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数週間が経ち、季節はゆっくりと、けれど確実に行き過ぎようとしていた。
リハビリを終えたばかりの和翠にとって、公園の土と枯れ草の匂いが混じった外の空気は、何よりも愛おしく、新鮮なものだった。
日陰には先日の名残である雪がひっそりと白く残っているが、風の中には微かに花の蕾が綻ぶような気配が混じっている。
和翠は少し歩調を緩め、不安を隠すように自分の指先を見つめた。
「……ねえ、優也くん。私……卒業式、出られるかな?」
その声は、春を待つ震える蕾のように心細げだった。
「先生は無理しちゃダメだって言うし……でも、みんなと一緒に、あの体育館で……最後にお別れを言いたいんだけど、でも、今の私じゃ歩くのもやっとだし……」
優也は立ち止まり、和翠の正面に回った。
そして、彼女の両肩を優しく、けれど力強く掴んで、その瞳を真っ直ぐに見つめた。
「出られるよ。……いや、絶対に出す。たとえ当日、体がきつくて歩けなかったとしてもさ」
優也は少しだけ悪戯っぽく、けれど一切の迷いがない笑顔を見せた。
「俺が車椅子を押してでも、なんならおぶってでも、無理やり式場に連れていく。……学校中の注目を浴びちゃうかもしれないけど、いい?」
和翠は一瞬、想像したのか頬を赤く染め、「うう……」と困ったように視線を泳がせた。
「……そんなの、恥ずかしくて顔を上げられないよ。みんなに絶対変な目で見られちゃう……」
和翠は俯き、小さく呟いた。
けれど、すぐに顔を上げると、そこには恥ずかしさを超えた、凛とした決意の微笑みが浮かんでいた。
「……でも、それでもいいかな。だって、優也くんは私の、世界で一番大切な人だもんね。胸を張って、隣にいたいな」
その言葉に、今度は優也のほうが少し照れたように鼻をこすった。
和翠は勇気を出して、自分から優也のコートの袖を、ギュッと掴み直した。
「……ふふ、何それ。優也くん、本当に強引なんだから。でも……嬉しい」
和翠はこらえきれず、花が咲くような笑顔を見せた。
その瞳には、先ほどまでの不安に代わって、未来を信じる確かな光が宿っていた。
「わかった。……それじゃあ、当日は世界一カッコいい用心棒さんに、エスコートしてもらうね」
優也はその手を取り、自分のコートのポケットの中へと誘うようにして、力強く握りしめた。
「ああ。任せて。……やっと届いたよ。和翠先輩」
「うん。……届いたよ。優也くんの、あったかい手」
和翠は優也の肩にそっと頭を預けた。
残雪を照らす午後の柔らかな光が、二人の影を一つに重ねていく。
そこにはもう、過去の呪縛に怯える少女も、救えなかった後悔に苛まれる少年もいなかった。
「行こうか。春は、すぐそこまで来てる」
「ええ。一緒に行こう、優也くん」
二人は微笑み合い、少しだけ残った雪を優しく踏みしめながら、輝く光の中へと歩き出していった。
to be continued.




