46-11 (過去編)
優也と花桜梨は手を繋いだまま青葉台駅へと向かった。
改札を抜けると、タイミングよく滑り込んできたリク電に乗り込み、空いているシートに並んで座る。
「お前の家族って、時々突拍子もないこと言うよな」
「あはは、いろいろとごめんね、優也」
花桜梨は申し訳なさそうに両手を合わせて謝った。
「いや、賑やかでいいと思うよ。うちは両親が共働きで忙しくて、オレ一人でいることが多いから、ああいうのには憧れるな」
「そうなんだ。良かった。だったら将来は、にぎやかな家庭を作ろうね」
「ああ。そのためには仕事もちゃんと選ばないといけないな」
「ふふっ。なんだか私たち、中学三年生なのに変な会話だなって思って」
「オレは花桜梨の影響だぞ。前に言ってただろう? 将来のことをちゃんと考えないと、生まれてくる子供たちが苦労するって。あの時、確かにその通りだって納得したんだ。オレは幼い頃に親がいなくて寂しい思いをしたから、自分の子供にはそんな思いはさせたくないって思うよ」
リク電に揺られながらそんな会話を交わすうちに、一時間ほどで目的の駅、巫女ノ丘に到着した。
二人は電車を降りて改札を出ると、すぐ目に飛び込んできた「巫女ノ丘公園はコチラ」という看板に従って歩き出す。
「ここに来るの、私は初めてだけど、優也も初めて?」
「ああ、初めてだ。っていうか、男一人で来るような場所じゃないだろ」
「やった、優也の『初めて』もらっちゃった」
花桜梨は無邪気にはしゃぎながら、優也の腕にしがみついた。
「その言い方、他人が聞いたら変に勘違いするぞ」
「別にいいんだよ。他人からどう思われても、私たちが幸せならそれで。優也は違うの?」
「……それもそうだな。人の目なんか気にしてたら、人生もったいないよな」
優也はそう言うと、花桜梨の指に自分の指を絡めた。
「優也、大胆だね」
「嫌ならやめるけど」
「嫌じゃないよ。むしろその逆。嬉しい」
花桜梨は応えるように、その手を強く握り返した。
「それじゃ、登ろうか」
「うん」
二人は丘の頂上を目指して歩き始めた。道中にはいくつもの休憩所があり、息を整えながら少しずつ進んでいく。
「っていうか、これもう登山だよな」
「だね。でも、ほら、ロープウェイができるみたいだよ。次に来る時は楽に行けるね」
道端にはロープウェイ建設予定地の看板が立っていた。
「二年後か。じゃあ、来年まではこの山登りも続きそうだな」
「来年も一緒に登ろうね」
二人がここに来たのには、ある言い伝えにあやかるためだった。
『丘の上にある鐘を鳴らすと、二人は離れることなく永遠の愛が約束される』
二時間ほどかけてようやく頂上の目前までたどり着いた時、花桜梨が唐突に足を止めた。
「どうした?」
「うん、ちょっとね」
二人の前には、立ち入り禁止の札が下げられた縄が張られていた。
「ここ、先が気になるのか?」
「……うん。前に安倍くんが言ってた、本当の巫女ノ丘の場所って、この先なのかなって」
「さすがに入るわけにはいかないな。小学校低学年だったら無邪気に飛び込んでたかもしれないけど」
「寄り道してごめんね。優也も疲れてるのに」
「別にいいさ。さあ、もう目前だ。頑張ろう」
残りの数メートルを登りきると、優也は吸い込まれるように売店前のベンチに座り込んだ。
「やっと着いた……」
「そこで休憩してて」
優也は売店へ向かい、スポーツドリンクを買って喉を潤しながら花桜梨の元へ戻った。
「早く行こうよ、優也」
「鐘は逃げないから、ゆっくりでよくないか? それに、ほら」
優也が指差した先、鐘の下には先客のカップルがいた。
その直後、澄んだ鐘の音が周囲に響き渡る。
「……あれは仕方ないね」
花桜梨が少し頬を膨らませて納得すると、優也は持っていたスポーツドリンクを彼女に差し出した。
「ありがとう」
花桜梨はそれを受け取り、喉を鳴らして飲み干した。
「ふぅ……」
「なんだ、お前も相当喉が渇いてたんだな」
花桜梨はぺろりと小さく舌を出して笑った。
優也が空になったペットボトルを捨ててから鐘の方を見ると、ちょうど先客がいなくなっていた。
「人もいなくなったし、行くか」
「うん!」
二人は手を取り合い、数段の階段を上がって石造りのアーチをくぐった。
その真ん中に、小さな鐘が吊るされている。
「これか……意外と小さいんだな」
想像していたものより小ぶりな鐘に、優也は少し拍子抜けした様子だったが、花桜梨は気にせず彼の手を引いた。
「大きさなんて関係ないよ」
「まあな。重要なのは、想いの大きさだもんな」
鐘の前で二人は揃って深呼吸をした。
そして、鐘から伸びる縄を二人で一緒に掴み、力強く引いた。
「ヘヘッ、夢が一つ叶っちゃった」
花桜梨が満面の笑みを見せると、優也もその明るさに釣られるように自然と笑みがこぼれた。
「オレも、花桜梨と一緒に来れて良かったよ」
誓いの鐘の音は、穏やかな風に乗って、いつまでも二人の背中を包み込んでいた。
to be continued.




