44-09 (過去編)
優也はなんとか花桜梨をなだめた後、当初の予定通りリク電に乗り込んだ。
壬生谷駅で降り、駅前にある大型商業施設・ミブヤクラウズへとたどり着く。
「もう、桜ったら」
さっきの妹とのやり取りを思い出したのだろう、花桜梨がぼやいた。
「終わったことを蒸し返すな。さっきも言ったけど、オレは桜ちゃんじゃなくて、花桜梨が好きなんだ。花桜梨が彼女で、オレが彼氏。おk?」
「うん、オッケー。でも、不思議だね。優也、付き合い始めた頃は『恋人』とか『彼氏彼女』とか中々言ってくれなかったのに。慣れたのかな?」
「慣れもあるかもしれないけど、一番は、自分で相手に意思表示しないと伝わらないって分かったからだと思う。何が大切で、何が一番なのか。オレの中で一番大切なのは花桜梨だって分かってるから。恥ずかしいなんて言ってたら時間の無駄だしな」
優也はそう言って、花桜梨の手を握った。
「あっ……」
花桜梨は声を漏らし、頬を染めながらその手を握り返した。
「ねえ、優也。さっきの話なんだけど……もし私に万が一のことがあったら、桜になら任せられるかもって思うのは、ありかな?」
「へっ? それ、花桜梨的にありなのか?」
「知らない誰かよりは、いいかなって。でも、実際その状況にならないと分からないよね」
「ああ。実際そうなったらオレはどうするんだろうな。きっとすぐには立ち直れないだろうし、それ以前に、花桜梨がいなくなるなんて想像もしたくない」
「あ、ごめん。この話はおしまい。話題を変えよう」
花桜梨が話を切り上げると、優也も別の話題を振った。
「じゃあ、来年は受験だけど、行く高校は決めてるのか?」
「両親には、綾峰はどうかって言われたよ」
「綾峰って、あの綾峰学院か。偏差値がめちゃくちゃ高いところだよな。小中高大のエスカレーター式で、望めば大学院まで行けるって聞いたことあるぞ」
「わざとらしい説明をありがとう。綾峰は春日駅が最寄りだから」
「青葉台から二駅か、家から近いな。そっか、花桜梨は綾峰か。オレの頭じゃ無理かな……でも、記念に受けてみるのも悪くないかもな。担任にはバカかって言われるだろうけど」
「あとは春日学園と壬生谷第一を受ける予定。滑り止めで、さくらざき学園かな」
「四つも受けるのか。頑張りすぎじゃないか?」
「優也が頑張らなさすぎなんだよ。将来のこと決めてるの? ちゃんと考えておかないと苦労するよ?」
「まあ、ぼちぼちってとこかな」
「苦労するのは、私と、将来生まれてくる私と優也の子供だよ」
花桜梨の言葉に、優也は驚いて目を見開いた。
「……それ、気が早くないか?」
優也の反応に、花桜梨は恐る恐る尋ねる。
「え? 私とじゃ嫌なの?」
「そういうわけじゃない。逆に嬉しいけど……子供とか、そうか。そう言われたら、お前や子供に苦労はさせたくないな」
「頑張ってね、パパ」
花桜梨がおちゃらけて見せた。
「それ、他の奴が聞いたら変な意味に取られそうだな」
優也ははぁ、とため息をつくと頭を掻いた。
「ねえ優也。お互いに第一志望の受験に成功したら、付き合ってほしいところがあるんだけどいいかな?」
「行きたいところ? どこだ?」
「場所っていうより、一緒に見たい現象かな。ダイヤモンドダストだよ。一緒に見たいなって」
「確か、空気中の水分が凍る現象だったか?」
「そうだよ」
「オーロラ以上に稀な現象だよな」
「ダメかな?」
「いや、お前が見たいって言うなら付き合うよ。何かご褒美があると受験にも身が入りそうだしな」
「日記に書いておきますから、『知らない』はダメだよ。二人の約束」
花桜梨が右手の小指を立てると、優也は「ああ」と言って自分の小指を絡めた。
「お前との約束を忘れるはずないだろ」
「そんな恥ずかしい台詞、よく真顔で言えるね」
優也は笑いながら、またこうして一緒にどこかへ行って思い出を共有できる約束の日を、心から楽しみにしていた。
しかし、内心では心配事が一つあった。
それは花桜梨と唯のことだ。
これまで二人を放置していたわけではない。
仲を取り持とうと何度も試みたが、女の子の友情というのは難しいもので、ことごとく失敗して現在に至っていた。
to be continued.




