22. 女子会と秘密の話。
同じ、苦しみ……はははこやつめ!と睨むもシャロンは素知らぬ顔だ。
そう、淑女教育は苦しいのだ。…と言っても受けている教育しか知らないのだけど。
おおよそはいわゆる花嫁修業なのだけど、モノによっては指の爪の先まで指導されるのには驚いた。
思い出してしまって遠い目をしていたら
「マリア。意識飛んでますわよ。」とのツッコミでハッとなる。
「あの日々を思い出してしまったわ…」「まあ、ツラかったものね…」と2人でお互いを讃え合う。
「でもあれら、まだ易しい方らしいですわよ。」「ハァ?!」
「外国で一応通用する程度のものらしいですわ。だから私はまだ教育を受けてますの。ほら、我が家は貿易も担っているでしょう?より完璧を目指して舐められないようにしますの。まだ外国には"女のクセに"と仰る方々がいるから。」とシャロンは呆れ顔だ。
我が国は跡目を継ぐのは本人の意思が優先されるが、男女関係なく"長子"。これは王族であってもそうで、初代と先代は女王だ。
本人の意思優先、例えばサラはコルネル伯爵家の長子だけどウィルフレッドと結婚したから彼女の弟が跡目候補。あとはシャロンのお母様は兄がいるそうだけどおば様が現当主だ。
これらは諸外国からするとかなり特異らしく、近隣国は慣れたものだけどたまにちょっと遠くから来た人とかは女当主を舐めてかかってきたりする。(そのたびに手酷く扱われて逆に"目覚める"人がいるとかいないとか。)
「シャロンはすごいわね。私なんてもう、妥協したわ。」
テーブルにぺたーと伸びるも、はしたないと頭を小突かれた。
「お母様のようになりたいからよ。私の努力で少しでも近付けるならなんでもやるわ。」
シャロンのお母様は兄上から自分の方が相応しい、と当主の座をもぎ取ったと聞いている。確かにおば様になってからサーザラン家はさらに発展したらしいし。
「ところで。だいぶ話が逸れたけれど、まだまだ聞きたいことはあるのよ?」
と前のめり気味に聞いてくるのでお茶を飲みながら首を傾げ、視線で続きを促す。
「─アシュクロフさんに恋人役を頼んだってどういうこと?」
ぐふっと思わずお茶を噴き出しそうになった。
「ゲホゲホッ……いや、それは…その……」「目が泳ぎすぎよ。」
お菓子を口に運びながら、きっちり説明しなさいな?と有無をも言わさないつもりのようだ。
「いやあ、その……色々考えたら、ね?──私、アシュがどうやら好き、みたいなの。」顔が赤くなるのが自分でもわかる。
対してシャロンは「─今更ですの?」
「え。」「確かに、それなりの年数かなり近い位置にいるから意識しないのも無理はないわね。」とお茶を飲んでいる。
シャロンは生まれたときから一緒にいるから"あの事情"は知っている。アシュクロフが来た経緯も。
「自分でも気付いていなかったの?マリアがアシュクロフさんと話しているときが一番、自然体で楽しそうよ。」
シャロンにそんなふうに見られていたなんて、恥ずかしい。
「──だけど、」
「私はおすすめしないわ。彼のこと。」
「え…… ふ、普通は、親友なら応援してくれるところじゃないの…?」
一体何の感情かわからないが何かが湧き上がってきて声が震えてしまう。
「そうね。普通はそうでしょうね。」
シャロンがひどく知らない人のように見える。
そっと肩に手を置かれ「……マリア。私はいますぐそれを止めろとか言うつもりはさらさらないわ。応援したい気持ちは本当にあるの。それはわかって?」と下がり眉のシャロンにこくりと頷く。
「でもね、ヴィンセント殿下のことを知ってからでもいいと思うの。…もう10歳以降、そしてあの夜会以降もお会いすらしてないのでしょう?
貴女は今、いわゆる"食わず嫌い"状態よ。」と諭される。
─それは、確かにそうだった。
『親戚のお兄さん』感覚だった人から会わなくなって何年も経つのにいきなり求婚され蓋を開けたらすでに婚約者で、なんて急展開すぎて気持ちがついてきていないのが正直なところだ。
「時間はあるのだからゆっくり考えたらいいわ。あちらも6年待ってるのだから今更、さらに待たせたってあまり変わらないわよ。」と言われちょっと気持ちが楽になる。
「そうね…それは、そうだわ。」「そうよ。だいたい手順すっ飛ばしてくるほうが悪いと思うわ!いくら顔が良くて王子だからって男女交際を何だと思ってるのかしら。」
「シャロン…それは言い過ぎじゃ……」「よっぽど私のトラビスのほうが大人だったわ!」
何気に惚気をぶっこんできたわね…
「私のトラビスはね…」「待った!もう時間かもしれないからお手洗い行くついでに確認してくるわ!」と席を立つ。
「…わかったわ。」不服そうだがシャロンのトラビス自慢は長いので止めさせて貰う。
「じゃ、行ってくるわね」と手を振りながら後にする。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──なんとか喧嘩にならなかったようで安心した。
しかしあれはわざと、だな…さすが次期侯爵。すごい手腕だ。
さ、気付かれない内に───
「いつまで隠れてますの?」
急に声をかけられてびくりと身体が固まる。
他に誰かいるのだろうかと周囲の気配を探るが
「貴方以外、他にいないわ」……これは見つかっている。
仕方がないので影から出ていく。
「──いつからですか。」「わりと早く。そちらに現れたくらいからですわ。」
つい舌打ちをしそうになって止めた。
「結構、自信あったんですけど…」
「普通なら気付かないでしょうね。現にマリアはまったく気付いてませんわ。」
真っ直ぐと見つめられるも目を逸らせない。
「─まさかとは思ってましたが、やはり……」と納得した様子の彼女。
「貴女は、どこまで知っているのですか?─シャロン様。」
「正確には、知りませんわ。─アシュクロフ様。」
「まあでも…今納得しましたわ。 あ、もちろん内緒に致しますわよ。」とニコリと笑顔を見せる。
「それは、ありがとうございます。」こちらもニコリと笑顔を貼り付ける。
「ですが。─マリアを泣かすような真似をしましたら、」
「──容赦しませんわよ?」
あまりの気迫にヒュッと息を呑む。
「…肝に、命じておきます。というか、わかっていながらよくそこまで言えますね。」と素直な疑問をぶつけてみるも、
「私、マリアが誰よりも大好きなんですの。ですから彼女の幸せのためなら─やぶさかではありませんわ。」
「………貴女が、一番の強敵のようだ。」
ふっ、と自嘲がもれる。
「ふふふ。どうぞご健闘を、お祈りいたしますわ。」とふわりと笑う彼女はとても15歳には見えない。
と火花を散らしているとマリアが近くの窓から顔を覗かせた。
「あれ、アシュここにいたの? シャロン、そろそろ時間みたい!」
「わかったわ。」「…ご案内します。」「ええ。」……
若干の白々しさを含みつつ2人でマリアの元へ向かう。
採寸を行う部屋に案内し、キャイキャイとこれからを楽しそうに話している2人の姿を微笑ましく思いつつその場をあとにする。
「──さすがと言うべきか…『情報も商品』ね……」
淑女教育の下りは悩んだ挙げ句、ぼやかしました…




