77-23
学校が休みの日曜日。
久志は、藤ノ井の噴水公園に来るよう優也に呼び出された。
優也は久志と顔を合わせるなり、挨拶もそこそこに本題を切り出した。
「本当にいいのか? 本当に、あいつを諦めきれるのか?」
久志には、それが何の事かすぐに分かった。
「俺は……」
久志の心にはまだ迷いがあり、言葉がうまく出てこない。
「唯は大切な幼馴染で、お前は大切な親友だ。だから俺が願うのは、二人が幸せであってほしいってことだけだ。でも、二人が一緒になるのが幸せなのかどうか、それは俺のわがままかもしれない。……俺は唯に助けられてきた。だから、これ以上あいつを苦しませたくはない。お前のその気持ちも、少しは分かるつもりだ」
久志は、今心にあるやるせない思いを紡ぐ。
「なあ優也、俺は今、人生ってやつがよく分からないんだ。何のために人は生きてるんだろうな」
「俺も時々考えるよ。運命の人を捜すためか、子孫を残すためか、それとも歴史に名前を刻むためか……。どんなに考えても、これといった答えは出てこないけどな」
「本当、なんで命なんてあるんだろうな。テレビのコメンテーターが言ってたんだ。『今ある世界での修行次第で天国か地獄へ送られる』って。でもさ、本当に天国なんてあるのか?」
「……で、それが唯となんの関係があるんだ?」
「関係か。俺にもよく分からない。ただ、今の俺にできることは、これ以上動いて唯ちゃんを苦しめたくないってことだけなんだ」
「お前の唯への想いは、そんなものなのか? 久志! お前が『あの時、俺に言った言葉』を今でも忘れてない。その言葉を、今度は俺がお前に返してやるよ」
「……俺の言葉?」
「お前にとっては、何気ない一言だったのかもしれない。でも、その言葉があったから、俺は今、和翠と一緒にいられるんだと思ってる」
久志は縋るような視線を向けた。
「なあ優也、俺はどうしたらいい?」
優也は、親友を諭すような口調で言った。
「簡単だ。すごく、単純なことだよ。___掴み取れよ。どんなに苦しくても、どんなに悲しくても、たとえ不安で押しつぶされそうでも。その心にある負の感情を全部抱えたままでいいから、今、一番大切な人の手を取れ。一緒に歩いて行けば、それはいつか明るい未来に繋がるはずだろ? 違うか?」
「……俺、そんなこと言ったのか?」
「ま、プラスアルファで俺の持論も入ってるけどな。でも、お前のあの言葉があったから、俺は和翠を諦めなかった。どんな困難のでも諦めずにいられた。……久志、お前はどうなんだ? ここで諦めるのか? いや、諦められるのか? この先の未来で、絶対に後悔しないと言い切れるか?」
久志はしばらく黙り込み、やがて顔を上げた。
「……優也。俺が諦めないってことは、また唯ちゃんを傷つけるかもしれない。優也にだって、また迷惑をかけることになる。それでもいいのか?」
「別に構わないさ。そもそも、お前と唯のことで迷惑だなんて思ったことは一度もない。これはきっと、お互いが成長するために必要な試練なんだと思ってる。逃げなければ、きっといい未来に繋がっていく。いつか笑って話せる日が来れば、それで万々歳だろ?」
「成長するための試練、か。……確かにそう考えたら、少し楽になった気がするよ」
「それなら良かった。でも、チャンスは何度も巡ってくるもんじゃない。そのチャンスを掴むかどうかは、結局、自分次第だぞ」
「優也……お前、なんだか凄く成長したな」
「そうか? 身長は全然伸びてないけどな」
「精神っていうか、心がだよ。凄く大人に見える」
「ああ、確かに和翠と出会ってから色んなことがあったからな。……まあ、それ以前にも色々あったけどさ」
久志は小さく笑い、真っ直ぐに前を見据えた。
「どうなるかは分からない。でも、もう一度逃げずに、唯に当たってみるよ」
優也に向けられた久志の瞳には、先ほどまでの迷いはなく、確かな光が宿っていた。
「それでこそ久志だ」
to be continued.




