第39話「闇傑の円卓 ―Ⅰ」
ここは、誰も知らない場所。世界地図のどこにも記されることなく、幾重もの偽装と結界によって外界から完全に隔絶された極点。
永久に――表とは閉ざされた場所。冷え切った空気だけが、長い回廊を静かに流れていた。
規則正しく並ぶ照明は最低限の明るさしか保っておらず、無機質なコンクリートの壁には人の温もりなど微塵も感じられない。
通路を歩く足音だけが、静寂を切り裂くように反響していた。
数名の人物が無言で列を成し、その姿はまるで感情を捨てた兵士のようだった。
やがて、その1行は巨大な扉の前で足を止める。漆黒の金属で造られたその扉には、奇妙な紋章が刻まれていた。中央には、紅く輝く結晶。それを囲むように幾重もの円環が重なり合い、一目見ただけで不気味な威圧感を放っている。
そして、そのうちの1人が認証装置へ手をかざす。低い電子音が響き、重厚なロックが1つ、また1つと解除されていく。
――ゴォォン……。
扉がゆっくりと開いた。室内は薄暗く、天井から落ちる淡い光だけが円卓をぼんやりと照らしている。
部屋の中央には巨大な黒い円卓。その周囲には十脚の椅子が等間隔に並び、すでに数名の人影が腰を下ろしていた。
逆光のせいで顔立ちははっきり見えない。だが、その誰もが只者ではないことだけは、一歩足を踏み入れた瞬間に理解できた。
張り詰めた空気。肌を刺すような殺気。やがて最後の1人が席へ着く。そして静寂を破るように、部屋の奥から穏やかな声が響いた。
「よし」
その一言だけで、全員の視線が自然と集まる。柔らかな笑みを浮かべながら立ち上がった、“あの”男。その雰囲気はどこか親しみやすい。
しかし、その瞳の奥には誰よりも深い闇が宿っていた。
「みんな集まったね」
すると男は円卓を見渡し、満足そうに微笑む。
「それじゃあ――久々の会議を始めよう」
その瞬間、壁面の巨大モニターが一斉に点灯した。 暗闇だった室内へ青白い光が走り、男の背後へ1つの紋章が映し出される。
それは、この組織を象徴する印。
――【ゼノカディア - XenoCadia - 】。
そしてその男は、その頂点に立つ存在だった。
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【ゼノカディア】 [No.2]
《幹部》
創立者/リーダー
『 ウィザー・ベルダークネス 』
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やがて場の空気が完全に支配されたことを確認すると、ウィザーは楽しげに両手を軽く叩く。
「さて、今日は少し重要な話がある」
すると、エリックとともにいた少女が椅子にもたれながら小さく息をついた。
気だるそうに前髪をかき上げながら、彼女は視線をウィザーへ向ける。
「呼ばれたから来たけど……今回は主力戦闘部隊の会議でしょう? だったら、幹部の私とエリックまで呼ぶ必要あった?」
その問いに、ウィザーは「ああ」と軽く頷いた。
「そこそこ大事な話だからね」
そう言って少し考える素振りを見せる。
「……とはいえ。正直なところ、エリックだけいれば十分かな」
あまりにもあっさりとした一言に、女性は呆れたように肩を落とした。そしてウィザーは悪そびえたように笑う。
「……相変わらずね」
「それより事前に伝えていた任務、覚えてるよね?」
「ええ」
「早速君にはカラミティアルランドへ向かってほしい。必要になったら後から応援を送るよ」
すると少女は静かに立ち上がり、椅子を戻す。
「……了解」
短く答えると、そのまま背を向ける。閉まりゆく扉の向こうへ姿が消えるまで、誰1人として余計な言葉を口にする者はいなかった。
こうして、1人の幹部が任務へ向かったことで、本当の意味での会議が幕を開けようとしていた。重厚な扉がゆっくりと閉じる。
――ゴォン。
鈍く響いた音は、まるで外界との繋がりが完全に断たれたことを告げる合図だった。円卓を囲む者たちは口を開かない。互いに力量を知り尽くしているからこそ、無駄な言葉は必要ない。
ここに残ったのは11名。ここへ集められた者たち全員が、全部で上から1から15まである、戦力によって格付けされた組織最高戦力 [No.] の称号を与えられた、またの名を『闇傑』と呼ばれる精鋭たちである。
ウィザーは円卓の中央へ歩み寄ると、机へ軽く指を触れた。すると淡い光が走り、立体映像が空中へ展開される。映し出されたのは世界地図。その各地には無数の光点が点滅し、ゼノカディアが把握している勢力圏や監視地点が表示されていた。
「それじゃ、本題に入ろうか」
穏やかな声とは裏腹に、室内の空気は一段と張り詰める。ウィザーは視線だけをエリックへ向けた。
「まずは現在の状況から。よろしく」
エリックは小さく頷き、資料を開く。
「現在確認できている〔第5代〕エレメンターは2名」
すると映像が切り替わる。そこへ映し出されたのは、レッドとレイラの写真だった。
「炎のエレメンター。そして、水氷のエレメンター。いずれも学生。能力の詳細は解析中です」
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【ゼノカディア】 [No.7]
漆黒の詠唱士
《幹部》
主戦力/総戦線指揮/総合
『 エリック・ロア 』
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ウィザーは興味深そうに写真を眺めながら、すぐに次の問いを投げかけた。
「ありがとう。じゃあ、風と雷のやつらは?」
短い沈黙が流れた。その後、エリックは首を横へ振る。
「……残念ながらまだ未確認です情報そのものが少なく、確証を得られる段階には至っておりません」
「そう」
するとウィザーは苦笑する。
「まあ、自分も同じだからね。ここまで情報が薄いとは思わなかったよ。他のみんなはどうかな?」
そう言いながら彼は腕を組み、円卓を見回した。その問いに、1人の少女がゆっくり肩をすくめる。
毛先が赤みがかった長い髪を揺らし、どこか退屈そうにため息をついた。
「噂程度なら聞いてる。でも、それが真実かどうかは分からないわ」
その瞳は、まるで相手の本心まで見透かしているかのように細められていた。
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【ゼノカディア】 [No.9]
終嘘の少女
《戦闘部》
主戦力/総戦線
『 リム・ファクト 』
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エリックは腕を組んだまま視線を向ける。
「お前ほどの情報収集能力でもか」
「仕方ないじゃない」
リムは軽く笑った。
「この世は嘘だらけ。手に入る情報全部が本物とは限らないもの」
「なるほど。君でも掴めないなら、まだ時期じゃないのかもしれないね」
そう言って、ウィザーは納得したように頷く。するとその空気を切り裂くように、別の席から声が上がった。
「だったらさ。街ごと吹き飛ばしちゃえば?」
足を組んだ少年が、退屈そうに頬杖をつく。その一言に、数人が視線を向けた。
「エレメンターなら嫌でも出てくるでしょ」
すると隣に座るもう1人の少女も、くすりと笑った。
「いい考えね。ついでに街も跡形なく壊しちゃえば、一石二鳥じゃない?」
まるで今日の天気を話すかのような軽い口調。しかし、その内容はあまりにも狂気に満ちていた。室内の空気がさらに冷え込む。ウィザーは困ったように笑った。そう言って、やがて2人を見つめる。
「相変わらず、息ぴったりだね、2人とも。でも、その方法を使う前に……」
彼はゆっくりと言葉を続けようとした。円卓には、根本的な目的は同じでも、それぞれ異なる思想と狂気を抱えた精鋭たちが集っている。
――そして、この会議はまだ始まったばかりだった。
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