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エレメントクロニクル-Element Chronicle  作者: 水城ゆら
1章【新命の始まり編】
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第4話「異変の予感」

 神獣たちとの対話を終えた翌朝。レッドとレイラは、昨日の出来事がまるで夢だったかのように、いつも通りの日常を過ごそうとしていた。だが、その日常はすでに静かに軋み始めていた。


 空は雲ひとつない青空だった。街路樹を揺らす風は穏やかで、朝日を浴びた石畳は柔らかく輝いている。本来ならば、誰もが心地よい朝だと感じるはずだった。


 それなのに――。どこかおかしい。風の流れが微かに乱れている。鳥たちのさえずりも、普段より遠く感じる。胸の奥に引っ掛かる、小さな違和感。神獣たちが口にした「嫌な予感」。その言葉だけが、妙に現実味を帯びて脳裏に残っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 レッドは珍しく早起きをしていた。昨日の出来事が頭から離れず、夜中に何度も目が覚めてしまったのだ。結局、寝不足のまま朝を迎えてしまった。通学路を歩きながら、彼は小さく息を吐く。



「⋯⋯“近頃で嫌な予感”か⋯⋯」



 神獣の言葉が耳の奥で反響する。ただの気のせいだと言い聞かせても、どうしても不安が消えない。視線を上げる。見慣れた街並み。行き交う人々。いつもと何も変わらない朝。

 それなのに胸の奥では、小さな棘のような違和感が疼いていた。その空気を振り払うように、レッドは軽く頭を振る。



「せっかく早起きしたんだしな」



 ふと、あることを思いつく。いつもはレイラに起こされたり待たされたりしている自分だが、今日は違う。逆に自分が先に学校へ行って驚かせてやろう。

 そんな些細な悪戯心が芽生えた。少しだけ気分が軽くなった気がして、レッドは歩調を速めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 一方その頃。レイラもまた学校へ向かっていた。朝の街は静かだ。まだ人通りも少なく、店の準備をする音だけが遠くから聞こえてくる。レイラは昔から、この時間帯が好きだった。

 誰にも邪魔されない穏やかな空気。ゆっくり流れる時間。けれど今日は違った。



「昨日のレッド、なんか変だったなぁ〜⋯⋯」



 何気なく呟いた言葉は、そのまま朝の風に溶けていく。胸の奥が落ち着かない。理由はわかっていた。神獣たちの言葉だ。――“嫌な予感”がする。

 ただそれだけの言葉なのに、なぜだか妙に気になって仕方がない。信じたくはなかった。この街で異変なんて起きてほしくない。みんなが笑って過ごせる平和な日常が、壊れてほしくなかった。



「⋯⋯そんな願いは、やっぱり欲張りすぎるか」



 自分に言い聞かせるように呟く。そして無理やり笑顔を作った。



「よし。レッドも待ってるだろうし、急ご」



 そう言って歩き出す。だが、その足取りはどこか落ち着かなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その頃。街の片隅にある薄暗い路地裏では、ひとりの男が不気味な笑みを浮かべていた。朝日も届かない狭い空間。湿った空気が淀み、人気はない。

 男は壁にもたれながら、何かを考えるように目を細めた。



「⋯⋯神獣たちがエレメント授与、か」



 低く掠れた声が響く。



「さて、新しいエレメンターは――」



 ゆっくりと顔を上げる。その瞳には獲物を見つけた獣のような光が宿っていた。



「あの二人だな?」



 男は口元を歪める。



「へへ⋯⋯これで俺も昇格か⋯⋯?」



 すると、その独り言を聞きつけた数人の不良たちが近づいてきた。



「おい。何ブツブツ言ってんだ?」


「ん? お前には関係ないだろ」


「あぁん? なんだよおめぇ」



 男は面倒そうに肩をすくめる。



「⋯⋯ったく。俺もこんなことしたくないんだがな」



 そして、不良のひとりが男に向かって拳を振り上げた。次の瞬間だった。


 ――ポタッ。


 赤い雫が地面へ落ちる。不良は何が起きたのかわからなかった。腹部に熱を感じる。視線を落とした瞬間、ようやく理解した。黒い斬撃のような影が、自分の身体を切り裂いていたことを。



「⋯⋯っぐ⋯⋯がっ⋯⋯」


「はっ。大人しくしてりゃよかったのにな」


「や、やめ⋯⋯」


「残念だが、それは無理だな」



 不良はその場に崩れ落ちた。一瞬の出来事だった。誰も気づかない。誰にも知られない。男は小さくため息を吐く。



「⋯⋯はぁ、時間を食ったな」



 そして視線を遠くへ向けた。



「急がないと」



 その目が見据える先にいるのは――。



「待っていろよ。レッド、レイラ」



 男の周囲の空気が揺らぐ。まるで空間そのものが歪み始めたかのように。黒い気配が渦を巻き、路地裏を満たしていく。



「それでは――召喚準備、開始」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その頃、レッドは学校へ到着していた。校門をくぐった直後。ちょうど向こうから歩いてくる人影が見える。――その正体はレイラだった。



「⋯⋯え?」


「うそぉ⋯⋯」



 2人の声が綺麗に重なる。



「なんでまたこんな早く?」


「レッドこそ。いつも起きれないくせに!!」


「うっ⋯⋯」



 痛いところを突かれた。このまま会話を続けるべきだろうか、とレッドは考えたが、今はこの流れを変えようと必死だった。



「と、とにかく教室行こうぜ」


「――ねぇねぇ」



 するとレイラは咄嗟に口を開いた。そして、彼女は意地悪そうに笑う。



「なんで早起きしたの〜?」


「別に」


「私を驚かせようとした、とか?」


「ば、ば、ば、バカな⋯⋯!」



 一切の思惑がバレ、レッドは見事に動揺した。レイラは吹き出す。



「図星だね〜。わっかりやす〜い!」


「うるさい⋯⋯!」



 そんなやり取りを交わしながら校舎へ入る。朝の学校は静かだった。廊下にはまだ誰もいない。遠くで職員たちの話し声が聞こえる程度だ。


 教室の鍵はすでに開いていた。2人は席に着き、いつもと変わらない時間を過ごす。やがて生徒たちが登校し始める。そしていつしか教室が賑やかになり、授業が始まる。どこから見ても平和な日常だった。


 ――だが。その裏では、すでに異変が静かに動き始めていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 学校の屋上。朝の風が吹き抜ける場所に、その男は立っていた。誰にも気づかれず。誰にも見つからず。まるで最初からそこにいたかのように。

 風が吹くたび、男の周囲に漂う黒い気配が揺らめく。男は校舎の下を見下ろした。そこには何百人もの生徒たちがいる。その中に、自分の探している2人もいる。



「さぁ」



 男は口元を吊り上げる。



「どんなものを見せてくれるのか――」



 その声は期待に満ちていた。新しい玩具を手にした子供のように。あるいは獲物を前にした捕食者のように。



「新しいエレメンターたちよ」



 不穏な笑みだけを残し、男は静かに空を見上げた。その瞬間。遠くで風が大きく唸った気がした。誰もまだ知らない。この日を境に、レッドとレイラの日常が大きく動き始めることを。

 そして、神獣たちが感じ取った“嫌な予感”が、すぐそこまで迫っていることを。

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