英雄の原石、タンポポには棘がある
マグナイツ学園の入学式はつつがなく行われた。
特に記述することはなく、強いていうならばジャガ学園長の話の内容だろうか。
ジャガの話から、抜粋。
「これから、この学園で五年の時を君達は過ごします」
ジャガは、静かに、けれど重く言葉を紡ぐ。
「そこには困難があるでしょう。むしろ、我々があなた方に困難をけしかけます」
その言葉に、何人かの教員がニヤリと笑う。
「どうか、それを乗り越えてください。これからの時代を切り開き、新たな関門を乗り越えるのは他ならぬあなた方なのですから」
そこまで話すと、温和な雰囲気を少しだけ乱し、話を続けた。
「そして、来たるべき時に備えるのです。ここ数年の間で、魔物に不穏な動きがみられます」
生徒たちの多くに、動揺が走る。
ヒイラギやマキナは、覚悟の止まった瞳でまっすぐとジャガを見つめる。
その他にも、何人かの学生が静かに闘志を燃やしていた。
「何事もない、なんてことはあり得ません。確実に、それらは我々に仇を成すことでしょう」
そして、ジャガは片手を前に突き出し、小さく炎を灯す。
「自分を守る強さを持ってください。友人を助ける気高さを持ってください。そして、世界を救済する覚悟を持ってください。ここにいる1500人全てのものが、英雄と呼ばれる日はそう遠くないことでしょう」
炎はメラメラと燃え、3000の瞳に希望の輝きを移す。
「あなた方の入学を心より祝福しまして、私からの言葉とさせていただきます」
言い終わると、炎はジャガの手を離れ、会場の中心に浮かぶ。
そして、1500の火花となって、英雄一人一人の手の中に舞い落ちた。
「それは、私からの贈り物です」
火花が消ゆると、その手の中には
無骨な石のかけらが握られていた。
「無くさずに持っていれば、いずれその石の意味がわかりますよ。原石というのは、磨いて初めて輝きを知るのです」
ジャガは、楽しそうな笑顔でその言葉を残し、壇上から降りた。
マグナイツ学園では、一年の間は38のクラスに分かれる。
入試成績の上から30人は1組。
ついで優秀なものたちは、35人編成の2組と3組。
その他は、40人編成のクラスに割り振られる。
余談だが、貴族などの意識高い系の家の中では、1組から3組のトップ100の間に入らなければ出来損ないなどのレッテルを貼られたりもする。
ヒイラギはもちろんのこと、マキナやチマリも1組に属することになった。
チマリはギリギリ30位、実技は普通だったので、どうやら面接で相当点数を稼いだようだ。
ステータスを見るに、あながちステータス至上主義ということではないのかもしれない。
さすが、才女と自称するだけでもある。
ヒイラギは、喜びと気まずさの間で苦悩していた。
告白し、玉砕し、さらに嫌いとまで言われた、アン・ジェラノール・ダンデライオンが同じクラスな上に、ヒイラギの隣の席に座っていたのだ。
アンは、最初に席に座った際に、ヒイラギを一瞥すると、フンッと横を向いてヒイラギのことを視界に入れようとしない。
席順は、左前から成績の高かかった順になっている。
席の配置は、縦に6列、横に5列の配置になっている。つまり、アンの入試成績は7位に当たる。優秀なんだ、とヒイラギの中でアンの魅力は増していく。
マキナは、2位だったようでヒイラギの後ろの席にいる。自分の前列の不穏な空気に、マキナはうずくまって大笑いしている。
ちなみに、30位のチマリは教室の右の一番後ろで、静かに絶望している。
友人たちが二人固まっているのに、自分が最も遠い位置にいることも要因の一つだが、なによりも、自分の前列の男子生徒が大きすぎて教室前方がほとんど見えないことが最大の要因だ。
これほど、自分が小柄であることを憎んだ日はない。
なんとか、席の移動が行われないものかとチマリはひたすらに神に願う。
この世界の神は、世界に迷惑をかけた罪として、現在不在の状態である現実は、決して突きつけてはならない。
「ジェラノールさん」
ヒイラギが話しかけるが、返事はない。
マキナは、笑い続けている。
「えっと、この前のことは勘違いなんだよ」
返ってくる言葉はない。
「あっ、ほら、マキナからも説明してくれよ」
マキナは、笑い転げていて返事をする余裕がない。
「……俺とマキナとチマリは友達なんだよ」
「そうですか」
アンは冷たく返した。
「ほら、せっかく隣の席になったわけだし、これからよろしくね、ジェラノールさん」
「嫌です。よろしくしたくありません」
「あー、うん、そっか」
ここで、ヒイラギが折れ、話しかけるのを諦めた。
マキナは、いい加減かわいそうに思ったのか、助け舟を出す。
「ジェラノールさん。あの時は助けてくれてありがとう」
「あー、うん!どういたしまして」
「それでさ、あの時のことなんだけど、実は悪いのはヒイラギじゃなくて俺とチマリなんだよ」
「うーん、たとえ悪かったとしてもさ、あの高さから落とされたら死んじゃうよ?」
「いや、俺とチマリは空を飛べるんだよ。ヒイラギもそこらへんは考えてくれてたと思うんだ」
「空を飛べるから、なんだって言うの?私たちはまだ子供なんだから、いざって時にスキルが発動しない場合だってあるんだよ?それが、あの時だったとしたら、死んでたんだよ?」
「あー、うん、まあ確かに」
「ふざけてじゃれあいのつもりでやっていたとしても、あれはとても危険極まりない行為だと思う。だから、私は、えっと、ヒイラギさんって言うのね、ヒイラギさんのことが嫌い。それが、私の第一印象」
「なるほど……えっと、これからそれが変わることは?」
「ないよ。今の所はね」
「そっか」
「それで、君はなんて言うの?まだ自己紹介をしてなかったよね」
「あっ、ごめん。俺はマキナ・ハーヴェスト、ヒイラギとチマリって言うあそこの後ろの方にいるちっこい奴の親友。君は、ジェラノールさんでいいんだよね?」
「アンで良いよ。私もマキナって呼ぶから」
「あー、そう言うのいいよ。俺、ジェラノールさんとは、ヒイラギのことを見直すまで仲良くするつもりないから」
「そう、残念」
「大丈夫!きっとすぐに、ヒイラギのことを見直すからさ」
「ハードルを上げていいの?」
「ああ!ヒイラギはいい奴だから」
「それだけ信頼を寄せてるんだね。じゃあ、無視はやめようかな。こっちが拒絶するばかりじゃ、見えないものもあるからね」
「だってさ!ヒイラギー、良かったな!」
「あ、うん」
この時のヒイラギの心情は、複雑だった。
最後こそ、良かったのだが、中盤の話が心にザクザクと傷を負わせたのだ。
それに、アンと親しげに話すマキナを羨ましいと思うばかりであった。
しかし、せっかくマキナが作ってくれたチャンスなのだ。これから、どうやってこのマイナスな印象を変えていくか、考えていくとしよう!




