第41話「闇傑の円卓 ―Ⅲ」
静まり返った会議室に、わずかな電子音が響く。ユリシスの報告を聞き終えた一同は、それぞれ思案するように視線を落としていた。
断片的ではあるが、確実に〔第5代〕エレメンターは姿を現し始めている。しかし、その全貌は依然として霧の中だった。そんな沈黙を破るように、1人の少年が勢いよく手を挙げる。
「あ、あー!」
少し甲高い声が部屋中へ響き渡った。
「ぼくも! ぼくも最近、変な人を見つけたよぉ〜!」
どこか間延びした話し方。しかし、その場にいた誰もが彼の言葉を軽視することはなかった。なぜなら、彼の目は、この組織の中でも特別だったからだ。
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【ゼノカディア】 [No.15]
夜のエンターテイナー
《戦闘部》
主戦力/前線
『 ミジーク・ナアト 』
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ウィザーは穏やかに微笑む。
「ナアトも何か見つけたんだね」
「うん〜!」
「話してごらん」
ナアトは椅子の上で足をぶらぶらと揺らしながら、記憶を辿るように天井を見上げた。
「ユリシスのお話に入るかは分かんないんだけどぉ……この前、ぼくが巡回してた時ね〜? 戦闘部のみんなとは別の場所で、ちょっとだけ変な人を見かけたんだぁ」
円卓に座る面々の視線が、一斉に彼へ集まる。ナアトは人差し指を立てながら続けた。
「その人ねぇ……“槍”っぽいのを持ってたんだよ」
その一言で、空気が変わった。誰も口を挟まない。ナアトだけが、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「ぼくの見間違いじゃなければ……あれは〔第4代〕と同じ――『神槍』だったねぇ〜!」
その瞬間。会議室から音が消えた。静寂。ほんの一言で、場の空気は一変する。するとエリックが静かに口を開いた。その低い声には、僅かな警戒が滲んでいる。
「……神槍。だとすれば、雷のエレメンターということになる」
ワイアットも腕を組みながら頷く。
「普通の人が槍なんて持ち歩かないもんね。可能性としては十分あると思うよ」
するとリムは冷静に分析する。
「ただし、実際に確認したのはナアトだけ。証言だけで断定するのは危険ね」
ナアトも素直に頷いた。
「うん。だから絶対じゃないよぉ。でもぉ、ぼくの目はあんまり外れないからさ〜」
その何気ない一言に、ウィザーは静かに笑みを浮かべる。
「十分だ。それだけでも、大きな収穫だよ。」
彼は立体映像を操作する。世界地図の上へ新たな印が追加され、雷を示す黄色い光点が仮設マークとして点滅を始めた。炎、水氷、そして雷。
少しずつではあるが、〔第5代〕エレメンターの輪郭が浮かび始めている。しかし風だけが、未だ姿を見せない。ウィザーはゆっくりと円卓を見回した。
「さて。情報もある程度集まった。」
指先で机を軽く叩く。すると、立体映像が一斉に切り替わった。人物資料や地図は消え、代わりに1枚の年表が浮かび上がる。
そこには、1つだけ赤く強調された年代が記されていた。
――1000年前。
その数字を見つめながら、ウィザーは穏やかな笑みを浮かべる。
「それじゃあ。ここからは少し、状況を整理しようか。」
その口調は変わらず柔らかい。しかし、その瞳だけは真剣そのものだった。
次に語られる話が、この組織にとって何より重要な意味を持つことを、その場にいる全員が理解していた。空中に浮かぶ年表を、誰もが静かに見つめる。
映し出されているのは、今からおよそ1000年前――世界の歴史が大きく書き換えられた時代。ある意味、すべての始まりであり、すべての終わりでもあった大災厄。
《Code 0.0 ZERO》。
その文字が、赤黒い光を放ちながらゆっくりと脈打っている。ウィザーは円卓の中央へ歩み出ると、年表へ視線を向けたまま静かに口を開いた。
「……〔第5代〕エレメンターが少しずつ姿を現し始めている。そこまでは、みんなも理解しているね」
一同は無言で頷くと、ウィザーは続ける。
「じゃあ改めて聞こう。君たちは――〔第4代〕エレメンターを、どう受け止めていた?」
その穏やかな声に、会議室の空気が一段と引き締まる。問い掛けは短かった。だが、その意味は決して軽くない。
しばしの沈黙のあと、最初に口を開いたのはエリックだった。腕を組み、静かに目を伏せながら答える。
「……あの4人は、まさしく〝歴代最強〟――そう呼ばれるのに相応しいやつらだった」
普段は他者を認めることなど滅多にない彼が、迷いなくそう断言する。その言葉には、かつて実際に刃を交えた者だけが知る重みがあった。ユリシスも小さく頷く。
「 “あちらの”神獣側から見ても……彼らが存在していたおかげで、戦況は大きく変わっていたのでしょう」
するとラオは肩をすくめながら笑う。
「ボクらでも相当きつかったよね〜。あれは正直、二度と相手したくないかな」
どこか軽い口調だったが、その表情には珍しく苦笑が浮かんでいた。アヴァはゆっくりと拳を握り締める。そして低く漏れた声には、怒りが滲んでいた。
「……許さない。あいつらは、スルシィを傷つけた」
すると隣に座るスルシィも静かに俯く。
「アヴァも……あんなに傷だらけになって。それなのに、あの人たちは、最後まで立ってた」
彼女の声には、今なお消えない悔しさが滲んでいた。リリィは当時を思い返すように苦笑する。
「もうね、速すぎて全然見えなかったよ~。気付いたら、ビュンッ、ドーン! って」
身振り手振りを交えて説明する姿に、場の空気がほんの少しだけ和らぐ。ワイアットも同じく苦笑を浮かべた。
「本当に同じ人間だったのかなって思うくらい。今考えても信じられないよ」
すると最後に、リムが静かに目を閉じる。
「本来なら、誰1人生き残れないような攻撃でも……平然と切り抜けてきた」
その一言に、会議室は再び静寂に包まれた。誰も反論しない。誰も否定できない。
それほどまでに、〔第4代〕エレメンターという存在は規格外だった。全員の言葉を聞き終えたウィザーは、小さく微笑む。
「……そう、忘れていないようで安心したよ」
その笑みは穏やかだった。だが、次に発せられた言葉は、場の空気を一変させる。
「 “この1000年間で” もし君たちが忘れていたら、どうしようかと」
ゆっくりと視線を巡らせる。その一言が落ちた瞬間だった。部屋から音が消える。誰1人として動かない。聞こえるのは空調が微かに唸る音だけ。
そして、ウィザーはゆっくりと右手を前へ差し出した。何もなかった掌に、小さな紅い光が宿る。まるで心臓が鼓動するように、淡く脈打つその光は次第に結晶の形を成し始めた。
妖しく、美しく、そして底知れない力を秘めた赤い結晶。それを目にした瞬間、その場にいた全員の表情が僅かに変わる。
――そう。その存在を知らない者は、この部屋には1人もいなかった。
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