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Separate Memory 〜美しい地獄で生きる。その為に世界を見捨てた。〜  作者: 水瀬輝夜
-愛という名の鳥籠-

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78-24

久志は優也と別れた後、リク電に乗り青葉台で降りた。

改札前の広場に出ると、そこには見知った姿があった。天多美桜吏あまたみおりだ。


「久しぶり」

「……本当に、貴女はいつも神出鬼没ですね」

「ふふっ。君は少し、成長したのかしら?」


美桜吏の問いに、久志は自嘲気味に肩を落とした。


「そんなことないですよ。身体は成長しても、中身は全然です。成長していたら、彼女に振られたりしません。あんなに泣かせたりもしなかった」

「そう……」


久志の言葉を、美桜吏は素っ気なく受け流す。


「本当に、好きだったんです。なのに……」

「人の心とは、季節のように移り変わるものよ」

「……気持ちが変わるのも仕方がない、ということですか?」

「君は、本当に彼女のことを想っていたの?」

「当たり前です! 大好きだった。だからこんなに傷ついている。それがわからないんですか!」


久志は溜まっていた感情を爆発させた。

しかし、美桜吏はどこまでも淡々と、冷ややかなまでに落ち着いた声で返した。


「本当にそうかしら? 悪いけれど、私にはそうは思えないわ。それが本当に切実な想いなら、なぜ君は『愛』という言葉を使わないの? 『好き』という言葉は聞くけれど、君は一度も『愛してる』とは言わなかった」

「それは……恥ずかしいからです。男が簡単に口にするもんじゃないし」

「そうかしら。本当に君の中にある想いが本物なら、魂からその言葉が零れるはずよ。『恥ずかしい』なんてただの言い訳。本当の君は、彼女を好きな『自分』が好きだったんじゃないかしら? 彼女のことはもちろん好ましく思っていたでしょう。けれど、本当の意味で愛してはいなかった」

「いつもそうだ! 貴女の言葉は、いつだって意味がわからない!」

「『好き』は一人でも完結できる。けれど『愛』はそうはいかないわ。互いを想いやり、良い所も悪い所もすべて含めて尊重し合う。それが愛し合うということじゃないかしら?」

「……俺は彼女を愛していなかった。そう言いたいのか?」

「以前も言ったはずよ。彼女から発せられた言葉をそのまま信じてはダメ。言葉の裏に隠された真意を読み解かなければ、彼女が本当に伝えたかったことは届かないわ」

「唯の……真意?」

「彼女はなぜ、別れを切り出したの? 出会ってから今日までの時間の中に、答えはあるはずよ。……もしかしたら、君はそれに気づかないフリをしていただけかもしれない。知るのが怖かったから? それとも、受け入れたくなかったから?」

「フリなんて、そんなことあるわけ――」

「本当に? そうかしら」

「……そうですっ!」


意地を張る久志に、美桜吏は静かに言葉を重ねる。


「私が言えるのは、これまでの出会いも別れも、そしてこれからの出会いと別れも、すべては君が成長するために必要な過程だということよ。人生において、無駄なことなんてひとつもない。起きた出来事を『成長』と捉えるか『不幸』と捉えるか。その違いでしかないの」


久志は美桜吏の達観した言葉が理解できず、苛立ちをぶつけた。


「だから、何が言いたいんですか!」

「人は一人では生きていけない。だから誰かを探し求める。でも、それってある意味で『呪い』に似ていないかしら?」

「……人を好きになったことがない貴女には、わからないですよ」

「確かに、想われてはいたわ。けれど、愛されたことは一度もないの」

「何を言ってるんです? 想われるのだって、愛のひとつじゃないんですか?」

「その違い……いつか君にもわかる時がきっと来るわ」

「いつかって、いつですか。命はそんなに長くはないんだ」

「そう! 長くはない。だから、後悔のないように一日一日を大切に過ごすしかないのよ。どんなにもがき足掻いても、命にリセットボタンはないのだから」

「リセット……。確かに、ゲームや漫画みたいなご都合主義はない。死んだら戻ってこれない……。なぜ、そんな簡単なことを忘れていたんだ……」


久志が呆然と呟くと、美桜吏は最後にもう一度、彼を射抜くような視線を向けた。


「もしも、この先……君の目の前に重大な選択が訪れたら、後悔しないように選びなさい」


それだけを言い残し、美桜吏は雑踏の中へと消えていった。


to be continued.

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