16. お願いされる話。
「…で?実際どうなんだ?」と今まで黙っていたジョセフが聞いてくる彼も少し怒っているようだ。
──どう、したらいいのか正直わからない。
マリアからは何も聞いてないし言われてもいない。うーん…と考えていると
「ま、待って! …私から迫ったのだからアシュは悪くないわ!それに…昨晩のこと、伝えてないから」とマリアが慌てだすが、「迫ったってなんだ!マリアまさかお前…!」「まだ何もないわよ!!って違うそうじゃなくて…!」「なにが違うんだ!」……
ウィルフレッドとマリアの口論が始まってしまった。内容は…それ、普通は父娘がする内容じゃないか?と思うようなもの。
……面白すぎて笑いが耐えられない。なんとか声を出さないように手で口を押さえる。
見ると奥様も笑っていて、サラは可哀想になるくらいオロオロしている。妊婦さんなのであまり心労をかけたくないな。
と旦那様が「もう止めなさい。」と兄妹喧嘩に終止符を打つ。
それで我に返ったのかマリアの顔がみるみる赤くなった。
「と…っ とにかく!昨日の今日なのだからもうちょっと時間を下さい。」
「まあ…それもそうだな。ウィルフレッドも、いいな?」と旦那様に促されウィルフレッドも引き下がった。
「…しょうがないわね。今日のところは許します。けれど近いうちに必ず、説明して貰うわよ?」と奥様から釘を刺されているマリア。俺にも説明してくださいね?お嬢。
ウィルフレッドとサラがおやすみなさいと部屋を後にするのをおやすみなさいませ、と見送る。
ウィルフレッドが俺に「アシュクロフ、間違い起こしたら許さないからな。」とでかい釘を刺していく。…言われなくてもわかってます。
ジョセフとマリアも部屋を出ていくようなのでしれっと俺も出ていく。
…旦那様をちらっと見たが眉を下げるだけで特に何も言われなかったからいいのだろう。
談話室を出てしばらく歩くと「まあ、そのなんだ。…あんま無茶とか無理すんな。」助けが必要だったら出来る限り力を貸すから、と頬をかきながらジョセフが語りかけている。
「ジョセ兄様……ありがとう!」「兄貴だって、アシュクロフのこと嫌ってる訳じゃないと思うぜ。急なことで混乱してあんな言い方になったんだろ。」と俺の方を見るのでニコッと笑っておいた。
兄貴はマリアのこと義姉さんとは別次元で溺愛してるからなー、ははは。と笑うジョセフ。なんだかんだマリアのことが可愛い兄弟なのだ。
マリア(と俺)の部屋は屋敷の端の方にある。
うなされるマリアが迷惑をかけたくない、と自ら移ったらしい。
…隣室であって同室ではないぞ決して、と心の中で誰ともなく言い訳をする。
黙々と歩くマリア。たまに頭をひねったりため息をこぼしたり顎に手をやったりしているから考え事をしているのだろう。だから俺も黙って付いていく。
……部屋に着いたのだがマリアが扉に手をかけたまま固まって、ぶつぶつとなにか呟いているようだが…
埒が明かないので声をかけることにした。
「お嬢、部屋に入らないんですか?」と声をかけると
「ひゃぃ?! ちょっと!びっくりさせないでくれる?!」
…驚いた顔とか久しぶりに見たかもしれない。ちょっと嬉しい。
「扉に手をかけたままなんかぶつぶつ言ってるので気が触れたかと。」
「そんなわけないでしょ?!……ちょっと色々ありすぎていっぱいいっぱいなのよ!」だいたいはお嬢が引き起こしてると思いますが、と言いそうになって止めた。
扉を開けてやり部屋へと入るとティアナさんが就寝の準備をしているようだった。
「ティア、いつもありがとう。」と声をかけるマリア。
昔から使用人相手であっても仕事に対してお礼が言えるマリアは素直にすごいと思う。
ティアナさんと着替えやお風呂の確認をしているようなので俺はこのあとの時間を考え準備をしているとティアナさんが部屋を出ていくのが見えた。
普通なら男女2人きりにしないのだろうが俺とお嬢は別。…ちょっと優越感。
カップを持ちながら、マリアの向かいに座る。
いつだったかマリアがこういう時間が欲しい、と要望を出してきたので今だけは"お嬢様と執事"ではなく"ただの人"として接する。
「で、お嬢。なにか俺に言うことは?」と俺から切り出すとしばらく逡巡し「ご、ごめんなさい…… 実は──」とマリアがようやく話し出す。
とりあえず最後まで口を挟まず黙って聞いておいた。
「──と、いうわけで……… あの、だから、恋人のふりをして欲しいの!」と上目遣いで頼んでくるマリア。
……その顔、俺以外に絶対見せるなよ、と独占欲丸出しなことを思ってしまう。
「……な、なによ…」「いいですよ。」
──"ふり"とはいえ俺のものになるなら─
「嫌なら別に──えっ?!…い、いいの?」パァッと明るくなったと思ったら刹那、困惑顔になる。
「俺は構いませんよ。─それで、お嬢の役に立てるなら。」ニヤけそうになるのをカップで隠す。
「本当にいいのね?…あとからやっぱ止めた、はダメだからね?」と確認してくる彼女に「大丈夫ですよ。そんな、途中で放り出したりしません。」と返すが「信じるからね?」と念押ししてくる。「…そんな信用ないんですか俺」とジト目を向けてみるとたじろく。
「いや、そういうワケじゃないけど…よくこんな、突拍子もないこと受けてくれるな、って……」と、しどろもどろになっているので「…まあ、お嬢…あんまりワガママとか言わないんで、それくらいならお安い御用です。」と笑顔で助け舟を出しておく。
…あ、なんか今ドキッとした顔したな。
「あ、えと…じゃあ、これからよろしく、ね?」とすごく恥ずかしそうに言う。自分から言い出したんでしょうが……
「こちらこそよろしくお願いします。」…満面の笑みで言いそうになってしまったので顔に力を入れ答えた。
「それで具体的には何したらいいんですか?というかもう学園通うのですからこれから忙しくなるのでは?」
「あー……そう、ね……」たしか、魔法学園への入学はもうすぐだ。
「──まずはお父様たちに説明して…」
「旦那様たちへは俺から説明しましょうか。」
「えっ、いいの?」「というかお嬢だと巧く説明出来ないでしょう?」
マリアは昔から説明が下手だ。それに…
「あと嘘をつけない。」ふっ、と笑ってしまうも「うぐっ……」という声が彼女からもれる。図星だったらしい。
「じゃ、じゃあお願いする…わ…」「わかりました。…と、そろそろ時間ですね」
いつもこれくらいの時間でこの楽しい時間は終わる。少し寂しく思っていると扉が叩かれマリアが返事をするとティアナが顔を出しお風呂ですと告げてくる。
「じゃあよろしくね。」と言いつつマリアが部屋をあとにするのを立ち上がって見送り、扉が静かに閉まっていくのを黙って見つめていた。
基本的に10〜13話をアシュクロフから見たというだけの視点です。
関係性を描ければと思ったのですが…




