ブキヤ、コノハ
学園襲撃事件から、二週間ほどたった。
学園側は、事後処理に追われ、学生たちにはしばらくの休日が与えられた。
ヒイラギ、マキナ、チマリ、タンポポは学園を出て王都の中心街に遊びに来ていた。
王都に来てから、寮にこもりっぱなしで、ヒイラギとマキナが一度も街を見たことがないから、観光しようとなったのである。
「おー!にぎわってるものだな!」
「この国の中心街ですから、当たり前です」
マキナが、楽しそうに街を眺め、今にもどこかに行くのではないかという様子を、チマリが捕まえている。
「ねえ、ヒイラギ、私、来ても良かったのかな?」
「なんでだよ」
「ほら、ヒイラギとマキナ君とチマりんは、三人仲良いじゃん」
「何言ってるんだよ、タンポポだって、仲良いだろ」
タンポポは、えへへと笑う。
「ありがと!」
「えっ、急にどうした」
「私、立場が立場だから、こういうふうに友達と遊んだこととか、なかったから」
どうやら、貴族にはいろいろあるようだ。
「あー、そっか……じゃあ、今日は楽しもうぜ!」
「うん!……って、案内される側なのはヒイラギたちだからね」
「分かってるって。まずは、どこに行くんだ」
「えっと、武器屋かな。やっぱ、この街でやってくなら知っとかなきゃいけないでしょ」
「なるほど……あっ、そういえば俺、今、剣を一本も持ってなかった」
「えっ!どうして!授業とかで必要でしょ」
「学園から借りればいいかと思って」
ヒイラギは、様々な武器を使いこなすことができるが、自分用のものを一つも持っていなかった。
そもそも、父親であるクスノキが、ヒイラギに与えるのを忘れていた。
すでに、クスノキは気付いているが、どうにかなるだろうと楽観視している。
「じゃあ!今日はヒイラギの武器を買わなきゃね!お金は持ってるの?」
「念のため、多めに持ってきといた」
「ならよかった!よし!行こっか……チマりんたちは?」
会話に夢中になっていると、いつのまにかチマリとマキナは人混みの彼方に流されていた。
どこからか「マキナさん!早いですよ!」とか「おっ!あれ面白そう、行くぞチマリ!」などという声が聞こえてくるが、
多分、大丈夫な証だろう!とヒイラギは思った。
「もう、行っちゃったみたいだな」
「まあ、目的地はあらかじめチマりんと話してあるから、二人で行こっか」
「えっ、あっ、うん。そうだね、二人で……」
「はい」
そう言って、タンポポが手をヒイラギの方に差し出す。
「えっと……」
ヒイラギには、その手の意味がわからない様子。
「はぐれないように、手、繋ごうよ」
「あっ!うん!手ね、はぐれないようにね……はい」
ヒイラギは、タンポポの手に自分の手をちょこんと添える。
すると、タンポポはその手を、ギュッと握る。
「じゃあ、行こっか!」
ヒイラギは、休日と、人混みに感謝した。
✴︎
チリンチリンと、ドアのベルを鳴らして、ヒイラギとタンポポは、武器屋[ブキヤ]に入った。
「なんとかついた……」
「いつも、あの道を通るのは大変なんだよ……帰りは、別の通りを歩こう」
二人とも、クタクタになっている。
「なあ、入るときチラッと見えたけど、この店の名前って、何?」
「ブキヤだよ」
「武器屋のブキヤ?」
「うん、武器屋のブキヤ」
「なんで、そんな名前に?」
「私に聞かないで、店主に聞いてよ」
「それもそうか」
二人は、様々な武器の並ぶ店内を進み、カウンターに座っている店主に話しかけた。
「らっしゃい」
「あの、ここの店って、どうしてブキヤって名前なんですか」
ヒゲや髪をざっくばらんに生やした、いかにも職人ですという風態の店主は、ニヤリと笑う。
「そりゃもう、ブキヤだからよ。武器屋が武器屋と名乗って何かいけねえのか?」
「いえ、ただ、どうしてかと単純に疑問に思って」
「店名なんて、なんでもよかったのよ。店名で客が来るわけじゃねえ、来たとしても、それじゃダメなんだよ。オレはこの店をオレの技術で客を呼べる店にしたかったのさ。だから、ブキヤにした。それだけだ」
「なるほど……深いですね!」
「分かってくれるのか!お客さん!いいなぁ、センスがあるよ!気に入った!一本買ったら、一本サービスしてやるよ!」
「一本は買わなきゃいけないんですね」
「商売だからな!それに、お客さんの体の鍛え方、何本武器があっても足らねえんじゃねえか?」
「……さすがだな」
「プロだからな」
「俺に合ったのを、見繕ってくれるか?」
「任せときな」
店主は、軽い足取りで、店の中に消えていった。
「なんか、怒涛の勢いで、私置いてけぼりだったんだけど」
「あっ、タンポポ」
話している間、空気とかしていたタンポポは、少し怒っている様子。
「なに、その反応。忘れてたの?」
「……そんなことないよ」
「絶対うそだー」
