水瓶座の男、戦いの終わり
ヒイラギは、地面に降り立ち、静かに相手を見据える。
魔獣は、体についた土埃を払う。
「クハ……クハハ……クハハ、クハハハハハハ!いいな、小僧!よもや、あのような形で、攻撃が飛んでくるとは思わなんだ。しかし、しょぼいな。あぁ、貴様らは学生だったけか、それもまだまだ何も学んでいない。ならば仕方がないかもしれんな」
「ああ、俺はまだ、何もできないよ。だから、教えてくれないか」
「何をだ?」
「どうやったら、お前に勝てるのか」
「そんな方法はない」
「そうか……ありがとう。じゃあ」
ヒイラギは、体の周りにいくつもの魔法の球を浮かべる。
「精一杯、足止めさせてもらう」
「いいだろう、楽しませろよ、小僧」
とは、言ったものの、どうしたものだろうか。
チマリに、やられたのだろう、右腕が焼けただれている。
片腕がないことは、だいぶこちらに有利に働きそうな気がするが、その状況でも、チマリはやられてマキナが撤退していた。
チートスキルを持ったあのマキナが、撤退したのだ。
一般的なステータスしか持たない俺がどう戦おうか……。
考えていると、魔獣の、姿が突然消えた。
理由はわからないが、消えたという事実があればそれでいい。
どちらにせよ、あいつは俺に向かってくるはずだ。
ならば、魔法の矢で対処するだけだ。
雷の属性を乗っけた魔法の矢を高速で、体の周りに周回させる。
感じろ、魔法の矢は、俺の一部だ。
感じろ、感じろ。
ビリッ
きた!
魔法の矢の雷が、魔獣の接近を察知した。
舐めたもんだな、正面から来るなんて。
マキナから預かった剣を、そこにいるであろう、魔獣の左腕に振り下ろす。
「ぬっ……」
腕の半分ほどまで刺さったが、それ以上進まない。
魔獣は驚き、一瞬止まったが再び俺にさっきを放つ。
剣が抜けない。
くそ、一旦退避。
周りの矢を、魔獣に当てて、俺は一旦後ろに退避。
その間に、いくつも魔法の矢を量産し、束ねていく。
今のままでは、決定打に欠ける。
「小僧、貴様も、ワシを感知するか。さすが、転生者、なだけあるな」
「そんなに何度も感知されるのに、消えてる間のガードがおざなりすぎるんじゃないか……え、おい、お前、今なんて」
「さあてな」
魔獣は、腕に刺さった剣を抜き、捨てる。
「これは、先ほどの小僧の剣だな。友情、とやらか?人間は軟弱だな」
「それより、お前転生者って!」
「……クハ」
ニヤリと笑いながら、魔獣が駆け出す。
俺は牽制するように、細い矢を一本放つ。
魔獣ではなく、魔獣の横を通り抜けるように。
一撃は、食らってやる。
これをなんとか、耐えるんだ。
魔獣の爪と、自分の体との間に束ねた魔法の矢を挟む。
「ぐっ……!」
爪が多少刺さるが、致命的ではない。
それ以上に身体に走るショックがでかい。
ヒイラギの体が、勢いに任せて飛んでいく。
地面を何度か跳ねるが、魔法の矢を作り、クッションにし、止まる。
ヒイラギは、苦痛に顔を歪めながらも、口角を上げる。
「どうだ!」
「むっ……!」
空に、魔獣の腕が舞う。
ヒイラギは、牽制するようにはなった、魔法の矢をマキナの剣に結びつけていた。
結びつけた剣を、引き寄せて、魔獣がヒイラギを殴る瞬間に先ほどの切り口に、再び剣を引っ掛けた。
ヒイラギは、魔法の矢を引っ張る自分の力に、魔獣からうけた衝撃を重ね、吹っ飛びながら魔獣の腕を切り落とした。
「……ハハ、クハ、クハハハハハハ!」
