表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Separate Memory 〜美しい地獄で生きる。その為に世界を見捨てた。〜  作者: 水瀬輝夜
-誰がために花は散る-

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/106

40-05 (過去編)

リビングでテレビを観ていた優也は、インターホンに呼ばれて玄関を開けた。

そこには、いつもの明るさが嘘のように消え失せた、覇気のない花桜梨が立っていた。


「あれ? 今日は唯と会うって言ってなかったか?」


優也の問いかけに、花桜梨からの返答はない。

そこに至ってようやく、優也は彼女の様子が明らかにおかしいことに気がついた。


「……唯となんかあったのか? 喧嘩でもしたか?」

「……それだったら、良かったんだけど」


消え入りそうな声で花桜梨が紡ぐ。

優也は彼女の沈んだ気分を少しでも変えてやろうと提案した。


「とりあえず上がるか? それとも、気分転換に公園とか行くか?」


何処にも行きたくないのか、それとも動く気力さえないのか。花桜梨は力なく首を振った。


「……ここで、いいから」

「そうか。それで、どうしたんだ?」


唯との関係は、もう壊れてしまった。花桜梨の心には、積み上げてきたものが瓦解していくような空虚さが広がっていた。

このまま優也との関係までもが壊れてしまうかもしれない。

そんな恐怖と、やり場のない衝動に突き動かされるように、彼女は優也の胸に飛び込んだ。

突然のことに、優也は何が起きたのか分からず戸惑う。


「……花桜梨?」

「静かにして……」

「……」

「抱きしめて」


優也は困惑しながらも、言われるままに黙って彼女を腕の中に収めた。

こうすることで彼女が落ち着くのであれば、いつもの笑顔に戻ってくれるのであれば。

そう願いながら、彼女の背に手を回した。

時折、通りがかる近所の人が、門の前で抱き合う中学生の姿に驚いたり、微笑ましいものを見るような視線を向けたりしていく。

優也は猛烈に気恥ずかしくなったが、花桜梨のためにとじっと堪えた。

どれくらいの時間が経っただろうか。

ようやく落ち着きを取り戻したのか、花桜梨がぽつりと言葉を零した。


「……終わったよ。いろいろ」

「終わった?」


優也が体を離そうとすると、彼女は「そのまま」と拒み、密着したままで話を続けた。


「何が終わったんだ?」

「優也。……優也は、唯のこと好き?」

「唐突にどうしたんだよ」

「いいから、答えて」


いつになく強い口調に、花桜梨は自分自身が嫌になった。けれど、訊かずにはいられなかった。


「……ああ、好きだよ」

「私のことは?」

「そりゃ、好きに決まってるだろ。二人とも、大切な幼馴染なんだから」


優也の答えに、花桜梨はやっぱり、と思った。

彼は優しい。

その優しさは、自分と唯を平等に愛そうとする、あまりに正しく、そして残酷なものだった。


(私たちは、ただの幼馴染なんですね。でも、私と唯の関係はもう壊れてしまいました。だから、今まで通りの三人なんて、もう無理なんです。……たとえ、壊れてしまってもいいから)


花桜梨は大きな決意を胸に、ゆっくりと一言ずつ、言葉を紡ぎ出した。


「私はね、優也のこと大好きだよ。もちろん、幼馴染としてじゃなくて。一人の男の子として……大好きなの」

「花桜梨……」

「気づかなかった? それとも、気づいてた?」


どんな答えが返ってくるのか。

不安に押しつぶされそうになりながら、花桜梨は彼の鼓動を間近で感じていた。


「……オレは、ずっと三人で一緒にいられたらいいと思ってた。大人になっても、ジジイとババアになっても変わらずにって。そう思うようにしてたんだ。今の関係を壊したくなくて。でも、そんなのは無理だってことも解ってた。三人でずっと一緒なんて、壊したくないオレの我儘なんだ。だから、この感情は心の奥に閉まっておこうって決めてた」


優也は一度深く息を吐き、これまでの均衡を自らの手で崩す言葉を選んだ。


「オレも、花桜梨が好きだ。一人の女の子としてだよ。だけど、さっきも言った通り、オレたち三人の関係を壊すのが怖かったんだ」


花桜梨は顔を上げ、優也の瞳をまっすぐに見つめた。


「今日の唯とのことで気づいたの。何かを選択することは、何かを失うこと。でも、失うことでしか得られないものもあるんだって。選択っていうのは、知らないうちに誰かを傷つけてしまうものなんだね。……だから私は、その選択で優也を選ぶよ。この先もずっと一緒にいたいから。大人になって、結婚して、子供が生まれて、おじいちゃんおばあちゃんになっても、あの頃はねって、優也と一緒に笑っていたいから」


失ったものはあまりに大きく、取り返しがつかない。

けれど、それと同じくらい大きなものを、今、手に入れようとしている。


「花桜梨」


優也はいっそう強く彼女を抱きしめた。

それが、言葉にならない彼の返答だった。


「初恋は実らないって訊くけど。……実っちゃったね」

「花桜梨。オレは言葉足らずで、うまく伝えられるか解らないけど。……ずっと一緒に生きよう」

「はい」


花桜梨は満面の笑みで答え、二人は自然に顔を近づけた。

重なり合った唇の感触は、これから始まる二人の、そして終わりを迎えた三人の、新しい季節の始まりだった。


to be continued.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