21. 女子会のゴングが鳴る話。
シャロンvs.マリア
ファイッ!
「相変わらずこの時期のこの庭、綺麗ね。」
「まあ、みんな土いじり巧いから?」
今は日本で言うところの春先にあたる。
そのため庭には様々な花が咲いている。それこそよく見る花から、野に咲く名も無き雑草のような花まで。
四阿のテーブルにお茶とお菓子が準備されていくのを横目に庭を2人で眺めていると
「では、ごゆっくり。」と礼をし、アシュクロフが去っていく。
普通ならちょっと離れた場所で待機、とかするのかもしれないけれど私とシャロンはほぼ完全に2人きりになる。屋敷からもよく見える四阿だし給仕も自分たちでやってしまうから平気なのだ。
まずはお茶を一口、2人して同じタイミングで飲む。
ふぅ、とひと息ついてから
「それで?あのあと何がありましたの?」
とシャロンが切り出した。
「何、と言われても…ね……」色々ありすぎて何から話そうか…
「…噂が、流れてますのよ。」「噂?」シャロンがこくりと頷きながら続ける。
「"ヴィンセント殿下の長年の想い人はマリア"だって。」
………へ?
「だって殿下、今まで婚約者はおろか恋人のこの字も無かったのに突然、マリアをダンスに誘いあまつさえ聖女からの申し出を退けてまで貴女をどこかに連れ出したのよ?─噂にならないはずがないわ!」
「そ、そうなの…?」「そうなの! それに殿下が今まで婚約者を作らなかった理由、ご存知?」
ふるふると首を横に振る。
「"長年好きな人がいて、その人にフラレたら考える"と仰ってるのよ。」これは王宮に出入りしてる者から聞いたから間違いないわよ、と鼻息の荒いシャロン。
………これは、イチから話す以外無いわ…
ヴィンセントが私をどう思っているか云々は別として。
はあ、と息を吐き
「あのね、シャロン。絶対に内緒にしてね?」約束よ?とかなり念押しする。まあ、シャロンも商売人の娘なのでそのあたりは堅いのはわかっているが。
「大丈夫よ、絶対内緒にするわ。私の次期当主人生賭けてもいい!」と拳を上げながら息巻くシャロンをいやそこまではしなくていいわ、と宥めつつ話し始める。
「──実はね、」
ヴィンセントの"仮の"婚約者であること。
そしてなぜ婚約者になってしまったのか。
白紙にしたいためアシュクロフに"恋人役"を頼んだこと──
「─なぜそこまで、殿下を嫌うのかしら?」とシャロンが焼き菓子に手を伸ばしながら聞いてきた。
「…なんでだろう?─とりあえず私がお妃様業とか無理じゃない?」私もお菓子を口に放り込む。
「無理、ねえ………」「なによ。」
私は将来、農作業をしながらのんびり暮らしたいのだ。
お父様お母様、次期当主のウィルフレッドとサラ…彼らを手伝いながら。
そしていつか、好きな人と結婚して好きなことをやりながら老後を迎えたい。
お茶を飲み終えたのかポットから新しくお茶を注ぎながらシャロンが口を開く。
「私は、無理だとは思わないわ。マリアが妃になるの。」
「え。 こ、根拠は…?」そんなわけないじゃーんと思いつつ、シャロンはあまり嘘をつかないことも知っている。
「というか今の話を聞いて色々合点がいきましたわ。特に、アイリーンおば様の思惑が。」にやっとした顔を向けるシャロン。
お母様の、思惑…?
「そう。マリアは知らないようだけど、私の家で一緒に淑女教育受けましたでしょ?
あれ、妃教育と同程度の内容よ。」
ぽかんとしてしまう。聞き間違いだろうか?
「は、い……?シャロン様、今なんと……?」
「諦めなさい。おば様の戦略勝ちよ。」とピシャリと言われる。
澄まし顔でカップを口に運んでいる姿が恨めしい。
──妃教育と同じレベル?
確かに数年前、シャロンの家で一緒に淑女教育を受けていた。
バラバラにやるより一緒にやったほうが効率がいいしやる気も違うだろう、と私もそっちがいいと了承した。
同年代の令嬢も数人いるがほぼシャロンとしか遊ばないから教育の内容が違うだなんてまったく気付かなかった。
「え、でも妃教育とか王宮から先生が来るような話じゃないの?そんなことなってるならもっと噂とか…」
「王宮から来て下さってるわよ。─ただし、グランツィア国の王宮から。」
──グランツィア国。我が国のすぐ隣に接している国のひとつで国同士の仲はとても良く、毎年何人も魔法学園へ生徒がくる。
そして、シャロンの婚約者がいる国だ。
「は…まさか、シャロン…!」ある可能性に思い当たる。
「気付いた?そう、トラビスに頼んだのよ。」
だあぁ!やっぱり!それじゃわからないはずだわ!
「職権乱用なんじゃ…」「何を言っているの?私は次期侯爵、婿は元王族…それなりの教育を施さなければ未来の旦那様、果ては侯爵家に恥をかかせることになるわ。」
「だからって私も巻き込むなんて…」「言い出したのはおば様よ。まあ、私も『同じ苦しみを』って気持ちがあったのは否定しないわね。」とくすくすと笑っている。




