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エレメントクロニクル-Element Chronicle  作者: 水城ゆら
2章【新たなる出会い編】
43/61

第41話「闇傑の円卓 ―Ⅲ」

 静まり返った会議室に、わずかな電子音が響く。ユリシスの報告を聞き終えた一同は、それぞれ思案するように視線を落としていた。


 断片的ではあるが、確実に〔第5代〕エレメンターは姿を現し始めている。しかし、その全貌は依然として霧の中だった。そんな沈黙を破るように、1人の少年が勢いよく手を挙げる。



「あ、あー!」



 少し甲高い声が部屋中へ響き渡った。



「ぼくも! ぼくも最近、変な人を見つけたよぉ〜!」



 どこか間延びした話し方。しかし、その場にいた誰もが彼の言葉を軽視することはなかった。なぜなら、彼の目は、この組織の中でも特別だったからだ。




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【ゼノカディア】 [No.15]


夜のエンターテイナー


《戦闘部》

主戦力/前線


『 ミジーク・ナアト 』


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 ウィザーは穏やかに微笑む。



「ナアトも何か見つけたんだね」


「うん〜!」


「話してごらん」



 ナアトは椅子の上で足をぶらぶらと揺らしながら、記憶を辿るように天井を見上げた。



「ユリシスのお話に入るかは分かんないんだけどぉ……この前、ぼくが巡回してた時ね〜? 戦闘部のみんなとは別の場所で、ちょっとだけ変な人を見かけたんだぁ」



 円卓に座る面々の視線が、一斉に彼へ集まる。ナアトは人差し指を立てながら続けた。



「その人ねぇ……“槍”っぽいのを持ってたんだよ」



 その一言で、空気が変わった。誰も口を挟まない。ナアトだけが、ゆっくりと言葉を紡いでいく。



「ぼくの見間違いじゃなければ……あれは〔第4代〕と同じ――『神槍』だったねぇ〜!」



 その瞬間。会議室から音が消えた。静寂。ほんの一言で、場の空気は一変する。するとエリックが静かに口を開いた。その低い声には、僅かな警戒が滲んでいる。



「……神槍。だとすれば、雷のエレメンターということになる」



 ワイアットも腕を組みながら頷く。



「普通の人が槍なんて持ち歩かないもんね。可能性としては十分あると思うよ」



 するとリムは冷静に分析する。



「ただし、実際に確認したのはナアトだけ。証言だけで断定するのは危険ね」



 ナアトも素直に頷いた。



「うん。だから絶対じゃないよぉ。でもぉ、ぼくの目はあんまり外れないからさ〜」



 その何気ない一言に、ウィザーは静かに笑みを浮かべる。



「十分だ。それだけでも、大きな収穫だよ。」



 彼は立体映像を操作する。世界地図の上へ新たな印が追加され、雷を示す黄色い光点が仮設マークとして点滅を始めた。炎、水氷、そして雷。

 少しずつではあるが、〔第5代〕エレメンターの輪郭が浮かび始めている。しかし風だけが、未だ姿を見せない。ウィザーはゆっくりと円卓を見回した。



「さて。情報もある程度集まった。」



 指先で机を軽く叩く。すると、立体映像が一斉に切り替わった。人物資料や地図は消え、代わりに1枚の年表が浮かび上がる。

 そこには、1つだけ赤く強調された年代が記されていた。


 ――1000年前。


 その数字を見つめながら、ウィザーは穏やかな笑みを浮かべる。



「それじゃあ。ここからは少し、状況を整理しようか。」



 その口調は変わらず柔らかい。しかし、その瞳だけは真剣そのものだった。

 次に語られる話が、この組織にとって何より重要な意味を持つことを、その場にいる全員が理解していた。空中に浮かぶ年表を、誰もが静かに見つめる。


 映し出されているのは、今からおよそ1000年前――世界の歴史が大きく書き換えられた時代。ある意味、すべての始まりであり、すべての終わりでもあった大災厄。


 《Code 0.(コード)0 ZERO(ゼロ)》。


 その文字が、赤黒い光を放ちながらゆっくりと脈打っている。ウィザーは円卓の中央へ歩み出ると、年表へ視線を向けたまま静かに口を開いた。



「……〔第5代〕エレメンターが少しずつ姿を現し始めている。そこまでは、みんなも理解しているね」



 一同は無言で頷くと、ウィザーは続ける。



「じゃあ改めて聞こう。君たちは――〔第4代〕エレメンターを、どう受け止めていた?」



 その穏やかな声に、会議室の空気が一段と引き締まる。問い掛けは短かった。だが、その意味は決して軽くない。

 しばしの沈黙のあと、最初に口を開いたのはエリックだった。腕を組み、静かに目を伏せながら答える。



「……あの4人は、まさしく〝歴代最強〟――そう呼ばれるのに相応しいやつらだった」



 普段は他者を認めることなど滅多にない彼が、迷いなくそう断言する。その言葉には、かつて実際に刃を交えた者だけが知る重みがあった。ユリシスも小さく頷く。



「 “あちらの”神獣側から見ても……彼らが存在していたおかげで、戦況は大きく変わっていたのでしょう」



 するとラオは肩をすくめながら笑う。



「ボクらでも相当きつかったよね〜。あれは正直、二度と相手したくないかな」



 どこか軽い口調だったが、その表情には珍しく苦笑が浮かんでいた。アヴァはゆっくりと拳を握り締める。そして低く漏れた声には、怒りが滲んでいた。



「……許さない。あいつらは、スルシィを傷つけた」



 すると隣に座るスルシィも静かに俯く。



「アヴァも……あんなに傷だらけになって。それなのに、あの人たちは、最後まで立ってた」



 彼女の声には、今なお消えない悔しさが滲んでいた。リリィは当時を思い返すように苦笑する。



「もうね、速すぎて全然見えなかったよ~。気付いたら、ビュンッ、ドーン! って」



 身振り手振りを交えて説明する姿に、場の空気がほんの少しだけ和らぐ。ワイアットも同じく苦笑を浮かべた。



「本当に同じ人間だったのかなって思うくらい。今考えても信じられないよ」



 すると最後に、リムが静かに目を閉じる。



「本来なら、誰1人生き残れないような攻撃でも……平然と切り抜けてきた」



 その一言に、会議室は再び静寂に包まれた。誰も反論しない。誰も否定できない。

 それほどまでに、〔第4代〕エレメンターという存在は規格外だった。全員の言葉を聞き終えたウィザーは、小さく微笑む。



「……そう、忘れていないようで安心したよ」



 その笑みは穏やかだった。だが、次に発せられた言葉は、場の空気を一変させる。



「 “こ(・)の(・)1(・)0(・)0(・)0(・)年(・)間(・)で(・)” もし君たちが忘れていたら、どうしようかと」



 ゆっくりと視線を巡らせる。その一言が落ちた瞬間だった。部屋から音が消える。誰1人として動かない。聞こえるのは空調が微かに唸る音だけ。


 そして、ウィザーはゆっくりと右手を前へ差し出した。何もなかった掌に、小さな紅い光が宿る。まるで心臓が鼓動するように、淡く脈打つその光は次第に結晶の形を成し始めた。

 妖しく、美しく、そして底知れない力を秘めた赤い結晶。それを目にした瞬間、その場にいた全員の表情が僅かに変わる。


 ――そう。その存在を知らない者は、この部屋には1人もいなかった。

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