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Separate Memory 〜美しい地獄で生きる。その為に世界を見捨てた。〜  作者: 水瀬輝夜
-愛という名の鳥籠-

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55-01

さくらざき学園は、創立十年というまだ歴史の浅い学校だ。

神崎蒼かんざきあおが三年間通い続けているこの学び舎の制服は、落ち着いたブレザータイプ。

男子はネクタイ、女子はリボンを締めるのが決まりだ。

蒼がこの学校を選んだ動機は、自分でも「不純だ」と苦笑するようなものだったが、それでもその道を選んだのは他ならぬ蒼自身だった。


___


昼休みに入ると、蒼はいつものように当てもなく校内を歩いていた。

その時、ズボンのポケットに入れていたスマホが短く震えた。

取り出すと、画面には幼馴染であるてんの名前。

通話ボタンをタップする。


「てん? 何かあったのか?」

『蒼くん、お昼はまだだよね? 一緒に食べよ。生徒会室で待ってるねっ』


てんは自分の伝えたいことだけを弾むような声で告げると、こちらの返事も待たずに一方的に通話を切った。


「相変わらず、僕の返答は訊かないんだな」


蒼は小さく息を吐いた。

てんは、普通に誘えば蒼が何かと理由をつけて断ることを知っているのだ。

だからこそ、あえて退路を断つような誘い方をする。


(てんには色々と助けてもらっているから、無下にするつもりはないんだけどな。……いや、でも正面から誘われたら、やっぱり気を遣って断ってしまうんだろうか)


蒼はスマホをポケットに収めると、生徒会室へと向かった。

階段では杖を頼りに、一歩一歩確かめるようにして三階から一階へと降りる。

階段を降りてすぐ正面にある扉。

蒼は一度ノックし、「失礼します」と断ってから入室した。


「あ、やっと来たっ」


そこにいたのが、幼馴染のてんだ。

まだ少女らしさの残る顔立ちに、肩まで届くセミロングの髪。

ストレートではなく、毛先をふわりと内巻きにワンカールさせている。

てんは髪を揺らしながら、待ち兼ねたように隣のパイプ椅子を引いた。


「ごめん、待たせたかな?」

「うんうん。思ったより遅かったから、もしかしたら……って、少し心配しちゃった」


てんの心配も無理はない。

今の蒼にとって、無事に生徒会室まで辿り着けるという確証はどこにもないのだから。


「可能性がないわけじゃないけど、そんなに時間はかかってないだろ?」

「でもっ」

「ここに辿り着けた。それでいいじゃないか。それに、こうして話している間に昼休みが終わってしまうよ」

「あ、そうだね。はい、これ」


てんは自分の前に置いていた二つの包みのうち、一つを蒼の前へと滑らせた。それは、彼女手作りのお弁当箱だった。


「てん、いつもありがとう」


蒼は彼女の隣に座ると、杖をテーブルに立てかけ、スマホを何気なくテーブルの上に置いた。


「では、いただきましょう」


二人は手を合わせ、「いただきます」と声を揃える。

蓋を開けると、色とりどりの具材が並んでいた。栄養バランスまで細かく計算されているのが一目でわかる。


「あの大きな部屋で一人暮らしだもん。

好きなものばかり食べてたら、栄養が偏っちゃうでしょ?」

「……否定できないな。一人暮らしだと作るのも面倒だし、バイトの賄いで済ませることもあるから。てんには感謝しかないよ」


蒼が素直に頭を下げると、てんは少し照れくさそうに笑った。


「別にいいよ。私がしたくてしてることだからっ」


和やかな時間が過ぎ、昼食を終えた蒼は「ごちそうさま」とお礼を言って席を立った。

来た道を戻るように、再び杖を突きながら階段で三階へと上がる。

教室へと続く廊下を歩きながら、改めててんにお礼のメールを送ろうと、蒼はズボンのポケットに手を入れた。


「あれ、スマホ……!?」


あるはずの感触がない。 蒼は自分の記憶を必死に手繰り寄せた。





一方、生徒会室。

てんがトートバッグに自分の弁当箱を片付け、蒼が座っていた席の弁当箱を手に取ったときだった。

その影に隠れるようにして、一台の端末が姿を現した。


(これ、蒼くんのスマホですね。彼が忘れ物をするなんて……明日は雨か、雪でも降るかもしれませんね)


てんは蒼のスマホを拾い上げ、くすりと微笑んだ。


「て、そんなこと考えていたら昼休みが終わってしまいます。仕方ありませんね、届けに行きましょう」


てんは蒼のスマホを上着のポケットに忍ばせると、足早に生徒会室を後にした。


to be continued.

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