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エレメントクロニクル-Element Chronicle  作者: 水城ゆら
1章【新命の始まり編】
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第11話「神剣の継承」

 神剣――『神託す冠華の灼焔(フレアノヴァ)』を構えた瞬間。レッドは、自分の中で何かが変わったことを感じていた。

 手に伝わる重み。腕に伝わる振動。胸の奥で燃え続ける炎。どれも初めて味わう感覚だった。それなのに不思議と違和感がない。まるで最初からこの剣を握ることが決まっていたかのように。

 神剣は静かに、しかし確かにレッドへ応えていた。



「……」



 握りしめた柄に力が入る。目の前には竜牙兵(スケルトンゴーレム)。その数は3体。骨で構成された異形の怪物。紫色の瞳が妖しく揺れている。

 その姿を見ただけで普通の人間なら足が竦むだろう。だが、レッドは逃げなかった。いや、逃げられなかった。

 背後には眠ったままの生徒たちがいる。先生たちがいる。レイラもいる。守らなければならない。その思いだけが彼を立たせていた。



「……これで、いいのか?」



 レッドは視線を敵から外さないまま尋ねる。フレイは静かに頷いた。



「そうだ」



 その口元に小さな笑みが浮かぶ。



「まずはやってみろ。エレメンターとしての血が騒ぐかもしれないぞ?」


「血が騒ぐって……」



 そんな大げさな。そう言おうとして、レッドは言葉を止めた。

 確かに感じる。身体の奥。心臓の鼓動に合わせて脈打つ熱。今まで知らなかった力。それが確かに存在していた。炎が燃えている。身体の中で。魂の中で。

 まるで目覚めの時を待っていたかのように。



「……」



 レッドはゆっくり息を吸う。そして吐いた。恐怖はまだある。だが不思議と震えは止まっていた。フレイが隣にいるからか。それとも神剣のおかげなのか。

 理由は分からない。ただ1つだけ確かなことがあった。今、自分は戦える。そう思えた。



「今のお前はまだランク〈F〉だが、大丈夫だ」


「……そういうものなのか?」


「そういうものだ」



 妙に自信満々だった。レッドは思わず苦笑する。この神獣、本当に適当だな。

 だが、だからこそ少し安心する。



「――君たちならきっと辿り着ける」



 すると、フレイは続ける。



「かつて、あの子がいた場所まで」


「……あの子?」


「⋯⋯あぁ、今は気にするな」



 フレイはそれ以上語らなかった。レッドも深くは聞かない。今は目の前のことをどうにかするのが先だ。



「……よし」



 拳を握る。覚悟を決める。逃げない。目を逸らさない。守るために。前へ進むために。



「準備はできたな?」



 フレイがそう問いかけると、レッドは頷いた。



「ならば――思うままにやってみろ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 竜牙兵(スケルトンゴーレム)が咆哮した。



