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失恋戦士〜ステータスが、失恋の回数の累乗強くなる  作者: キサラキ
第2章 一年編〜水瓶座の刺客
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マキナと、チマリと……前編

時は遡り、ヒイラギとタンポポのテストが始まる時間。


「やっぱり、ヒイラギのテストは人気だなー。人が多すぎて、見えないや」

「マキナさんだって、入試二位に恥じない魔法でしたよ」

「見ててくれたのか、チマリ」

「もちろんです。ところで、ヒイラギさん、今日1日ずっと見かけませんでしたけど」

「ああ、あいつらなんかコソコソと特訓してたな」

「それはそれは、また何か企んでるんですね」

「相変わらず、すごいな」


そう、ヒイラギは相変わらずなんだ。

初めてあった時もだ。

俺がステータスを共有してなんとか戦えたザック先生にだって、あっさりと勝利してしまった。

俺との模擬戦もそうだ。

全力でぶつかったにもかかわらず、スキルを半分とはいえ見極められた。

あの状況で、視界を共有しているなんて誰が考えつくと言うのだ。

同じ転生者と言う立場でありがながら、ヒイラギと俺には明確な差があった。

試験の結果は、一位と二位。

しかし、そこにも差がある。

ヒイラギは、満点の一位。

俺は、1400点の二位。

そこには、100点の差があるのだ。


学園が始まってからも、変わらずすごい。

授業で見せた、あのタンポポを咲かせるパフォーマンス。

あれを見た時、純粋にすごいと思った。

しかし、後から少しずつ少しずつ俺の心を劣等感が蝕んだのだ。

ヒイラギは、生徒会執行部への入部も決めたらしい。

学年一位の特権。


どうして、同じ転生者なのにここまで差があるんだろう。

そう、考えることもあった。

まあ、その答えは単純だ。分かっている。

ただの努力の差だと言うことは。

俺は、自分のスキルを使い入試の突破方を考えている間、ヒイラギは純粋に体を鍛えて魔法を練習した。

自分のスキルを磨くことだって間違っていない、けれど、少し自分が恥ずかしくなった。


このスキルがなかったら、二位にすらなれていなかった。

このスキルがなければ、俺は弱い。

そう考えることも、多々ある。


「どうしたんですか、マキナさん、そんな暗い顔をして」


気づけば、表情に感情が出ていたようだ。

取り繕わなければ。


「そうか?もしかしたら、テストで疲れたのかもな」

「そうですか」


こんな感情を、相談できるわけがない。

そんなのは、恥ずかしくて、みっともなくて、醜い。


「マキナさんも、十分すごいですよ」

「え?急にどうした」

「いえ、別に」


もしかして、チマリには分かっているのだろうか。


「見ててくださいねマキナさん、私は近いうちにヒイラギさんを超えて見せますから」


チマリは、入試のときからヒイラギを目標にしている。

ヒイラギにコテンパンにされたのが気に食わなかったらしい。


すごいな、チマリは。

俺も、単純にヒイラギを超えたい。

そう言えたらいいのに。

どうしてか、二番に甘んじてしまう自分がいる。

どうせ、差は埋まらないって。


ヒイラギのテストが終わった。

そのときだった、すぐそば、で悲鳴が聞こえた。

その悲鳴の傍らには、地に横たわる人。


そして、どこからか現れて、佇んでいた、魔の影。

初めて見るその姿は、恐ろしかった。

前世で言うところの、小悪魔。

体は、黒に染められ、小さな翼と小さめのツノ。

身体は、引き締められていて、筋肉の質の高さが伺える。

凶悪な牙。

血走った眼。

地に染まった、鋭利な爪。


背筋が凍った。

先ほどまで、笑っていた人間が、帰らぬ身になって地に伏している。

恐ろしかった。

信じられなかった。

初めて出会う邪悪に、俺は声が出なかった。

自分が、今そこに立てているのか。

今息を吸えているのか。

そんな、浮遊感。


小悪魔が、こちらを向き、笑う。

次はお前だと言わんばかりに。

そして、爪をこちらに伸ばしてくる。


ああ、やられる。

動かなきゃ。

動かなきゃ。

