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Separate Memory 〜美しい地獄で生きる。その為に世界を見捨てた。〜  作者: 水瀬輝夜
-誰がために花は散る-

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53/106

52-17 (過去編)

精密検査の結果、優也の身体に目立った異常はないと判断され、彼は静かに退院の日を迎えた。

唯一の懸念は、彼の記憶から「八重花桜梨」という存在が完全に欠落してしまったこと。

しかし、医師や家族、そして唯は、その空白を埋めることをあえてしなかった。

残酷な真実を突きつけるよりも、彼が穏やかに日常を取り戻すことを選んだのだ。

周りの人間がそれぞれの胸に「秘密」という名の重石を抱えたまま、季節は巡り、優也と唯は残された中学生活を平穏に、どこか他人事のように過ごして、無事に卒業の日を迎えた。





卒業式を終え、喧騒に包まれる校庭。

優也は記念撮影の輪に加わることもなく、そそくさと校門を抜けた。

その手には、大切に扱うべき卒業証書が、所在なげに乱暴に丸められて握られていた。


「優くん! 待ってよー!」


背後から聞き慣れた唯の声が追いかけてくる。

優也は足を止めず、肩越しに振り返った。


「もう、すぐ帰ってなにするの? 最後の日なんだよ?」

「さあな。これと言ってやることもないし」

「みんなに挨拶しないの? お世話になった先生とか、同じクラスの子とか……」

「今生の別れってわけでもないだろ。同窓会だってあるだろうし、会おうと思えばいつでも会える。わざわざ行列に並んでまで言うことじゃない」

「冷めてるなぁ、優くんらしいけど……本当にそれでいいの?」

「いいんだよ。俺にはこれで十分だ」


二人は並んで歩き出す。

春の柔らかな日差しが、真新しい制服を脱ぎ捨てる彼らの背中を照らしていた。

ふと、優也が足を止めた。

導かれるように振り返り、三年間通った思い出の校舎を見上げる。


「……?」


優也は眉をひそめ、片手で目をこすった。

そしてもう一度、屋上のフェンスぎりぎりの場所を見上げる。


「優くん、どうしたの?」

「……いや。なんだかさ、あそこに羽根の生えた女の子が立っていたような気がして。真っ白な羽根を広げて、こっちを見て笑ってたような……」

「えっ?」


唯も驚いて同じ方角を見上げた。

しかし、そこには春特有の霞んだ青空が広がっているだけで、人影などどこにもない。


「……あるわけないよな。寝不足か、非科学的な幻想だ」

「ふふ、世界は広いんだから、案外いなくもないかもよ? 案外、近くで見てたりして」

「冗談はさておき、帰ろうぜ。腹減った」


優也は照れ隠しのように、唯を置いてさっさと歩き出した。


「もう、待ってってば! 置いてかないで!」

「早く来ないと置いてくぞ。サクサク置いてくからな」


優也のぶっきらぼうな背中を見つめながら、唯は走り出す前にもう一度だけ、誰もいないはずの屋上を見上げた。

そこには、自分たちをずっと見守ってくれていたであろう「親友」の気配が、確かに残っているような気がした。


(ずっと、見ててくれたんだよね。優くんを……私を。……ありがとう、花桜梨ちゃん。優くんのこと、これからは私がちゃんと支えるから。だから、安心して見ててね)


唯は深く一礼し、溢れそうになる涙を堪えて前を向いた。

そして、遠ざかる優也の背中を追いかけて、力いっぱい走り出した。

その時、二人の上空を強い春一番が吹き抜けた。

屋上には、誰にも気づかれることなく、一枚の真っ白な羽根がふわりと舞い、やがて光の中に溶けて消えていった。


to be continued.


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