路地裏、戦い
人で溢れかえっていた大通りから、何本か外れた道を四人は歩いていた。
「さっきまでが嘘みたいに、人がいないな」
「そうですね。ここらへんは、商業区の中でもお客さんを選ぶ店が多いですから」
「どういうことだ?」
「簡単に言えば、貴族が立ち寄る店が多いんだよ。あとは、アンティークとか掘り出し物を探す人とかかな」
「なるほどなー。じゃあ、値が張ったりするのか?」
「まあ、ピンからキリまでですね。高いものだと、騎士さんが一生かけても払えないほどのものなんかもあります」
「騎士って儲からないのか……」
「王都で十分に家庭を持てるくらいは、稼げますよ」
「一般的には高収入に分類されるよ。ただ、貴族とかが規格外なだけで」
「よかったー」
「あっ、そうだ。マキナさん、ヒイラギさん。この通りは人が少なくていいですが、くれぐれも、単独行動をしないように」
「なんかあるのか」
「ええ、この通りの路地の方には、法に触れかねない、店などがあります。わかりやすい例を上げれば、奴隷屋なんかです」
「奴隷……」
「ええ、しっかりとした店もありますが、確実にアウトなルートで奴隷を入れている店もあると聞きます。一人でいたら、もしかしたら攫われる、なんてこともあり得ますね」
「奴隷って、どういう扱いなんだ」
「本来ならば、正当な契約を結んで、使用人や後継者として連れて行くというかたちで扱われてます。法にのっとっていれば、奴隷に落ちざるを得なかった人たちに、新たな生き方を与えます」
「この国は、いい国なんだよ。ただ、やっぱり、闇もあるわけで……」
「法に則っていない場合の奴隷は……」
チマリが、その先を離そうとした時、四人の真横にあった、路地の向こうから、叫び声が聞こえた。
「叫び声、それも子供の声だ!」
「どうする、ヒイラギ」
「どうするも何も、行くしかないだろ!」
ヒイラギが、路地に向かって走り出そうとする。
チマリは、それを呼び止める。
「待ってください!路地の向こうは危険です!」
「じゃあ、ほっとけっていうのかよ!」
「そうはいってません。しっかりと、何があっても対応できる準備をしてください!」
ヒイラギは、コノハを箱から取り出し、構える。
「もし、戦闘になっても、飛び出さないでください。そうすれば」
「うん。私のそばにいれば、私のスキルで守れる」
「そのとき、俺はどうすれば?剣のリーチ的に路地はきついぜ?」
「スキルを使ってもらいます。あとは、随時対応しましょう」
「よし、じゃあ、急ごう!」
四人は、闇の広がる路地の向こうに走り出した。
✴︎
路地を走り、何度か曲がり角を曲がったところで、もめている声が聞こえ出した。
「あそこだ!」
ヒイラギが叫び、姿を捉える。
そこには、暴れる小さな女の子を地面に押さえつけている男がいた。
「ッチ!てめえが、でけえ声で叫ぶから人が来たじゃねえかよ!このガキ!」
そう言って、男は少女を殴りつける。
「っ!うぅ……助けて」
少女は、小さく声を絞り出し、ヒイラギたちに助けを求め、そして、気絶した。
「ヒイラギさん!」
「分かってる!」
ヒイラギは、少女に当てないように、細い魔法の矢を何本か練り上げて、男に向けて放つ。
男は、少女を抑える手を離し、魔法の矢を殴り落とす。
「ハッ!なんだ!しょべえじゃねえか!」
そう言って、ヒイラギたちを再度見ると、タンポポの姿がないことに気づく。
「あ?ッチ、一人どこに行った」
「後ろ」
タンポポは、ダンデライオンのスキルで男を弾き飛ばした。
「てめ!いつのまに!」
ヒイラギが魔法の矢を放つと同時に、こっそりと綿毛のスキルをつかって、跳躍し、男の視覚の外から、背後にまわっていたのだ。