「あっ、ほらー、あの武器やばいよ、ほら、見に行こう」
「あっ……もう!」
二人が、眺めていると、チリンチリンと音が響いて、マキナとチマリが入ってきた。
「ヒイラギー!やっとついたよ」
「……もう、疲れた」
マキナが爛々としている一方で、チマリは意気消沈のようだ。
「チマりん!どうしたの」
「タンポポちゃん……マキナさんが、目につく店々によるものだから、人混み、もう、無理」
チマリが、タンポポの手を握りながらガクッと倒れる。
「チマりーん!!!!」
その後、普通に起き上がり、店の物色を始めたチマリだった。
しばらく、時間が経ったのに、店の奥から、店主が帰ってきた。
「おーい、話のわかるお客さん!持ってきたぜ」
ヒイラギはその声を聞き、急いでカウンターに向かった。
「まずは、この、ロングソードだ」
店主は、シンプルなデザインのロングソードをヒイラギに渡した。
「普通ですね」
「普通だな」
「普通だね」
興味津々な様子で、三人が、ヒイラギの剣を眺める。
「振ってみてもいいですか?」
「ああ、周りに気をつけろよ」
ヒイラギは軽く、何回か剣を振る。
「なるほど……すごく、体に馴染みます。単純なデザインの中に、ものすごい、繊細な工夫が凝らされてますね、この剣」
「分かったか!一見単純な中にあるこの剣のすごさが!お客さんなら、このロングソードが一番いいと思ったんだ!」
「さすが、プロですね!」
「おう!」
再び空気になった、タンポポと、残りの二人はヒソヒソと話す。
「ねえ、ヒイラギって武器マニアなの?」
「そんな話は一度も聞いたことがありません」
「そんな、武器に思い入れとかなさそうだったけどな」
「だよね、学園に一本も剣を持ってきてないみたいだし」
「ヒイラギさん、たまにアホですからねー」
「単純に、気があったんだろ、あの店主と」
ヒイラギは、その会話をしっかりと聞いており、アホといった、チマリには、魔法の矢を軽くはなった。
「そのロングソードがお買い上げで、もう一個のサービスの方なんだが」
店主は、木箱を取り出し、蓋を開く。
「これは……本当に、いいんですか」
「ああ、お前なら使いこなしてくれるだろう」
そこには、二本で対となったカットラスが入っていた。
刃や、柄には細かな模様が多く掘られており、柄の所々に光る宝石から、高級な品であることがうかがえる。
「振ってみろ」
ヒイラギが、先ほどのように、何回か振る。
「軽い……信じられないほどにスムーズに体が運べる」
「次は、魔力を流して、この石でも切ってみろ」
そう言って、店主は魔法で大きな石を作り出し、床に置く。
ヒイラギは、カットラスに魔力を流すと、驚いた顔をした。
「魔力の通りが……どんな、魔力効率だよ」
この世界では、武器には魔力を流して戦うのが普通のことである。
しかし、武器は自分の身体とは違うため、いくらかその魔力の流しやすさ、魔力効率が悪くなる。
しかし、このカットラスは、魔力効率が悪いどころか、ヒイラギが流した魔力をさらに強めていた。
「魔力の調整の面では、苦労しそうですね」
「その子は、問題児でな。ほれ、切ってみい」
ヒイラギが、両手のカットラスで一振りずつ左右から切りつけた。
すると、カットラスは石の中でも空気の中と変わらぬ動きをして、石を切り捨てた。
「……すさまじい、切れ味ですね」
「だろ?だが、お客さんだから、今くらいの切れ味で済んだんだよ」
「どういうことですか」
「お客さん、おそらく魔力コントロールが得意だろ。それも、超がつくほどに。普通の人だったら、その石を切るだけのつもりで魔力を流したら、この店を真っ二つにするわい」
「……そこまで、わかるんですか」
「プロだからな。んで?そいつのこと、貰ってくれるか?」
「ありがたく!」
「よかった。ロングソードの方には、名前はないが、そいつには名前がある。そいつの名は、コノハだ。ひらひらと舞う木の葉を切る二振りだ」
「コノハ……絶対に使いこなしてみせます」
「おう!じゃあ、ロングソード一本の代金、五万マグナもらうぜ」
マグナとは、マグナイツ王国のお金の単位だ。価値基準は円と同じくらい。
ヒイラギが、財布から五万マグナをだす。
「毎度!お客さんとは、長い付き合いになりそうだな。オレの名前はオーキだ!お客さんは?」
「ヒイラギです、よろしくオーキさん」
「よろしくな、ヒイラギ!ヒイラギなんて、コノハを使いこなすにはぴったりじゃねえか!また来いよ!」
ヒイラギが会計をすませると、完全に空気となっていた三人と合流した。
「ヒイラギさん、また強くなったんですね……負けません!」
「学園戻ったら、模擬戦しようぜー」
「いい買い物できて良かったね!」
三者三様な言葉を述べて、ヒイラギを囲む。
四人は、そのまま、店を後にした。




