寮の生活、眷属魔法
俺が落ち込んでいるのを、察してくれたのか。
俺の荷物はチマリとマキナが手分けして寮まで運んでくれた。
ついでに、俺のことも寮まで運んでくれた。
部屋の割り振りは自由らしく、連続して三つ空いている部屋があったので、そこにマキナ、俺、チマリの順に入寮した。どうやら、この寮では、男女の差異はないらしい、入学試験のことも考えるに、女や男といった性別による特別扱いすることはないようだ。
その代わり、それぞれの部屋のセキリュティが高度な魔法を用いており鍵を掛ければ、マスターキー以外では決して部屋に侵入することはできないようになっている。
その他、様々なセキリュティによってこの寮のプライバシーは完全に守られているのだ。
部屋の作りは、学生に当てていいのかというくらい、広く作られており、これからどんな生活をこの部屋で送ろうかと考えると、すこしだけ心が休まる。
せっかくだからと、二人とも俺の部屋でくつろいで、呑気に過ごしている。
マキナはアンのスキルを使おうとしているがすこし苦戦している。
チマリは、魔法の矢をふわふわと浮かべ、そこに電流を流している。先ほど俺がやった属性変化を練習しているようだ。
「どうもおかしいな、空中歩行はうまくコピーできるんだが、最後の落下の衝撃をどうやったのかが、イマイチわからん」
「それならば別のスキルなのでは?昔からダンデライオンと名のつくものはあらゆる衝撃を跳ね返すと聞きますよ」
チマリが、興味深いことを言っていたので、俺はそれに食いついた。
「その話!詳しく聞かせてくれるか!」
「わっ!」
すると、驚いたのか、魔法の矢を俺に向かって投げてきた。
こちらも、魔法の矢で相殺する。
チマリは申し訳なさそうな顔をしながら、自分の魔法があっさりと消されたことにすこしムッとし話を続けた。
「チマリも詳しくは知らないですけど。ジェラノール家は国の端っこの方に暮らしていると噂の、国を守る12の貴族の一つです。ジェラノール家は結界などを司るようで、ダンデライオンという名の姫巫女はあらゆる邪悪を退けたという伝説があります。ダンデライオンの名を継ぐと言っていたので、それは伝説ではなくある程度は事実なのでは?」
「それが、あのスキルの詳細か」
「おそらく」
「まいったな、空中歩行の方しか共有してないわ。次あったら、そのスキルの方も共有させてもらおう」
「要するに、アン・ジェラノールは貴族のお姫様だと」
「ええ、十中八九」
「うわぁ、だめだ……ますます、好きになった」
異世界の、最強スキルを継ぐ姫巫女とか、憧れのシチュエーション過ぎる!
それだけに、嫌われてしまったのが、痛い。
失恋戦士的には、正解なのだろうけども……
「やはり、ヒイラギさんはあの方のことが好きだったんですね」
「あっ、じゃあ、もしかして入試の朝に告白して玉砕したってヒイラギ?なんて、そんなわけないよな」
「それ、俺」
「え、まじで?」
「本当ですか?」
「うん」
すると、二人は爆笑し始めた。
「ははははっ!いや、ヒイラギはやっぱすごいよ」
「クププププッ!ヒイラギさん、最高です!最高のバカです!」
「なんだよお前ら、また空で痺れたいのか」
「俺は、もう空中歩行できるから問題ないな」
「なんですか、ヒイラギさんはさらに姫様に嫌われたいんですか」
ヒイラギが無言で、魔法の矢を浮かべると
二人は揃って、土下座をした。
「すいませんでした」
マキナはまだ分かるけど、チマリまで土下座?この世界にも土下座はあったんだ。
「チマリ、お前そのポーズは?」
「知らないんですか!土下座ですよ土下座!古来より伝わる、最大の敬意ですよ!古くは1000年前の壁画にも記されているポーズですよ」
「えっと、チマリって、さっきもだけど歴史詳しいの?」
「ええ!入試の時に言ったじゃないですか!私は、頭脳派の才女です」
「信じられない」
「俺もだよ……冗談かと思ってた」
「そこはかとなくムカつきます!」
そう言うと、チマリは突然立ち上がり、腕を前に出し、固まる。
「何してるんだ?」
「魔法の準備ですよ!チマリの使える最大難易度の魔法を披露しましょう!」
「入試の時よりすごいの?」
「当たり前です!入試のは趣旨が違うのでこの魔法は使えなかったんです」
「魔法なんて、矢のバリエーションで十分使えるだろう」
「ヒイラギさんは、現代魔法を知らないんですよ!古いんです」
「まあ、部屋を壊さなきゃなんでもいいよ」
「当たり前です」
すると、チマリの手の先に、魔力の通ったサークルが浮かび、そして、すこしずつその中に模様が刻まれていく。
魔法陣かそういえば、母さんも使ってたな。
ただ、魔法陣を作ってから魔法が出るまでが早過ぎて、あまりよく見たことはなかったが。
なるほど、こうやって、魔法陣を描くのか。
「魔法というのは、直接、操るものではありません。命令式を組み込んで、自動で作用させるものです」
そう言うと、チマリの魔法陣が完成したのか、眩いばかりの輝きを放った。
光が弱くなると、そこには……
小さな炎の塊が蠢いていた。
「これは?」
「炎の眷属です!」
「どういうことなんだ?俺、魔法はあんまわからないんだけど」
「お二人とも無知ですね。この子は、チマリに従う炎の眷属なんです。ええと、つまり、ペットみたいなものですね。この魔法のすごいところは、魔法を消しても、再度魔法を同じ術式で刻めばまたこの子が出てくることです」
「つまり、そいつは生き物なのか?」
「ええ、形の再構成がまだですが、猫の形をしています」
「思考力はあるのか?」
「はい!自律思考する炎の生命体なんです!これ、とっても高度な魔法なんですよ」
「あれだな、AIみたいなもんだ」
「ああ、なるほど」
「なんですか、えーあいって」
「いや、なんでもない」
「そうですか!あっ、ほら、形が作られますよ」
その言葉を機に、炎の塊は、揺らめいて、猫の姿に変異する。
「どうです?すごいでしょ!可愛いでしょ!私のことを見直したでしょ!」
そして、炎の猫はチマリの顔に飛びついて、引っ掻いた。
「痛い!」
「チマリの眷族にふさわしいな」
「そうだね」
「どういう意味で……ちょ、待ってください、ヒノスケ!」
どうやら、ヒノスケという名前らしい。
ヒノスケは、チマリを引っ掻きまくり、部屋の中を駆け回り出した。
「たしかに、入試には向いてないかもな」
「こんな醜態晒してたら、今頃はここにいなかったかもな」
「お二人とも!捕まえるのを手伝ってください」
チマリは、逃げるヒノスケを追いかける。
マキナは、何かを思いついたのか、ニヤリと笑ってから、スキルを発動しヒノスケを自分の膝に引き寄せた。
「火炎のスキルで、操ればいいじゃないか」
「はっ!その手がありましたか!目から鱗です」
ヒノスケはマキナの膝が気に入ったのか、そこで寝始める。
「ヒノスケー、あなたの主人はチマリですよー」
「チマリ、ドンマイ」
「励まさないでください!」
こんなことをしていたら、落ち込んでいたことなど、いつのまにか忘れていた。




