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Separate Memory 〜美しい地獄で生きる。その為に世界を見捨てた。〜  作者: 水瀬輝夜
-誰がために花は散る-

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42/106

41-06 (過去編)

夏休み明けの日曜日、昼下がりの柔らかな日差しが差し込む車内。

花桜梨はリク電のシートに揺られながら、隣に座る少年に視線を向けた。

彼の名は安倍久志。

この夏休みに引っ越してきたばかりの転校生で、印象的な灰色の瞳を持っていた。

家が近所という縁もあり、今日は花桜梨が街を案内することになったのだ。


「すまない、八重さん。せっかくの日曜日に付き合わせてしまって」


久志は、今日何度目か分からない謝罪を口にする。申し訳なさが顔に滲み出ていた。


「もう、何度も謝らなくていいですよ。この街のことなら、どこに何があるか全部頭に入ってますから」


花桜梨は両手を左右に振り、「気にしないで」という仕草で笑って見せた。


「でも、彼氏さんに悪いなと思って。クラスでも噂になってるし、本当ならデートの約束とかあったんじゃないかなって」

「えっ、なんで知ってるんですか? 私、話しましたっけ」


花桜梨が素直な疑問を口にすると、久志は少し困ったように肩をすくめた。


「隣の席の女子から聞いたんだ。八重さんには他クラスに彼氏がいるから、ちょっかい出さないようにって釘を刺されたよ。だから、悪いなと思って」

「あはは、そんな風に言われてるんだ。でも大丈夫ですよ。優也にはちゃんと話してありますし、説明すれば分かってくれる人ですから」

「優也。それが、彼氏さんの名前なんだね」

「そう。高橋優也って言うの。私の、一番大切な人」


花桜梨は隠しきれない幸福感を湛えた、満面の笑顔で答えた。


「本当に好きなんだな。八重さんの顔を見てると、それが痛いくらい伝わってくるよ」

「安倍くんは、元々こっちの出身だったんですよね?」


話題を変えるように花桜梨が尋ねると、久志は窓の外に目を向けた。


「そうなんだけど、生まれてすぐに引っ越したから、土地勘は全然ないんだよね」

「そうなんだ。じゃあ、ダイヤモンドダストのことも知らない?」

「ダイヤモンドダスト? ご当地のお土産か何か?」


久志の素直な連想に、花桜梨は思わず声をあげて笑った。


「なんだかその発想、優也も言いそう」

「……違った?」

「全然違います。冬の特定の条件下でだけ発生する、キラキラした自然現象のことだよ。それを見たカップルは、永遠の幸せが約束されるって言われてるの」

「へえ、ロマンチックだな。いつか見てみたいよ。さっき教えてもらった姫ノ湖の話も凄かったし、八重さんは本当に物知りだね」

「物知りってわけじゃないよ。ただ、優也と一緒に行きたいところを調べてたら、自然と覚えちゃっただけ」

「なるほどね。……じゃあ、お礼に俺からも一つ。これは婆ちゃんから聞いた話なんだけど、巫女ノ丘って知ってるだろう?」

「ええ、昔、恋人たちが身投げしたっていう……」

「実は、実際に身投げした場所はそこじゃないらしいんだ」

「えっ、そうなんですか?」

「らしい、よ。俺も婆ちゃんに聞いただけで確かめたわけじゃないけど、信憑性は高いと思うんだ」


リク電が青葉台駅に到着し、ブレーキの音が響く。花桜梨はシートから立ち上がった。


「あれ、安倍くんは降りないの?」

「もう少し、先まで周ってみるよ」

「土地勘、大丈夫ですか?」

「ああ、大体は分かったから。万が一の時はスマホがあるしね。今日は本当にありがとう」

「分かりました。じゃあ、また明日、学校でね」

「うん、また明日」


花桜梨がホームに降りると、車両の扉が閉まり、リク電は久志を乗せてゆっくりと動き出した。


to be continued.

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