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Separate Memory 〜美しい地獄で生きる。その為に世界を見捨てた。〜  作者: 水瀬輝夜
-愛という名の鳥籠-

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74-20

蒼は弥生を半ば強引に連れ、自宅マンション「レクシール」へと招き入れた。

すぐさま風呂場に向かって湯を張り、玄関に戻ると、濡れ鼠のようになった弥生がまだそこに立ち尽くしていた。


「今、湯を張ったから入ってこい。……いや、入れ。そのままだと風邪をひく」


蒼は半ば強制的に弥生を脱衣所へと押し込んだ。


「バスタオルはここに置いておく。ボディソープやシャンプーも勝手に使っていいから」


弥生は力なく、小さく頷く。


「雨で身体が冷え切ってるだろ。ゆっくり浸かってこいよ」


弥生の服から、床へとポタポタと雨粒が滴り落ちる。


「そうだ、着替えを用意しなきゃな。……さすがに下着の替えはないけど、生地の厚手のものを探してくるから、先に入ってろ」


蒼は自室のクローゼットを開け、弥生の着替えになりそうなものを物色した。


「これは薄すぎるか。このシャツだと……いや、これじゃエロゲーの展開だな。……よし、これなら大丈夫か」


なんとか厚手のスウェットとTシャツを見つけ出した。

それらを手に脱衣所に戻ると、浴室からはシャワーの音が響いていた。

蒼は扉越しに声をかけ、洗面台の上に着替えを置く。


「着替え、ここに置いとくからな」


シャワーの音に混じって、微かに「ありがとう」という弥生の細い声が耳朶に届いた。


「……あの公園から、近いおじさんの家に送らなかったのは、お前と二人でちゃんと話したかったからだ。家だとおじさんに気を使って、本音で話せないと思ったから。……こんな形で連れてきてごめんな。上がったらリビングに来てくれ。待ってるから」


蒼はそれだけ言い残して脱衣所を後にした。

リビングに入り、ようやく濡れたコートをポールハンガーに掛け、ソファーに深く腰を下ろして一息ついた。





浴室で、弥生はシャワーの音に紛れさせ、声を殺して泣いていた。


(彼の優しさが……今の私には、痛いくらい身に染みる……)


今更ながらに思い出すのは、幼い頃に蒼のことが大好きだった自分の気持ちだ。

転べばすぐに駆け寄って手を差し伸べてくれたこと。

風邪を引いて学校を休めば、必ずお見舞いに来てくれたこと。

そんな、温かくて優しい思い出の数々。


(それなのに……ママを失ったショックで、ただの言葉ひとつを鵜呑みにして、私は彼を恨み続けた……)


弥生はシャワーを止め、溢れんばかりの湯船に全身を沈めた。

音のない、水に満たされた世界。

そこでは、幼い頃から今日に至るまでの出来事が、走馬灯のように頭を駆け巡る。


(そんなに優しくされたら……私、どうしていいかわからない。いっそ、嫌いになってくれた方が楽なのに……)


弥生はぷはっと湯面から顔を出した。


(こんな風に考えるのも、逃げてるってことなのかな。……違う。そうじゃなくて……私は、まだ現実から目を背けようとしてる。……でも、それじゃダメなの?)


to be continued.

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