「GRAAAAAAAAAAAAA!!」



 地面が揺れる。校庭の砂が舞い上がる。同時に3体が動き出した。一直線、迷いなく。ただ、獲物を仕留めるために。



「来る……!」



 レッドの心臓が跳ねる。速い。見た目以上に速かった。巨体が信じられない速度で迫ってくる。だがその瞬間、世界がゆっくりになった。



「……え?」



 風の流れが見える。砂の動きが見える。敵の重心が見える。自分の身体が理解している。どう動けばいいかを。頭で考える前に、身体が答えを知っていた。

 そして、レッドは地面を蹴ると、爆発音にも似た衝撃が響いた。



「なっ――!?」



 景色が流れる。速い。自分でも信じられないほど速い。まるで風そのものになったような感覚だった。

 やがて、1体目の懐へ潜り込み、竜牙兵(スケルトンゴーレム)が反応する。腕を振り下ろす。だが遅い。レッドは既にその場所にいなかった。



「すごい……!」



 思わず声が漏れる。身体が軽い。スキルスーツ。エレメント。『神託す冠華の灼焔(フレアノヴァ)』。その全てが自分を支えている。戦えている。



「だったら……!」



 レッドは神剣を握り直す。そして炎が集まり、刀身が輝く。まるで太陽の欠片を宿したかのように。やがて熱が高まり力が集まる。胸の奥の炎が応えている。



「これが……スキル⋯⋯」



 レッドは自然と理解した。説明など必要なかった。力の使い方が流れ込んでくる。

 炎が導いている。身体が教えている。ならば――。



「スキル発動――」



 炎が弾けた。紅蓮の光が校庭を照らす。3体の竜牙兵が同時に振り向く。だが、もう遅い。レッドは剣を構えていた。

 左足を引き、腰を落とす。そして重心を定める。その姿はまるで長年剣を振るってきた剣士のようだった。自分でも不思議だった。初めてなのに。なぜか分かる。どう振ればいいか。どう斬ればいいか。



「逃れられぬ運命を――」



 神剣が輝く。それは太陽のように、夜を終わらせる朝日のように。



「この一撃で焼き尽くす――!」



 そして、レッドは踏み込んだ。閃光。それしか見えなかった。

 紅蓮の軌跡が闇を切り裂く。炎が踊る。光が奔る。空気が悲鳴を上げる。そして、竜牙兵(スケルトンゴーレム)が気づいた時には、既に斬撃の軌道の中にいた。



「 【日昇閃華(にっしょうせんか)】 」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 一瞬だった。本当に一瞬。気付いたときには、レッドは竜牙兵たちの背後に立っていた。神剣を握ったまま。振り返らず、ただ呼吸だけが聞こえる。



「……これで、終わりだ」



 レッドは誰に聞くでもなく呟く。その直後だった。


 ゴォォォォォォォォォォォッ!!


 炎が噴き上がる。竜牙兵の足元から。それは天へ向かって、巨大な炎柱が生む。3体の怪物を飲み込みながら、まるで意思を持つ炎の獣のように。咆哮しながら。暴れながら。

 全てを焼き尽くしていく。



「GAAAAAAAAAAAAA!!」



 断末魔。骨が砕ける音。闇が消える音。――やがて、炎が収まった時。

 そこには何も残っていなかった。3体の竜牙兵(スケルトンゴーレム)は、完全に消滅していた。



「……実に見事だ」



 フレイが静かに言う。その声には珍しく満足そうな響きがあった。



「やはり君を選んだ甲斐があった」



 レッドは剣を下ろす。まだ少し息が荒い。



「……終わった?」


「今の敵は、な」



 そしてフレイは校舎を見上げる。



「根本を断たない限り、いくらでも現れる」


「……そうだよな」



 異変はまだ終わっていない。これは始まりに過ぎない。



「それと」



 すると、フレイが続ける。



「今ので君はランク〈E〉程度には到達しただろう」


「だからそのランクって……」


「後で説明する」


「絶対説明しないやつだろそれ」


「気のせいだ」


「絶対違う」



 レッドは呆れる。だが、少しだけ笑ってしまった。恐怖は消えていた。代わりに、胸の奥で炎が燃えている。揺るがない炎。前へ進むための炎。エレメンターとしての第一歩。

 その証だった。フレイは校舎の奥を見つめる。その瞳がわずかに鋭くなる。



「――来るぞ」


「え?」



 次の瞬間。校舎のどこかから轟音が響いた。壁が砕ける音。何かが動き出した音。そして異様な気配。先ほどと同じ、濃密な闇。レッドは神剣を握り直す。

 戦いはまだ終わっていない。むしろここから始まるのだ。



「――任せて」



 真っ直ぐ前を見る。もう迷いはなかった。フレイは満足そうに微笑む。



「いい返事だ」



 そして静かに告げた。



「では――また君の灯火の光を見せてもらおう。レッド」



 少年は頷く。胸に宿る炎と共に。さらなる異変の中心へ向かって。

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