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エレメントクロニクル-Element Chronicle  作者: 水城ゆら
2章【新たなる出会い編】
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第37話「暗闇の気配」

 夕暮れが街を包み込み始めた頃。列車は規則正しい揺れを刻みながら、街の駅へとゆっくり滑り込んだ。

 プシューッ、と空気の抜ける音とともに扉が開く。


 乗客たちが次々とホームへ降り立つ中、1人の高校の制服を着た少女が小さな旅行鞄を手に駅へ足を踏み入れた。

 肩の上ほどまで伸びた髪が、海から吹く風にふわりと揺れる。年齢はレッドたちと同じくらいだろうか。どこか柔らかな雰囲気をまとっている。



「ふぃ……」



 思わず声が漏れる。ホームの向こうにはいつもの駅近隣の街。夕陽を映した道路のコンクリートが、宝石を散りばめたようにきらめいていた。



「早く帰ろ〜っと……」



 少女はしばらく身体を伸ばしていたが、ふと駅構内へ視線を向ける。観光案内板の前には色鮮やかなポスターが何枚も貼られていた。



「えっと……」



 興味を引かれるまま近づき、その中の1枚を手に取る。そこには大きく、楽しげな文字が踊っていた。――『カラミティアルランド観光祭』

 さらにその下には、『高校生による一般参加型イベント開催!』という文字。



「高校生……?」



 少女は目を丸くし、パンフレットを開いた。

 ページをめくると、色とりどりの屋台やステージイベントの写真が並び、その一角には今年参加する学校の紹介まで掲載されている。



「あっ……」



 小さく声を上げる。1枚の集合写真。そこには制服姿の生徒たちが笑顔で写っている。



「この学校……」



 少女はその写真をじっと見つめた。名前こそ知らない。けれど、不思議と目を引く何かがあった。すると、やがて少女はぱっと表情が明るくなる。



「一般参加もできるんだ……! 楽しそう!」



 思わず胸の前でパンフレットを抱きしめ、小さく飛び跳ねる。その仕草は年相応の少女らしく、見ている人まで笑顔になってしまいそうだった。



「よーし。絶対行こう!」



 やりたいことが1つ増えたことが嬉しかったのだろう。少女は軽い足取りで改札を抜ける。自動ドアが開くと同時に、夕暮れの風が優しく頬をなでた。そのときの彼女の笑顔は、まるで新しい世界へ踏み出した子どものように輝いていた。


 しかし――彼女自身はまだ知らない。この旅が、ただの観光では終わらないことを、そして、これから出会う2人の少年少女が、自分の運命を大きく変えていくことも。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 同じ頃。街の喧騒から遠く離れた、とある施設。分厚い鋼鉄製の扉が静かに閉まり、外界の音は完全に遮断されていた。

 無機質なコンクリートの通路。等間隔に並ぶ照明だけが、冷たい白色の光を落としている。その奥にある一室では、1人の少女が端末を操作しながら、数枚の資料へ目を通していた。


 机の上に並ぶファイル。映し出された航空写真。そして、1枚の資料の表紙には大きく記されている。――『学年旅行計画書』。少女は資料を1枚めくり、小さく口元を緩めた。



「なるほど……」



 その声は静かでありながら、どこか獲物を見つけた捕食者のような響きを帯びていた。



「学年旅行……ね」



 薄暗い部屋には、端末の駆動音だけが静かに響いていた。少女は椅子にもたれかかりながら、机いっぱいに広げられた資料へ視線を落とす。


 そこには学年旅行の日程表、宿泊先の配置図、移動ルート、さらには生徒名簿に至るまで、驚くほど詳細な情報が並んでいた。

 どれも一般人が簡単に手に入れられるものではない。



「……ずいぶん丁寧に調べたものね」



 少女は1枚の写真を指先でなぞる。そこに写っていたのは、校門前で笑い合うレッドたちの姿だった。



「ふふっ……」



 興味深そうに細められた瞳が、その少年へ向けられる。



「これが、〔第5代〕エレメンター……」



 その瞬間。自動ドアが低い駆動音を立てながら左右へ開いた。



「相変わらず、仕事が早いな」



 聞き慣れた低い声。少女は振り返ることなく、小さく肩をすくめた。



「エリック」



 部屋へ入ってきた男は、資料の山を見るなり口笛を吹く。



「へぇ……ここまで集めたのか。お前とは俺の任務後振りだな」


「情報部が優秀なだけよ」


「謙遜するな」



 エリックは机の端に腰を預け、1枚の資料を手に取る。



「学校行事か」


「ええ」


「なるほど。情報部がいい餌って言ってた理由が分かった」



 女性は端末の画面を切り替える。そこには旅行先――カラミティアルランドの地図が表示されていた。



「4泊5日。観光祭。一般参加型イベント。そしてゼログランド……これだけ条件が揃えば十分だな」



 1つひとつの単語を確認するたび、エリックの口元には薄い笑みが浮かぶ。



「でしょう? 人も集まるし」


「警備は分散する」


「目撃者も多い」


「混乱も起きやすいしな」



 2人はまるで答え合わせでもするように言葉を重ねる。そのやり取りには、一切の迷いがなかった。やがて静寂が訪れる。

 やがて女性は資料を閉じると、ゆっくり立ち上がった。



「それより」


「ん?」


「今日は集まりの日だったわね」


「ああ。もうすぐ始まる


「残りの連中はどうしたの?」


「任務中らしい。少し遅れて来るそうだ」


「珍しく1度に全員は揃わないのね」


「まあ、仕方がないさ」



 そして2人はその部屋を後にする。冷たい照明が照らす通路には、足音だけが一定の間隔で響いていた。やがて通路の突き当たりに、1枚の巨大な鋼鉄製の扉が現れる。

 厚さは人の腕ほどもあり、何重ものロック機構が組み込まれている。エリックが認証装置へ手をかざすと、低い電子音が鳴った。


『――認証完了』


 重々しい音を響かせながら、巨大な扉がゆっくりと開いていく。その先には、円形に造られた広大な会議室が広がっていた。

 中央には巨大な円卓。周囲には等間隔に並ぶ椅子。壁一面には無数のモニターが埋め込まれ、世界各地の映像や膨大なデータが絶え間なく映し出されている。

 だが、その広い部屋にはまだ2人しかいない。



「早く来すぎたかしら」



 そうして少女が小さく息をつく。



「開始まで十分以上あるから、いいじゃないか」



 エリックも空いている席へ腰を下ろした。そして、静寂。重苦しい空気だけが会議室を支配する。――その時だった。



「おっ」



 不意に、部屋の入口から軽い声が響く。



「もう来てたんだ」



 2人が同時に振り向く。開いた扉の向こう。そこには、“あの人物”がゆっくりと姿を現していた。彼――その男は穏やかな笑みを浮かべながらも、その眼差しには底知れない冷たさを宿している。



「感心、感心。こういうところは、本当に真面目だね」



 男は肩をすくめるように笑った。その言葉に、エリックは静かに立ち上がる。



「……いらっしゃいましたか」



 すると男は円卓へゆっくり歩み寄りながら、やがて意味深な笑みを浮かべ続けていた。

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