放て魔法の矢、チマリはオチ担当
「これで、戦闘術の試験の全過程を終了する!お疲れ様。続いて、魔法の試験に移る。エリザ先生、引き継ぎをお願いします」
そう言って、景気良く笑いながらザック先生は女の先生に仕事を引き継いで去っていった。
「えー、実技初日の部B班魔法過程を担当する、エリザです。もっとも、この中の大半とはこれっきりですので、名前なんてどうでも良いのですが。今の言葉で、悔しい、憎たらしい、そう思った者がいれば試験で私にその気持ちを見せなさい!貴方たちの健闘を祈ります」
エリザ先生は、なかなか不敵な人物だ。ザック先生とはまた違った凄みを感じる。
特に、胸部の膨らみ。
そして、身長の高さ。
全体的に、強そうです。
まあ、俺の好みは小柄な女の子だからな!残念だったな、エリザ先生!
「あの先生、なかなか良い発破をかけて来るね」
「そうでしょうか?私からしてみれば、マグナイツ学園の品位を貶めかねないと思うのですが」
「いや、最高峰たるもの、あれくらいはしてもらわなきゃね。あぁ、俺はマキナよろしく」
「私はチマリです。よろしくお願いします。戦闘術では貴方たちに遅れをとりましたが、魔法ではそうはいきませんよ」
「言うじゃないか、魔法は苦手だが、まあ負けるわけにはいかないね」
「戯言ですね」
「それはどうかな」
あの、俺を挟んで仲良くしたり、喧嘩したりするのやめてもらえませんかね。
「ヒイラギ!見ててくれよ!どちらの魔法が上かを」
「あ、うん」
「ヒイラギさん!私の実力はあんなもんじゃないってことを見せてやりますよ!」
「あ、うん」
めんどくさい。入学試験なんだから、もうちょっと集中しようよ。
まあ、その朝っぱらから告白した俺が言えることじゃないけどさ。
「試験は、五分間魔法を使って自由にアピールをしてもらう。魔法の難易度や、コントロールなどで採点をする。素晴らしい五分間になることを願うばかりだ!よし!1015番、前に出ろ!始め!」
そして、実技試験、魔法の部が始まった。
1015番、1016番、1017番の試験を見て、ヒイラギは確信する。
自分の魔法は、他の者とは一線を画していると。
それは、マキナの魔法を見ても変わらなかった。
その横では、チマリが「やばい、同じくらいかも……」と焦っているが、気にしない。
「1019番前に出ろ!」
ヒイラギの番が来た。
「頑張れヒイラギ!」
「頑張ってください!」
マキナと、チマリが応援の言葉をかけてくた。なんだよ、お前たち、もうただの良い人じゃん。さっきは、二人とも壁に激突させてごめんな。仕方なかったんだ、合格のためだ。
「始め!」
ヒイラギは、いつも通り魔法の矢を自分の周りに浮かべ始める。
それを見て、周りの人々は嘲りの雰囲気を作ったが、ヒイラギには関係ない。
ひたすらに、魔法の矢を作り続ける。
しかし、そこでふと気づく。いつもより、魔法の球が大きめであることに。
構わずに作り続けていると、いつも通りのサイズの球を作れるようになった。
なので、ヒイラギは自分の魔力が増えていることに気づかなかった。
やがて、ヒイラギの周りには3000本もの魔法の矢が浮かんでいた。
ここまで一分。
ヒイラギはアピールを開始する。
エリザは当初、魔法の矢のみをただただ作り続けるヒイラギを他の受験生と同様に侮っていた。
しかし、魔法の矢が1000本を超えたあたりで、ヒイラギの異様性に気付き始めた。最初は大きさがバラバラだった統一性のない矢が、そのあたりから均等に生産され始めたのだ。込められた魔力は極小のものだが、約2000本の魔法の矢を正確に揃えていくのは非常に困難なことだ。
あれだけの魔法の矢を作ってなにをするのだろうか、あれだけでは、さすがに高得点は上げられない。
エリザがそう考えた時、3000の矢が、ヒイラギの周りを周回し始めた。
そして、隣り合う二本がクルクルと回転しながら束ねられていく。
1500本になった魔法の矢は、ヒイラギの体の周りを離れて、それぞれが独立した軌道で試験会場を縦横無尽に回り始めた。
ここまで二分。
魔法の矢は、床や天井をスレスレで飛びまわる。
どの矢も、より困難な軌道で動くことに挑戦しようとしているように見える。
いくつかの矢が、エリザに向かって来た。
エリザはそれが自分にあたるのではと思い、身構えたが、エリザにぶつかる直前で、綺麗に止まり、また別の方向に飛んで行った。
ここまで三分。
1500本の矢は、バラバラな動きから、だんだんと統一性のある動きになり、大きく回転軌道をし始めた。
それは、一つ一つが切れ目なく繋がっているに見え、まるで一本の縄のようだ。
その回転軌道は、回転速度を変えることで、大きくなったり小さくなったりを繰り返した。
ここまで四分。
矢はラストスパートとばかりに、ヒイラギの元に再び集まり、また矢同士を束ねていく。
1500本が、750本になり、375本とどんどん、本数が減り、それに反比例して矢の大きさが大きくなっていく。
やがて、全ての矢が束ねられて一つの矢になった。
これからどうなるのかと、会場の人間全員が息を飲む。
すると、大きな矢は天井に向かって、突き進んでいく。
そして、天井にぶつかると誰もが思った瞬間。
ヒイラギは、開いていた手のひらを握り、魔法を分散させた。
矢としての形を失った魔法は、天井に触れると、拡散し、無数の光となって会場に降り注いだ。
ここで、五分。
「五分経過。試験を終了します」
その言葉をエリザが告げると、
会場中が拍手に包まれた。
「見事だったわ。こんな繊細なコントロールの魔法の矢は初めて見た。1019番、貴方は文句なしに満点よ。名前を教えてくれるかしら?」
「ヒイラギ・リーフ・ウッドです」
「ヒイラギね。しっかり覚えたわ。また会う日を楽しみにしてる。さっ、どんどん続けるわよ、1020番、前に出なさい」
ヒイラギが、エリザ先生の対応と周りの拍手に満足そうな顔をする横で、
チマリは、今にも泣きそうな顔をしていた。
「この空気で、やるとか、イジメすぎる」
チマリは、蹴りの他に、魔法の矢もヒイラギにぶつけてやると固く決心した。
チマリの魔法が終了しても、エリザが名前を聞くことはなかった。拍手が起きることもなかった。
マキナはチマリのその姿を見て、自分の番号が1018番であることに心の底から感謝していた。




