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Separate Memory 〜美しい地獄で生きる。その為に世界を見捨てた。〜  作者: 水瀬輝夜
-愛という名の鳥籠-

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58-04

蒼は久志に言われた通り、学校の近くにある整形外科を受診した。

幸いにも診断結果は「異常なし」。

安堵した蒼は、そのままバイト先がある鴨原かもはら駅へと向かった。

付き添ってくれたてんとは、途中の桜咲さくらざき駅で別れている。

彼女は上り、蒼は下りと、乗る車両が反対だったからだ。


「じゃあ、明日また学校でね」


てんの心配そうな、それでいて少し名残惜しそうな笑顔を背に、蒼は電車に揺られた。

いつものようにスマホをマナーモードにして鞄にしまうと、従業員専用の裏口から「ファミリーレストラン・ハイランド」の店内へと入る。

スタッフ休憩所の扉を開けると、そこには静寂が広がっていた。

ピークタイムを控えた準備の時間。

当然、誰もいない。

蒼は忙しく働くスタッフの邪魔をしてはいけないと思い、隅にあるパイプ椅子に腰を下ろして、誰かが戻ってくるのを待つことにした。

しばらくして、バタバタと足音が近づき、久志が休憩室に入ってきた。


「お、もう来てたのか。早かったな」


蒼は立ち上がり、病院での検査結果に異常がなかったことを簡潔に報告した。


「そっか。何事もなかったんなら、それでいい。店長ともさっき話して、今日のシフトは休みにしてもらったからな」

「あの、異常なしだったので、残りの時間は働こうと思っていたんですが……」

「頭を打った当日に、無理はさせられない。万が一のことが起きたらどうする? 誰が責任を取るんだ?」


久志の正論は、蒼の言葉を優しく、けれど断固として遮った。

無理をさせれば、店長に責任問題が及ぶ。

蒼は自分の考えの浅さを反省し、素直に頭を下げた。


「そうですね……すみません」

「いや、わかってくれたならそれでいい。それに前にも言ったよな、もっと頼ってくれていい。……アオザキ、俺はそろそろ、お前から聞かなきゃならないことがあるんじゃないか?」


久志の真っ直ぐな視線が、蒼の心の奥を射抜く。


(やっぱり、久志くんは気づいていたんだ。人一倍、勘が鋭い人だからな……。……不器用で鈍感なところもあるけど、彼になら、話してもいいのかもしれない)


蒼は決意を固め、重い口を開きかけた。


「あの、久志くん。実は……」


だが、その言葉を遮るように、久志が言葉を継いだ。


「お前、明日のバイトは休みだよな? 予定とかあるか?」


蒼が戸惑いながら首を横に振ると、久志は「ちょっと待ってろ」と言い残して一度休憩室を出て行った。

戻ってきた彼の指には赤ペンが握られていた。

彼は壁に貼られたシフト表の、自分の出勤欄を迷いなく横線で消し、「休み」と書き換えた。


「偶然、俺も明日が休みになった。……明日、俺の家に来ないか? そこでゆっくり話を聞かせてくれ。どうせ、休憩時間の数十分じゃ、話しきれない内容だろ?」

「……そうかもしれません」

「だから、明日な。お前が話そうと思ってくれただけでも、俺は嬉しいよ。それはお前が俺を信頼してくれたって証拠だからな。これだけ人が多い世界で、俺とお前が出会ったのも、何かの縁だろ」


久志の温かい言葉が、蒼の凝り固まった心を少しずつ解かしていく。


「……確かに。一つでも選択肢を変えていれば、出会えなかった可能性もあったんですよね。そう考えると、少し怖いです。久志くんと出会えたことに、感謝しないといけませんね」


蒼は少しだけ晴れやかな顔でそう告げると、久志に見送られながらバイト先を後にした。

家路につく蒼の足取りは、先ほどよりも少しだけ軽くなっていた。


to be continued.

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