「ハァ、ハァ……ウッ」
ヒイラギの口元から、血が溢れる。
くそ、あんだけ矢を束ねて防いでも、この威力かよ。
だが、これで両手を使えなくした。
これでだいぶ楽になる。
「やるなぁ、小僧。魔法をそこまで器用に操るとは思わないわ。フン、いいなぁ。楽しいなぁ……燃えてきたわい」
魔獣は、切断された部分を、掲げ、そこに魔力を込める。
すると、なくなったはずの腕が、再び生えてきた。
「はぁっ?」
「ワシは魔法は使えないが、まあ、魔力はある。そして、魔力を込めれば身体の部位欠損ですらも、修復できるのだ。魔獣たる特権だな。もちろん、こちらの腕もな」
そういうと、魔獣はチマリに焼かれた腕を自分で切り落とし、再生させた。
「嘘だろ……」
やばい、これは、絶望的だ。
ダメージ覚悟で、勝負を決めたと思ったのに、まったく、戦局に動きを持たせられなかった。
むしろ、俺の方が圧倒的不利に陥っている。
「さあ、もう一度やろうか、転生者の小僧!」
「いや、もう時間切れだ、グリモアのおっさん」
どこからか、突然声が聞こえた。
「む……ハァ、時間切れだそうだ」
「どういうことだよ」
「貴様の粘り勝ち、ということだよ」
突然、魔獣の隣に、人一人が通れるほどの穴が開いて、中から、出て来るものがいた。
「なんだよ、グリモアのおっさん、見てたぜ?両腕をやられてんじゃねえか」
「ちいとばかし、面白くてな、この転生者が」
「ん?へー、お前が転生者なのか」
穴から出てきたやつは、人間だった。
それも、ヒイラギと同年代の少年。
「よお!同郷の者よ!」
「……お前は、まさか」
「ああ、転生者だよ」
「なんで、魔物側についてるんだよ」
「そんなの、俺の自由だろ?」
こいつは、さきほど穴を開いてそこから出てきた。
それに、元々、この事態は結界の中に突然起きた。
つまりだ。
「お前のスキルは、ワープゲートか」
「ごめいとー。俺のスキルは穴と穴を繋ぐんだ」
ーーこんな風にさ。
その声は、ヒイラギの背後から聞こえた。
ヒイラギは、反射的にそこに魔法の矢をぶつける。
しかし、それは空を切った。
「どう?すげえっしょ?俺のスキル」
厄介な奴が、魔物側についてしまった。
くそ、なんで、こんな奴に、便利な能力が……。
「まっ、もう撤退の時間なんで俺たちは帰るわ」
「おぉ、それじゃ。なぜ、撤退が早まったんだ?まだ時間はあったはずだろ」
「あー、お前以外の魔物、もう、ほとんど全滅状態だし、生徒たちは速攻で逃げちゃったから。それに、あんま深入りすんなって言われてるしさ。まあ、ノルマも果たしたしね。けど、全然被害者を出せなかったわ」
「なるほどな」
「てことで、じゃあ、またな。転生者のヒイラギくん」
「お前!まさか、この学園のデータを!」
「派手な動きで陽動して、俺はスキルを活かした個人活動。素晴らしいだろ?」
転生者は、再び、ゲートを開き、そこに足を踏み入れる。
「今回は運が良かったな、失恋戦士のヒイラギくん。あと一歩で、お前は死ぬとこだった。お前のスキルは、ここで死ぬには惜しい。次会うときを楽しみにしてるぞ」
「待て!」
「おお、そうだ。先制布告的な感じで、名乗っとくわ」
転生者は、恭しく一礼し、
「俺は、魔王軍の24の幹部の一人、水瓶座のグラジラ。前世の名前は捨てた。以後お見知り置きを」
そう言って、グラジラとグリモアは消え、
一連の騒動は幕を閉じた。
少なくない、犠牲を残しながら。