「マキナ君!」
「おう!」
マキナは、空流のスキルを使い、少女を中に浮かべて、ヒイラギたちのもとに寄せた。
「ナイスです!」
チマリが、少女を受け取り、しっかりと抱きしめる。
タンポポも、再び跳躍をし三人の元に戻る。
「さて……お前は、何だ」
ヒイラギが、男に向かって問いかける。
「あぁ!?そっちこそなんだよ!ウチの商品を奪いやがって!」
男は、起き上がり、懐から小さな箱をとりだし、それを握りつぶす。
「奴隷商、ですね。多分、法に触れる方の」
「……早速、出くわすなんてな」
「何ごちゃごちゃ喋ってんだよ!!ガキが!その商品はな特別なんだよ!」
男がそう言うと、男の後ろの方の路地から、何人も剣を携えたならず者たちがあらわれた。
「ぜってえ、返してもらうからな!」
ヒイラギは、コノハを構える。
「タンポポ、チマリ、今すぐ、その子を連れて行け」
「しかし」
「この路地のことは、あいつらの方が知っている。回り込まれたらおしまいだ」
「……分かりました」
「えっ、でも」
「ヒイラギと、俺にここは任せとけって」
「タンポポちゃん、行きましょう」
「……うん。ねえ、絶対に無理しないでね」
「分かってるって」
チマリと、タンポポは、少女を抱えて、建物の上に逃げて行った。
「ッソガ!あの女どもを追え!」
男の言葉に従って、何人かのものが上に向かおうとする。
しかし、ヒイラギの矢により撃ち落とされた。
「さて、俺たちは、あいつらが逃げるまでの時間稼ぎだ」
「なあ、ヒイラギ」
「ん?」
「あいつら、倒してしまっても構わないのだろう?」
マキナは、得意げな顔でそう言う。
「ああ!全く問題ねえ!」
二人は、戦闘を開始した。
ヒイラギは、コノハに魔力を流し、それを投擲する。
敵が、コノハを剣で弾こうとするも、その剣がスパッと切れて、体にコノハが刺さる。
ヒイラギは、それを回収しながら、その男の顔面に魔力の矢を当てて地面に落とす。
入学試験の時に見せたような、立体的な動きをし、ヒイラギはどんどん敵を倒し、タンポポたちを追おうとする者たちを地面に撃ち落としていく。
マキナは、獲物が長いので、あまり派手に動くことができないが、一人一人確実に、斬り伏せて行った。
その間に、腐敗のスキルを使って、ゆっくりと空気を腐らせていく。
やがて、腐った空気が路地に満ちたところで、ヒイラギに声をかける。
「ヒイラギ!全員速攻で撃ち落とせ!」
「了解!」
ヒイラギが、空に何本もの魔法の矢を練り上げて、それを打ちおろす。
轟音を響かせながら、矢の雨が降り注ぎ、全ての敵がいっとき、地面にふせる。
そして、マキナは綿毛のスキルを使って、ヒイラギは魔法の矢に乗って、建物の上まで登り、マキナが、小さな種火を路地に蒔いた。
その瞬間、種火は腐った空気に引火し、路地は炎に包まれた。
「よっし!これで、時間は稼げるだろ!」
「いや、これ大丈夫なの?街全体が燃えたりしない?」
「この街の建築物は魔法でコーティングされてるから、そう簡単には燃えたりしないらしいよ」
「ならいいけど」
「さて、俺たちこの街の構造、全然わからないけど、どこに向かったらいいんだ?」
「あっ……あいつら、どこに行ったんだろう」
二人が、今更その事実に気づき、困っていると、
「ニャー」
と、鳴き声が聞こえた。
鳴き声の方を振り返ると、ヒノスケが、アホを見る目で二人のことを見つめていた。
「ヒノスケー!」
「もしかして、案内してくれるのか」
「ニャッ」
ヒノスケは、付いて来いとばかりに、二人に背を向けて走りだした。




