80-26
久志はどうやって家に帰り着いたのかすら、定かではなかった。
玄関のドアを開け、自室のベッドに倒れ込むまで、意識は混濁したまま。
それほどまでに、久志の思考はあの「事実」に支配されていた。
耳の奥で、唯の声が何度も、何度もリフレインする。
「双子の、姉弟」
運命だと信じていた、あの吸い込まれるような灰色の瞳。
鏡合わせのような自分たちの色彩は、惹かれ合うための目印ではなく、決して交わってはいけない血の濃さを示す刻印だったのだ。
運命と呼ぶには、あまりにも残酷すぎる。
(……もう、諦めるしかないのか)
どんなに手を伸ばしても、どんなにもがいても。
この血縁という名の鎖を断ち切る術を、俺は持っていない。
これ以上、俺が「男」として彼女を求めれば、それは唯を、そして二人を育んできた家族のすべてを、取り返しのつかない形で傷つけることになる。
そんな、逃げ場のない結論に、心が塗り潰されようとしていた。
血の繋がった、姉と弟。
その記号が、愛し合った記憶を一つずつ、どす黒い罪悪感へと書き換えていく。
久志は暗闇の中で、自分の腕を強く噛んだ。
痛みが走る。
この体の中に流れている血が、彼女と同じものであることが、今はただ、ひたすらに恐ろしかった。
◆
唯は電気もつけずに、暗い部屋の中でただ一人、ベッドの上で丸まっていた。
厚い布団を肩まで羽織り、手元のスマホの明かりだけが、彼女の顔を白く浮かび上がらせている。
画面に映し出されているのは、付き合い始めてからの二年間。
久志と共に歩んできた時間の断片、膨大な数の写真だった。
泣き腫らした目は真っ赤に充血し、視界が滲む。
(ごめん……ごめんね、久志……)
心の中で、何度も、何度も、彼に謝り続けていた。
幸せそうに笑う写真の中の二人を見るたびに、また新しい涙が溢れ出し、スマホの画面を濡らす。
楽しかった思い出、些細なことで意地を張って喧嘩したこと、翌日にはどっちからともなく謝って仲直りしたこと。
夏祭りの花火。
騒がしかった文化祭。
凍える手で繋ぎ合ったクリスマス。
大晦日の除夜の鐘を聴き、新しい一年の幸せを願った初詣。
お互いを想って贈り物を交わしたバレンタインやホワイトデー。
積み上げてきた二年の歳月が、今は鋭い棘となって、唯の胸を容赦なく締め付けていく。
思い出せば出すほど、その「血」の繋がりが呪わしく、狂おしい。
「……大好きだよ。大好き、久志」
消え入りそうな小さな声で、唯は呟いた。
もう二度と、恋人として呼ぶことは許されないその名を、暗闇の中にそっと放り投げるように。
to be continued.




