咲き誇れ!氷漬け!
翌日になり、今日もタンポポと魔法の練習をする。
「無理!」
練習は難航している。
「どうして、そんな絶妙な威力の矢ばかり作るの!」
「絶妙も何も、威力1の単純な矢だよ」
「無理なんだってば」
「まずは魔力を抑えられるようにならないと」
「分かってるよー……どうやるの?」
「何度も言ってるけど、肩の力を抜いて矢を生成する、1にならなかったら、そこから魔力を放出して近づける。それだけ」
「出した矢から魔力を抜くなんて概念がわからないんだよ」
「抜くじゃなくて放出する」
「うー……こんな感じ?」
タンポポは、特大の魔法の矢を作り、そこから少しずつ魔力を放出していく。
しかし、放出された魔力が、攻撃となってヒイラギに降り注ぐ。
ヒイラギは、同じ威力で相殺しているのでなにも害ではない。
が、他のクラスメイトはそれを見て、悉く苦笑いを浮かべていた。
「そう!そんな感じ!」
「どんな感じだよ!」と、多くの人が心の中で叫ぶ。
チマリは「あんな方法が……」と呟く。
「よし、そのまま減らし続けろ、1になるまで減らし続けるんだ……そう、いいぞ、その調子」
だんだんと、魔法の矢が縮み、やがて小さな矢となる。
「できた!できたよヒイラギ!」
「できたな!タンポポ!その感覚を覚えるんだ、それが基準となる1だ」
クラスメイトは、呆れを通り越して、ヒイラギ流のレッスンを参考にし始める。
やがて、全員の手の上には1の矢が浮かんでいた。
「よし、次は最初から1を出すつもりで」
「やってみる」
タンポポは小さな矢を浮かべるが、先ほどと比べればやや大きい。
「おー!近づいてる近づいてる!また、少しずつ魔力を放出させて、1に近づける。完全に1を出せるようになるまではその繰り返しだ」
クラスメイトの多くは、二度目の挑戦ですでに1を出せるようになっていた。ベスト30は伊達じゃない。
しかし、タンポポは何度やってもできるようにならないでいた。魔力コントロールのセンスがよっぽどないのだ。
「あっ、そうだ。さっきの魔力放出はこういうこともできるんだ」
ヒイラギは、手の中に特大の魔法の矢を浮かべる。
そして、先ほどのタンポポのように魔力を放出する。
その際、魔力を矢として放出し指向性を持たせたことが、タンポポとの違い。
放出された矢は、様々な軌道を描いては互いにぶつかり合い消滅していく。
「まあ、ただの魔法の矢とは変わらないんだけど、こっちのほうが発動スピードが若干早いかな」
「なにそれ、すごい!私もできるようになるかな」
「練習すればできるようになるはずだよ」
「もっと見せて!他にも何かバージョンがあるの?」
「もちろん」
ヒイラギは、タンポポにせがまれて、浮かれていた。
だから、持てる限りの技術の魔法を披露した。
まず、先と同様に特大の魔法の矢を浮かべ、そこから魔法の矢を放出し様々な軌道を描く。
そして、だんだんと、変化をつける。
放たれる魔力の矢の色がそれぞれ違う。
赤や黄色、青など属性が込められた多種多様な魔法の矢が教室を飛び交う。
それだけでは止まらない、入試で披露したようなねじれながらの軌道も披露する。
異なる色同士が交互に目に入り、とても、幻想的な光景。
やがて、ヒイラギの手もとの魔法の矢の大きさが半分になる頃。
教室の対角線上に、大き目の魔法の矢が浮遊する。
そして、そこから先ほどと同様に魔法の矢が放たれ始める。
「コントロールになれれば、こんなこともできるんだよ。まだまだ、いくよ!」
やがて、手元を離れた大き目の魔法の矢が二つ三つと増え、手元を含めれば8個の魔法の矢が完成する。
人々が、次はなにが起こるんだと息を飲む中。
ゆっくりと、それぞれの魔法の矢が回転を始める。もちろん手元の矢もだ。
その矢は、加速しながら魔法の矢を放ち、吸収と放出を繰り返す。
もちろん、属性変化も交えながら。
本来、手元を離れた魔力には属性変化はできないが、その矢は先ほどあらかじめ属性をつけられたものであるため、あたかも属性を自由に変換しているかのように見える。
「これで締めだ!」
ヒイラギの調子は最高潮である。
交換を繰り返していた矢は一変、中心で相殺を繰り返す。
ポンっという音は数え切れないほど響き渡り、弾ける色鮮やかな光の粒は、見ようによっても光のタンポポにも見えなくもない。
もちろん、ヒイラギはタンポポをイメージしてやっている。
最後に、回転していた魔法の矢が8本全て同時に中心に放たれぶつかり合う。
誰もが、光に目が絡んだ。
ようやく目を開くと、そこには形を失った白い魔力がふわふわと漂う。
ヒイラギが、フッ、と息を吹きかけると。
魔力は教室全体に霧散した。
それはまるで、タンポポの綿毛のように。
「おーー!」
「さすが、入試一位!」
「魔法の実技唯一の満点!」
「魔法の矢を極めし男!」
などと口々にクラスメイトがさけび、クラスが大歓声に包まれる。
「どうだった?」
と、ヒイラギが得意げにタンポポの方を見ると、タンポポは顔を青ざめながら教室の入り口を指差していた。
その指の先には、今にも人を殺すのではないかと紛うほどの眼光で、ヒイラギを睨みつける、エリザの姿があった。
「エ、エリザ先生……」
「ヒイラギィ……貴様、自習の時間をなんだと心得ているぅ。あ?反省の意思があるなら、今すぐこちらにこい。いや、やはりいい。私も貴様のように魔法を一つ披露するとしよう」
その瞬間、エリザの姿が消え、次の瞬間にはヒイラギの姿も消えていた。
人々が慌てて周りを見渡すと、気づけばエリザは元いた位置に戻っていた。氷漬けになった、ヒイラギを携えて。
「ふむ、今の解説をするとだな。なに、単純なこと、雷の魔法で体を一時的に稲妻とかし、一瞬のうちにヒイラギを捉え、水魔法でヒイラギを包み、そこに極寒の冷気をぶつけただけだ。な?簡単だろ?コツは稲妻状態で触れるとただじゃ済まないから、相手に触れるかふれないかの瀬戸際で魔法を発動させることと、あらかじめ、起動設定をしておくことだな。こいつのように、マニュアル操作では限界があるのだよ。分かったな?貴様らにも、これくらいはできるようになってもらうからな、そのつもりで」
そう言い残して、エリザはドアをぴしゃりと閉め、ヒイラギを連れ去り教室を後にする。
残されたタンポポは、調子に乗りすぎたヒイラギに呆れつつも。未だ漂い続けていた、白い綿毛を手に取り、クスリと微笑んだ。
もちろん、マキナとチマリはニヤニヤと笑いながら、その様子を眺めていた。




