11. あのことを聞く話。
「そうそう、今日の最初の話題だったわ。
前までは二桁の厩舎が犠牲になってたらしいのだけど今回は10棟いく前に終息したそうよ。あとマリアちゃんが言ってくれた通りに厩舎の出入りの際の手洗いと靴の消毒を今後全畜産家に徹底させるって言ってたわ。」
「それなら良かったです。」「今夜のお肉はそれのお礼ですって。」通りですごく美味しいわけだ。
「直接お礼を言いたいそうだからお茶会を催そうと思うの。だから参加してくれる?」「わかりました。日にちは早めに教えて下さいね。」
レッダラム侯爵家には私と年が近い子供がいないため普段はほとんど関わりがない。なので会う時、少し気合がいるのだ。
「まひはは、」「ジョセ兄様、口に食べ物を入れたまま喋らないでくれる?汚い。」むぐっと黙り急いでもぐもぐと咀嚼するジョセフ。
ごくん、と飲み込みようやく口を開く。
「ふぅ… マリアはなんでそんなこと提案したんだ?」
「…家畜も私たちと同じ生きている物だから病院で患者さんを看病する感覚と一緒でいいんじゃないかと思ったの。病院では医師も看護師も消毒してから患者さんに接しているでしょう?」…ちょっと苦しい言い訳かな?細菌云々の話は出来ないからなあ。
「…なるほどな。消毒すると病が拡がらないのは判ってるからそれを家畜にもってことか。」ふーん、と納得しているようだ。まあ誤魔化せた、かな?
「マリアちゃんは本当に頭がいいわね。」とサラが褒めてくれる。
「そ、そうかな?」やだ〜照れる〜。えへへ…
「ふふ… あの野菜のスープの作り方だってそうよ。スープを具材ごと裏ごししてしまうなんて、誰も考えなかったわ。」
「そうだなー。驚いたけれど味も良かったしあれなら咀嚼が難しい人でも栄養を摂れる。」とウィルフレッドがサラの意見に同意している。
こちらにも栄養の概念がある。まあ、バランスよく食事をしたほうが身体の調子がいい…といった程度だけど。
「そうだマリア。その調理方法の記事の原稿が出来上がっているからあとで確認してくれるか?」
「はい、お父様。」領地会報紙にようやく載る。サラの様子を見て良しと判断したのだろう。
その後も他愛のない話をしながら和気あいあいとした雰囲気のなか夕食が進む。
「─ご馳走様でした。 さすがにお肉、すごく美味しかった…」顔が緩んでしまう。
「普段食べている肉も美味しいがやっぱりこう、違うな。」うんうんとお父様も嬉しそうだ。
「義姉様の食べていた煮込みハンバーグも美味しそうだったわ!」ね?っと義姉様に同意を求めるとにこっと笑顔が返ってきたので美味しかったようだ。
場所を談話室に変え、家族団欒の時間を過ごす。
さて、ではあの事を聞きますか。
紅茶を一口、口に含み喉を潤してから切り出す。
「お母様、私思い出しました。」
「……あら、あらあらあら。そうなの?」カップを口に運ぶ仕草が優雅だ。
「ええ。あれ、王妃様のお茶会でやった"婚約式ごっこ"の話でしょう?違いますか?」思わず、ずずいっと身を乗り出す。
「お母様たちのことだからあらあらまあまあとか言って書面にしてしまったんでしょう?!」不機嫌さを隠すように紅茶を一口飲む。
「……バレちゃった?」「"バレちゃった?"じゃありませんよ!」もー!
「…お父様は反対しなかったのですか?」お父様は私が農作業好きなことを知っている。将来家のことを手伝いたい事も。
「──あー…まあ、"仮だから"と、言いくるめら」
お母様から睨まれて言い淀むお父様。
「そう、仮なのよ?マリアちゃんのデビュタントまでにお互い"良い人"がいなければ前向きに検討しましょう、って」
ちょっと拗ねたような顔をするお母様があざと可愛い…
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ!」
ここでウィルフレッドが声を上げる。
「一体なんの話をしている?仮とはなんだ?」とお父様とお母様の顔を交互に見ている。
お父様が、
「マリアがヴィンセント王子殿下の仮の婚約者という話だ。」
と告げると一気にウィルフレッドとサラ、ジョセフの顔がぽかんとしたものに変わる。…そうなるわよね。
「ヴィン、セント殿下というと…今度立太子され、る…?」恐る恐る聞くウィルフレッドにこくりと頷くお父様。私にも目を向けてくるから同じく頷く。
微妙な空気の中、「マリアちゃんそれで昨晩の話、なんだけれどね?」とお母様がカップをソーサーに戻しながら話し始める。
「アシュクロフとのことは本当なのかしら? ……本人がいるから確認してもいいんだけど。」傍に控えているアシュクロフにちらりと目をやるが、聞こえているはずだけれど澄まし顔を続けるアシュクロフ。
だが「アシュクロフ、こちらへ来てちょうだい。」とお母様が呼ぶ。
──まままま待って!まさかここで、みんないるのに聞くの?聞いちゃうの?!…とりあえず下手なこと言うなよ?の気持ちを込め睨んでおく。…目が合ったときにほんの少し表情が変わったから伝わった、と思いたい。
「お呼びですか、奥様。」「ええ、アシュクロフ 貴方──」
「マリアちゃんの恋人、というのは本当なのかしら?」
まだなにも事前に仕込んでないんですけどー!という私の気持ちとは裏腹にお母様が静かに切り出した。
侯爵家はカカア天下。