でも、ダメだ。

まだ俺は、悪夢の中で。

自分の体が言うことを聞かない。

誰か、助けてくれ。

誰か……。

誰か……。

誰か……ヒイラギ、助けてくれ。


そのとき、俺の視界は青の炎に染まった。


「マキナさん!何をしてるんですか!」


その言葉で、我に帰る。


何をしてたんだ、俺は。

呆けてる場合じゃないだろう。

戦わなきゃ。

まだ、あいつは生きている。


あの小悪魔は、燃えながらも、まだ戦う意思を絶やしていない。


殺せ。

あいつを殺せ。

心の底から湧いてくる、なんと名付けていいのかわからない感情に、身を任せ。

スキルを振るう。

発動スキルは、火炎。

普段から、よくヒノスケに使っているからなれているし、今この状況にはきっと適している。

チマリの出した炎を操るのだ。


俺は、温度の高い青い炎を操り、その炎を開いた小悪魔の口に突っ込む。

それでも、まだあいつは健全だ。

ならば。


俺は、腐敗、という触ったものを腐らせるスキルを発動し、空気を腐らせる。

そして、空流、というスキルを用いて、その腐ったガスを小悪魔の口に流し込む。


すると、小悪魔は木っ端微塵に爆発し、消し飛んだ。


「大丈夫ですか、マキナさん」

「ああ、助かったよ、チマリ」

「今のは、魔王軍がよく扱う兵士といわれる、グレムリンという魔物です。ゴブリンなんかとは比べ物にはならないほど、強いです」

「そうなのか。でも、それがどうして」

「さあ、何者かの手引きでしょう。それよりも」


チマリは頭の上に炎を揺らめかせて、東を向いた。


「あちらの方に、大量発生しています。炎で感知しました」

「この人ごみには?」

「いるでしょうね。しかし、この騒動の中では、とても探せないです」


人々は、パニックに陥り、どこへとなく、走る。


「ならば、騒動に流されるのではなく、あちらに向かい、あれを食い止めるのが、私たちにできることだと思うのですが。私は、行きますよ。マキナさんはどうしますか?」

「行くよ。もちろん」


ヒイラギは、まだステージに立ち尽くしている。

今だ。

あいつとの差を埋めるなら今しかない。

グレムリン供を殺す。

殺す。

あいつらを殺して、俺は……俺はどうするのだろうか?

本当にそんなことで、差を埋められるのか。

分からない。

けれど、やるしかない。


「そう、ですか。では行きましょう、マキナさん。くれぐれも冷静に、ですよ」

「分かってるよ」


そして、俺とチマリは炎を纏って、空を飛ぶ。

視界の端に見える、黒の大群に向けて。


移動中、頭の中に生徒会長の声が響いた。

逃げろと言っている。


「マキナさん、どうします?生徒会長からの命令ですけれど……」


けれど、逃げるわけにはいかない。

俺は、戦わなければいけない。


「行くに決まってるだろう?」

「そうですか。じゃあ、私もそうしますよ。一人で戦えるほど、魔物は甘くはありません」

「ありがとう」

「……そんな顔の人間を一人にしておくわけにはいきませんからね」


チマリが何を言っているのか、俺には聞こえなかった。


そして、俺たちは、黒の大群の元までたどり着いた。


「まずは、私の残った魔力を全て炎に変えて、打ち下ろします。炎さえあれば、いくらでも操れるので。そうすると、マキナさんのスキルが火炎以外使えなくなりますが」

「大丈夫だ、体に魔力でカバーをつけるから。魔力切れまでは炎があっても問題ない。それに、切れたら切れたで魔物のステータスを共有すれば、また使える。それでもの時は、火炎だけで戦う」

「分かりました。では、行きます」


チマリは、大きな大きな魔法陣を組み上げていく。

そして、浮かび上がった魔法陣は幾何学模様に包まれた複雑なものだった。

チマリは、こういうことが、得意なんだ。

長所のない、俺とは違って。


黒の軍勢は青というよりも、蒼の炎に包まれる。

それで、倒れるものもいたが、そう簡単にはいかない。

まだまだ、多くの勢力が残っている。


「降ります!マキナさん!協力して戦いましょう!」

「わかってるよ!」


俺たちは、魔の中に身を投じた。

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