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私の執事の秘密のオシゴト。  作者: ruka
本編
18/135

17.


「何やってんだ俺……」

1人になった部屋に呟きが落ちる。


はぁーー…っと深く息を吐き、ふらふらと寝椅子(ソファ)へと移動しゆっくりと腰を下ろす。


──どう、するかな……


これからを考え、少し頭を抱える。

マリアはヴィンセントとの婚約を白紙にしたいのだろう。だから俺に恋人役を頼んできた。

正直、頼られて嬉しかったし下心がなかったとは言い切れない…が……


「こっからどう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()か──」


…たぶん、別にマリアと恋人ごっこを継続して婚約が白紙になったらなったでそのまま()()結婚まで持ち込むことは出来る。幸い我が国ではたとえ貴族と平民であろうとも身分差婚など問題にならない。

でも、これはそういう問題ではない。

なんとかマリアの視線をヴィンセントに向けなければならない理由が、ある。


「……とにかく今はお嬢に()のことを地道に知ってもらう以外に道はなさそうだな…」

ではそのためにはどうしたら良いのか?

─まずは今度行われる立太子の儀の際にあちらから声をかけて貰うべきだろう。

そうしてヴィンセントはマリアに気がある、と強く周囲に印象づける…いわゆる"外堀から埋めろ"だ。旦那様と奥様にも話して協力して貰わなくては。

他には…ああして…こうして……──


うむうむと色々考えていたのだがふとマリアがそろそろ戻ってくる時間だと気付く。

「さて、今日は何の香り(フレーバー)にしましょうかね…」と茶葉の缶を眺めていく。

「うーん…カモミールにするか。」よく眠れるように。

よしっ、と準備をしていく。


やかんの水を魔法で沸かし、茶葉の分量・蒸らし時間などを計算しながら淹れていき最後に、淹れた紅茶を魔法で冷やす。

そう、冷やすのだ。これはマリアがお風呂あがりは熱いのは嫌というワガママから始まった。ぬるいと冷たいの中間にして、というかなり高度な要求と共に─。


俺も魔法は使える。(というか全国民、大なり小なり使える)

しかしそんな細かい操作などしたことなかったから初めはかなり失敗した。でもお陰で今ではすっかり微調整出来るようになった。─はっきり言って他に使い道はないんだがマリアが喜ぶからそれでよしとする。


「…まあこんなもんかな。」と冷やし終わるくらいでマリアが戻ってきた。

「ふぇ〜、お風呂気持ちよかった〜」と近寄ってくるので出来たばかりの冷やし紅茶を渡す。

お風呂上がりの石鹸のいい香りがふわっと鼻孔をくすぐった。

慌てて心の中で頭を振り、どうぞと笑顔を貼り付ける。

「ありがとう! はぁーさすがアシュ、完璧ね。」なんて言いながら美味しそうに飲んでいる。…今日もお気に召したようだ。


「じゃ、俺はこれで失礼しますよ。」と話しかけると「うん、色々とありがとう。」と眩しい笑顔を向けられ、ドキリと心臓が跳ねる。

マズイと思い、急いで部屋を後にする。

「ではおやすみなさいませ。」「おやすみなさい。」

いつもしている挨拶なのに心臓の音がうるさい。


急いで自室へ滑り込み、そのままずるずると腰を下ろす。

「〜〜っ 俺の気も知らないで…!」

痛む胸を押さえながら、自分のしでかしたことを少し後悔した。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふぇ〜、お風呂気持ちよかった〜」


お風呂から上がり部屋に戻るとアシュクロフがいつもの冷やし紅茶(アイスティー)を用意して待ってくれていた。

これは私が『お風呂上がりはぬるいと冷たいの中間の紅茶が飲みたい!』というワガママにアシュクロフが応えてくれた結果出来た代物だ。

初めは調節が上手く出来なくて失敗ばかりだったけど、すぐにモノにしていた。

「ありがとう! はぁーさすがアシュ、完璧ね。」と言うとすごく嬉しそうにしている。

じゃあこれで、と出ていこうとするので慌てて「うん、色々とありがとう。」と笑顔で告げる。

「ではおやすみなさいませ。」「おやすみなさい。」

いつもの挨拶だけど…なんか幸せな気持ちが心に広がる。

…自分の気持ちを自覚したからだろうか?



さて、髪をまず乾かそうと"ドライヤー、ドライヤー"と頭の中で唱えながら魔力を込める。そうするとふわりと髪が乾くのだ。

それから化粧台に座り、スキンケアをしていく。


この国の魔法は基本的に"想像力"で使いこなす。威力は魔力量で変化する。

例えば『コンロに火をつける』『コップ1杯の水を出す』『扇風機弱くらいの風』etc.このあたりは小さな子供から使える。というか使えない人がいないくらいの魔法だ。

次レベルは『枯れ葉の山に火をつける』『桶1杯の水を出す』『扇風機中くらいの風』etc.このあたりは平民で魔力量が多い人が使える。貴族にもこのレベルの人がいる。シャロンはこのレベルで、先祖に平民がいると出ることがあるらしい。

その次は『炎の柱を出す』『お風呂1杯の水を出す』『扇風機強くらいの風』etc.平民の一部と大半の貴族が使えるレベル。ちなみに我が家にはお風呂の水を溜めれる平民出身の使用人がいる。あとドライヤーもこのレベル。

そして『一帯を焼き払う』『川のような量の水』『台風のような突風』etc. …これらは王族や騎士団長を始めとする一部貴族が使えるらしい。

らしい、というのもこれらはいわゆる"攻撃魔法"扱いだからだ。

学園で授業もあるし騎士団で訓練も行われているが見たことはない。

…私もまだ、試したことない。学園に入学したら最初、魔力量を見るために目一杯の力で撃てるらしいから楽しみにしている。

子供の頃、治癒魔法でぶっ倒れた私だけどあれから成長し今ではドライヤーレベルの魔法を使っている…だけどどうもそれ以上使える気がする。

だってどう考えても『完全回復(フルケア)』はドライヤーレベルではないでしょ…


夜半、侯爵家のある一室。


「──ということになりました。」

「────。」

「ありがとうございます。

なのでしばらく見守っていただければと思います。」

侯爵夫妻は頷いている。

「つきましては今度の儀式の日──」



「……これで、良かったのかしら。」

「ここまでしてくれた彼を信じるしかないだろうな……」


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