15. 確認される話。
「…い、痛いっ やめ…っ もう、やめて……っ」
マリアのうなされる声でハッと現実世界に意識が戻る。
「お嬢っ!!」と、強くマリアを抱き締めると目が覚めたのか「──ぁ……」と声にならない声がもれる。
身体がひどく震えているようだ…少しでも気分を変えてあげようと「…お嬢、なんでそんなとこで寝たんですか…」とわざと呆れ声を出してみた。
「……アシュ。」「なんですか?」
はく、と何かを言い淀むマリア。
「……なんでもない。」「…はあ? まあ起きて下さい。夕食の準備が出来てますんで。」…何を言おうとしたのだろう?
とりあえずマリアを立たせ、身支度をしてやる。…今日は髪を結ってないのだな、と思わずさらさらと梳いてしまった。
「はい、大丈夫ですよ。綺麗になりました。もう皆様食堂にお揃いです。」と告げると
「ありがとう。なら急いで行かなくちゃ。」なんて言いながら走ろうとするから走っちゃだめですよ!と声をかける。
「もう子供じゃないんだからそんなことしない! …早歩きはするけど。」…拗ねた顔が可愛い。
「別に夕食は逃げませんし、皆様も怒らないですよ。」
「私が早く行きたいの!」
ふっ、と笑いそうになるのを堪えながらそれが子供っぽいんですよ、なんて言うと睨まれたが睨んでくる顔も可愛いので痛くも痒くもない。
家族揃っての食事中、特に夕食のときは給仕をする必要がないので俺たち使用人も専用の食卓(といっても調理場の片隅だが)で夕食をとる。
その時に、この2日間のマリアの様子を聞いておく。…昨晩は確か、デビュタントの夜会だったはずだ。
「ティアナさん昨日、お嬢なんかありました?」彼女もまたマリア付きの侍女だ。
「ああー…すごい暗い顔でご帰宅されたのよね…理由は、まだちょっと聞いてないんだけど。」とお土産だという肉を頬張るティアナ。
「ふーん… 何があったんだろ……」俺もサラダを口に運ぶ。相変わらずこの家は野菜が美味しい。
「あ。夢は見てないみたい。2日間とも朝はすっきり起きていらしたわ。今朝なんてだいぶ寝坊してた。…昨晩かなりお疲れのご様子だったから。」「そっか。ありがとうございます。」
それから他愛もない話しをし、こちらも夕食を終える。
食堂の様子を伺うと談話室へ移動されるようなので飲み物の準備をし俺たちも向かう。
紅茶やお酒など、侯爵家の皆様へいつも食後の団欒で飲まれるものを準備をし少し離れたところで待機をするとマリアが話をしだした。
「お母様、私思い出しました。」
「……あら、あらあらあら。そうなの?」
「ええ。あれ、王妃様のお茶会でやった"婚約式ごっこ"の話でしょう?違いますか?」奥様は素知らぬ顔でお茶を啜っている。
「お母様たちのことだからあらあらまあまあとか言って書面にしてしまったんでしょう?!」
「……バレちゃった?」「"バレちゃった?"じゃありませんよ!」と口を尖らすマリアが可愛い。
「…お父様は反対しなかったのですか?」
「──あー…まあ、"仮だから"と、言いくるめら」
知っている。旦那様は奥様には勝てない。
「そう、仮なのよ?マリアちゃんのデビュタントまでにお互い"良い人"がいなければ前向きに検討しましょう、って」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ!」
ここでウィルフレッドが声を上げたので俺も心の中でうんうんとその意見に同意する。
「一体なんの話をしている?仮とはなんだ?」と問うと旦那様が
「マリアがヴィンセント王子殿下の仮の婚約者という話だ。」
──使用人を含め、その部屋にいる者全員(旦那様と奥様以外)の顔がぽかんとなる。
微妙な空気の中、「マリアちゃんそれで昨晩の話、なんだけれどね?」と奥様が話し始める。
「アシュクロフとのことは本当なのかしら? ……本人がいるから確認してもいいんだけど。」
奥様がこちらに目をやるが知らんぷりをする。…俺とマリアのこと?一体なんだ?
が、無情にも「アシュクロフ、こちらへ来てちょうだい。」と呼ばれてしまう。
マリアがすごく慌てた様子でこちらを睨んでくるので、これは…"下手なこと言うなよ?"の意味だな。─お嬢はやっぱり可愛いなあ、とほんの僅かに口角が上がるが今は─
「お呼びですか、奥様。」「ええ、アシュクロフ 貴方──」
「マリアちゃんの恋人、というのは本当なのかしら?」
…さてどう答えたものだろう。
マリアは俺に一体何を求めているのだろうか。夕食前に言おうとしたのはこのことだろうか…
急いで考えを巡らせるがまあ、わからない。黙ったままでいる訳にもいかないので「…っ、俺は」──お嬢を大切に思っています。
と言おうとしたのだが急にウィルフレッドから「……は?アシュクロフお前、マリアに手を出したのかっ?!」と捲し立てられる。
…そんなわけないだろう?!この妹狂いめ。
「ウィル、落ち着いて。まずは話を聞きましょう?」と優しい声が聞こえ、「だけどサラ…!」「まだ彼は何も言ってないわ?」ね?と優しくウィルフレッドを宥める彼女にさすが若奥様〜と心の中で拍手を送った。
マリアがひたすら可愛くて仕方がないアシュクロフ。




