第四景 ゴドーの笑顔
表彰式が終わった後も、マリアンヌの興奮は収まらなかった。社長室に戻ってから、彼女はもう一度受賞者の名前を見た。
サルヴァドール・マクジョゼフ。
自分の身体に宿り、この世に復活したジャック自身。本当に出会うことができたなら、自分は一体どんな反応をするんだろうと考えていた。喜びのあまり気を失うことは想定の範囲内だった。ここまで気持ちが高ぶるとは思わなかった。彼を見ると、自分も若返ったように感じた。
だが。何なのだろう。この、すれ違ったような感触は。
彼は、自分を見ても表情一つ変えることはなかった。彼が自分のことを記憶していないのは仕方のないことだ。彼は自分の人生を最初からやり直したのだから。誰から自分が産み落とされたのかも、彼は知らない。マリアンヌが一方的に期待していただけで、むしろ彼の表情には戸惑いが浮かんでいた。そして、そんな表情を、ジャックは自分には見せたことがなかった。
彼は、ジャックの似姿であって、ジャックとは別人格の、新しい人間だと感じた。そのことが、マリアンヌを寂しくさせると同時に、訪れる嵐を感じさせた。彼を「ジャック」ではなく「サルヴァドール」と無意識に呼んだのも、きっとそのせいだ。
ハロルドやフィリップは、彼を見てどう感じたのだろうか。まさか彼が復活したとは考えまい。だが、彼に関わる誰かだと考えるかもしれない。ハロルドは彼の親友だった。だが、フィリップは違う。フィリップとジャックが対立していたことは、マリアンヌも知っていた。彼は、このあと、どのように出るのだろうか。
マリアンヌは外の空気を吸おうと、社長室の外に出た。エトワール宮の中には、談笑している受賞者の姿がちらほらと見えた。マリアンヌは目立たぬよう静かに赤絨毯の廊下を歩いていたが、不意に目まいに襲われ、足をふらつかせた。
「大丈夫ですか?」
目の前にいた男が、マリアンヌの腕を支えた。マリアンヌは我に返り、息をつくと、静かに立ち上がった。
「すみません……どうもありがとうございます」
「何のことはありません。総社長のお役に立てて光栄です」
マリアンヌは男の言葉を聴いて、ふと男の顔をまじまじと見つめた。気の良さそうな男が、マリアンヌの顔を見て、人懐っこい笑みを浮かべた。ほのかに酒の臭いが漂う。
「おいゴドー、こっち来いよ!」ふと、後方から声がかかった。
「おう、今行く」男は元気よく返事をし、玄関の方へと向かって行った。




