表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Separate Memory 〜美しい地獄で生きる。その為に世界を見捨てた。〜  作者: 水瀬輝夜
-誰がために花は散る-

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/106

42-07 (過去編)

花桜梨と別れた久志は、パンフレットを開いて眺めた。


「さて、どこへ行こうかな」


近場がいいと考え、隣のあいの駅周辺に目を向けると、ある場所が気になった。


藍銅らんどう神社か。行ってみるか」


目的地を決めると、十五分ほどで隣のあいの駅に到着した。ホームに降り立ち、そのまま改札を抜ける。


「どっちだ?」


駅前の案内図に目を通した。


「左か」


久志は案内板に従って二十分ほど歩き、目的地である藍銅神社に到着した。入り口にある解説板を読み進める。


「女神アズライトか。昔の信仰みたいなものかな」


久志がふと独り言を漏らした、その時だった。


「神なんて存在しない。希望の先にあるのは絶望だけ」


声のした方へ振り向くと、そこには長い髪をなびかせた一人の少女が立っていた。


「あの……突然なに? 君は誰?」

「私は天多美桜吏あまたみおり。突然ごめんなさい。久しぶりに来たら、あなたが『信仰』なんて言っていたから、ついね」

「そうですか。あ、名乗らせておいて自分を教えないのは失礼ですね。俺は安倍久志です。天多さんは、この辺りに詳しいんですか?」


美桜吏は遠くの空を見上げながら答えた。


「安倍? そういうこと。だから、私は……」

「どうかしたんですか?」

「ええ、私はずっとここに居るから。それなりに、だけれど」


会話を続けるうちに、久志は自分がいつの間にか敬語になっていることに気づいた。なぜかそうしなければいけないような気がして、自然と背筋が伸びていた。


「それで、さっき言っていたことはどういう意味なんですか?」

「そのことね。実際、神も女神もこの世に存在しない。人々が縋りたいがために創り出したもの」

「そんなことないでしょう。世界各地に伝承や神話は存在しますし、宗教もその一つじゃないんですか?」

「希望と信じて手を伸ばしたそれは、必ず絶望へと転位するものよ」

「では、その逆もあり得るんじゃないですか?」

「絶望が、希望へ?」

「そうです」


久志は一点の曇りもない瞳で美桜吏を見据えた。美桜吏は一度目を閉じ、深く息を吐いてから再び目を開けた。


「手を出して」

「え?」

「早く」


促されるまま、久志は右手を差し出した。


「これを」


美桜吏が手渡したのは、年季の入ったハーフハンター型の懐中時計だった。


「あの、これは……どうして俺に?」

「これは、あなたが持っておくべきもの。理由はいつか話してあげる。けれど、それは今じゃない」

「念のために聞きますが、拒否権は?」


美桜吏は無言のまま、微笑みを浮かべて久志を見つめた。

その笑顔の裏に、どこか恐ろしい気配を感じ取った久志は、すぐに言葉を改めた。


「……すみません。ありがたく頂戴、いえ、大切に預からせていただきます」


久志が頭を下げ、再び顔を上げたときには、もうそこに美桜吏の姿はなかった。

しばらく周囲を捜してみたが、どこにも見当たらない。


「一体、どこへ……」


久志は掌にある懐中時計をじっと見つめた。


「彼女の考えは分からないけど、天多さんからの大切な預かり物。そう思っておいた方がいいよな」


彼は持っていたハンカチで時計を丁寧に包むと、上着のポケットへ大切に仕舞い込んだ。


「いつか、って言ってたしな。また会うことになるってことだろ。だったら今は、何も考えずに帰るか」


そう呟くと、久志は静かに家路へと着いた。



to be continued.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