっているがそれも仕方のない陽気だと思う。
3人でぽやぽやしているとトラビスが「いや、こんなことをしに来たわけじゃない!」とがばりと立ち上がった。
かと思うとスッと座り直し、「マリアさん、噂の真相を聞かせてよ!」と私にわくわくした目を向けてきた。
「う、噂?」「そう!ヴィンセント殿下との話だよ!」ああ〜…やっぱりソレですか…
「というか、そっちまでもうそんな話が?!」早くない?!
「いや、まあ王家と一部貴族だけだけど。ほら、妙齢の令嬢がいる家は狙っていたからね。それにギレスビアとは良好な関係を末永く続けていきたいから王家としては常に注視しているよ。」
「な、なるほど……」婚姻関係ひとつで国交が変化するのはよくある話だ。
さてではどこまで話すか…こういうときは…
「シャロン様〜〜!」
彼女に縋るのが一番だと私は知っている。
「もう、マリア?そろそろ自分で考えなさいな。」と呆れ顔のシャロンだが「…まあ、トラビスなら全て話して大丈夫ですわ。」とちゃんと助けてくれるあたりが彼女らしい。
全部って?と聞くとさすがにそこは考えなさい、と言われたので頑張るしかないだろう。
「えと、まずどんな噂なの?」それによって話さなくていいこともあるかもしれない。
「うーんとね…"マリアという女性がヴィンセント殿下のお心を射止めたらしい"。それだけだな。」シャロンの言っていた噂からしたらだいぶ内容が薄っぺらくなっている。
「…はっきり言って殿下のお気持ちは知らないし、わからないわ。だけどあのデビュタントの日、殿下から求婚されたし、お父様たちからは仮の婚約者であると言うのは聞かされたの。」
ふむ、と考えていたトラビスだが「……仮の?」と怪訝そうだ。
「そう、『私のデビュタントまでにお互い良い人がいなかったら』という内容らしくて…私、小さい頃王宮に遊びに行っていたの。その時に、私は覚えてないんだけど…殿下と約束をしたらしくて……」尻すぼみになってしまう。はっきり思い出せたらいいのだけど…
「…仮に約束をしていたとしても、マリアさんに確認もせずいきなりその態度は…男としては、」「トラビス、貴方に言えた義理はありませんわ。」と突然ピシャリとシャロンが話を遮った。
…そうだった、彼は初対面でシャロンに求婚したのだ。
痛いところを突かれ「あっ あの、その…」としどろもどろになるもシャロンは「ふふっ 冗談よ。」といたずらの成功した顔をしている。えっ!うわー!やられたっ、とトラビスは言いながらも嬉しそうだ。
「まあ、話はわかったよ。まだ決定ではないということだね。」との問いに頷く。
「それでマリアさんはどうしたいの?」おおっと、それ聞いてきちゃう?
どう答えたものかと考えていたら「トラビスそれはあとで私の方から。それに貴方の意見も聞きたいのよ。」事態は思ってる以上に複雑なの、とシャロンに答えを持っていかれた。
トラビスは「わかった。シャロンがそう言うってことは相当なんだね?」とシャロンと頷きあっている。
そこへ「お話し中、失礼致します。」とアシュクロフが割って入ってきた。
「どうしたの?」「サーザラン侯爵家から迎えが来ております。『荷物が届いたから戻るように』との言伝です。」
「あ!忘れてた!今日届くよう手配していたんだった。」とトラビスが声を上げる。
「……もう何も驚かなくなってきましたわ…」と若干の疲れを滲ませるシャロンが少し可哀想になる。
「また次は儀式の日ね!」「えぇ、楽しみにしているわ。」と抱き合っていたら「僕もいるから!忘れないで!」とシャロンを取られた。
じゃあ気を付けてね、と手を振り馬車が出ていくのを見送る。
見送りながら「……いぃなあ…あんな彼氏欲しい…」と呟くと、
「─何か言いましたか?」とすぐ近くでアシュクロフの声がして思わず後退ってしまった。
「…なんです人を化物みたいに。」「だからびっくりさせないでって!」もう、本当びっくりした……独り言聞かれてしまっただろうか?
というかすごく近くて胸がドキドキする。
自覚した途端これなのだから恋とは厄介だけどこのドキドキは、嫌いではない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「────というわけなんですの。」
「なるほどね……それは確かに複雑だ…」
「…1番の問題はあの子が知ったとき、嫌いになってしまわないかなのよ。
時機が難しいわ…おそらくあちらもそれがわかってて……」
「………それは、僕たちには何も出来ない、出来ることはないと思う。」
「見守るしか出来ない、のですわね…」
「だから、彼女に何が起きても僕たちは彼女の味方でいよう。君の親友でもあるが僕の友人でもあるのだから。」
「そうですわね…あの子には幸せになって欲しいわ。私が今ここに在るのはあの子のお陰だから。」「うん…」
「何はともあれ、応援してあげないとね。」「…どなたを?」
「んー…全員!だって──」
「…! ふ、ふふ。まあ、確かにそうね──」




