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エレメントクロニクル-Element Chronicle  作者: 水城ゆら
2章【新たなる出会い編】
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第42話「1000年越しの遺産」

 赤い結晶は、ウィザーの掌の上で静かに脈動していた。まるで生き物の鼓動のように、一定の間隔で淡い紅光を放つ。その光が会議室の天井や壁へ反射し、薄暗い空間を妖しく染め上げていく。

 誰も言葉を発しない。ただ、その小さな結晶へ視線を注いでいた。やがてウィザーは、ゆっくりと掌を持ち上げる。


「……みんな。さすがに、これは何か分かるよね?」



 穏やかな声が静寂を破る。その問いに、最初に反応したのはエリックだった。紅い結晶を真っ直ぐ見据えたまま、静かに答える。



「……『オーバートリガー』ですか」



 短い一言。しかし、その名が口にされた瞬間、室内の空気がさらに張り詰めた。ウィザーは小さく微笑む。



「そう。正確には、その欠片だね」



 そう言って指先で結晶を軽く撫でる。すると結晶の周囲へ無数の光粒子が舞い上がり、1枚の立体映像が展開された。

 そこには巨大な紅い宝石が映し出され、その周囲に6つの欠片が円を描くように浮かんでいる。そして、1つだけ欠けた部分が淡く輝いていた。

 ユリシスはその映像を見つめながら静かに口を開く。



「つまり……欠片を1つ回収したということですね。残るのは核が1つ。そして、欠片があと7つ」


「その通り。本当なら核そのものを見つけたかったんだけどね」



 ウィザーは満足そうに頷いた。しかし、どこか残念そうに肩をすくめる。リムは腕を組みながらため息を漏らした。



「1000年前。コードゼロの後から、ずっと探し続けて……見つかったのは、この欠片1つだけ。随分と気の長い話ね」



 ラオも苦笑する。



「世界中を探して、1個だけって。効率悪すぎるよね〜」



 ワイアットは興味深そうに結晶を覗き込んだ。



「そんなに大事な物なの?」



 その問いに答えたのはエリックだった。



「……ああ。もし核まで揃えば、世界の勢力図そのものが変わるからな」



 そこで1度言葉を切る。その重々しい一言に、場の空気が凍り付く。――オーバートリガー。それは、神代から存在する、計り知れない力を持つ未知の遺産。

 その全貌を知る者は、この世界でも極めて少ない。だが、ここにいる者たちは理解していた。あれを完成させれば、世界は再び大きく動き始めるということを。

 ウィザーは結晶を握り込み、光を消す。



「だから。」君たちには引き続き、オーバートリガーの捜索を任せたい」



 その視線が円卓を一周する。



「 〔第5代〕エレメンターの最終的な殲滅。そして、欠片の回収。これが今後の最優先事項だ」



 誰も異論は唱えない。それぞれが静かに頷く。



「……御意」



 そして、全員の声が重なり、会議室へ静かに響いた。その返答を聞き、ウィザーは満足そうに微笑む。



「よし。これで会議はひとまず終わりだ」



 そう言って時計へ目を向ける。すると、ふと思い出したように笑みを浮かべた。



「ああ、そういえば。今頃、彼女は順調に新しい任務を進めている頃かな」



 その言葉にエリックが小さく目を細める。先ほど任務へ向かった、あの少女の幹部。彼女が向かった先は――カラミティアルランド。

 学年旅行の舞台となる場所だった。ウィザーは穏やかな笑みのまま続ける。



「時間が空いている者は、あとで応援に向かってあげるといい」



 その何気ない一言が、これから始まる大きな事件の幕開けを静かに告げていた。会議が終わると、円卓を囲んでいた者たちは、それぞれ無言のまま席を立った。

 重厚な扉が次々と開閉し、冷え切った廊下へ足音が響いていく。ある者は新たな任務へ。ある者は情報整理のために。またある者は、次なる戦いへ備えるために。


 誰1人として無駄話をすることなく、それぞれの役割を果たすべく散っていった。最後まで部屋に残ったウィザーは、静まり返った円卓を眺めながら小さく息を吐く。



「……〔第5代〕か」



 その声には、期待とも警戒ともつかない響きが混じっていた。1000年前。彼らの前へ立ちはだかった〔第4代〕エレメンター。

 あの4人が見せた圧倒的な力は、今なおゼノカディアの記憶に深く刻まれている。だからこそ、同じ過ちは繰り返さない。まだ若く、未熟な今のうちに芽を摘む。

 それが、この会議で全員が共有した結論だった。ウィザーは静かに笑みを浮かべる。



「さて……君たちは、どこまで成長してくれるのかな」



 そう呟くと、部屋の照明がゆっくりと落ちていった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 一方、その頃――。夜の帳が下りたカラミティアルランドは、昼間とは違う賑わいを見せていた。海沿いには色鮮やかなイルミネーションが灯り、観光客たちの笑い声が潮風に乗って響いている。

 リゾートホテルの窓から漏れる明かり。音楽を奏でる噴水広場。人々は来週開催される観光祭へ期待を膨らませながら、それぞれ思い思いの夜を楽しんでいた。


 しかし、その平和な景色を見下ろす者がいた。高層ビルの屋上。吹き抜ける夜風が、1人の少女の髪を静かに揺らす。街の灯りを見渡しながら、彼女はゆっくりと双眼鏡を下ろした。



「……ふぅ。やっぱり広いわね。」



 視界いっぱいに広がる巨大なリゾート都市。観光エリアだけでも1日では到底回り切れないほどの規模だった。



「全部下見するには、時間が足りないか」



 そう呟きながら、彼女は胸元から1枚の地図を取り出す。そこには観光祭の会場、宿泊施設、交通網、警備配置の予想ルートまで細かく書き込まれていた。

 赤い印が付けられた場所を指先でなぞる。



「でも……都合のいい条件は、十分に揃ってる」



 その口元がゆっくりと吊り上がる。ホテル、観光客、大勢の学生、広大な敷地。そして、混乱が起これば人波に紛れられる最高の環境。

 まるで、この街そのものが作戦のために用意された舞台のようだった。彼女は地図を静かに畳む。そして街を見下ろしながら、不敵な笑みを浮かべた。



「それじゃあ――始めましょうか」



 夜風が強く吹き抜ける。その囁きに紛れるような、小さな声。



「恐怖と絶望の〝幻(ゆめ)〟を……!」



 次の瞬間。彼女の姿は夜の闇へ溶けるように消えていった。残されたのは、煌びやかな夜景だけ。まだ誰も知らない。

 この美しい街が、数日後には運命を大きく揺るがす戦いの舞台となることを。


そして、レッドたちが楽しみにしている学年旅行が――〔第5代〕エレメンターとゼノカディア、その最初の本格的な衝突の幕開けとなることを。

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