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Separate Memory 〜美しい地獄で生きる。その為に世界を見捨てた。〜  作者: 水瀬輝夜
-歪の産声-

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33


深夜の静寂が戻った病院の廊下を、優也は泣き疲れて足取りの重い桜を支えながら歩いた。

病室の前に着くと、そこには娘の行方を案じて青ざめていた桜雅と花梨の姿があった。


「桜……!」

「お父様、お母様……ごめんなさい……っ」


桜は両親の姿を見るなり、再び溢れ出した涙とともにその胸に崩れ込んだ。

桜雅は何も言わず、ただ震える娘を強く抱きしめ、花梨もまたその背中に手を添えて静かに涙を流した。


「優也君、本当に……ありがとう。この子を、連れ戻してくれて」


桜雅が深く頭を下げる。

優也は短く「いいえ」とだけ答え、罪悪感と安堵で疲れ切り、両親の腕の中で眠りにつき始めた桜を彼らに託した。


「……今日はもう、彼女を連れて帰ってあげてください。これ以上は、心が持たないと思います」


桜雅と花梨は何度も頷き、眠った桜を抱えるようにして、静かに病室を後にした。

三人の後ろ姿を見送った後、入れ替わるように病室から出てきたのは、唯と久志だった。


「優くん、私たちももう行くね。……和翠先輩の顔色も落ち着いてきたし、久志くんもついてるから」


唯が少し腫れた目で微笑むと、久志もその肩を叩いた。


「お疲れさん。……明日の朝、また来るよ。お前も無理すんなよ」


二人の親友を見送り、最後に一輝がスマートフォンを握りしめて病室から出てきた。


「優也さん、俺、母さんに電話してくる。姉さんが目覚めたこと、ちゃんと伝えなきゃ……」


一輝は少し照れくさそうに、けれど力強い足取りでロビーの方へと向かっていった。

ようやく、病室には二人きりの時間が訪れた。

無機質なモニターの電子音だけが、和翠がこの世界に留まっていることを証明するように、規則正しく響いている。

優也は、和翠の枕元のパイプ椅子に腰を下ろした。

白く、少し冷たい彼女の右手を、両手で包み込むようにして握りしめる。

さっきまで死の淵を彷徨っていたとは思えないほど、その指先からは微かな、けれど確かな脈動が伝わってきた。

和翠はまだ眠りの中にいたが、その表情は先ほどまでの苦しげな歪みが消え、穏やかなものに変わっていた。

優也は握った手に少しだけ力を込め、彼女の耳元で、自分自身に言い聞かせるように、静かに、優しく囁いた。


「……おやすみ、和翠先輩。明日の朝、目が覚めたら……今度は二人で、本当の春を見に行こう」


その時だった。

優也が握りしめていた和翠の指先が、ぴくりと微かに跳ねた。


(……え?)


優也が驚いて視線を落とすと、彼女の小さな白い手が、優也の掌を、頼りなげに、けれど確かな意志を持ってぎゅっと握り返した。

その温もりは、眠りの底から「うん、約束だよ」と答えるかのような、あまりにも優しい返事だった。

優也は、こらえきれず溢れ出した涙を拭うこともせず、その手を、二度と離さないという執念で強く、強く握りしめた。


「……ああ。約束だ。……絶対に、見に行こう」


窓の外では、夜明け前の深い闇が少しずつ解け始め、新しい一日の予感が、静かに満ちていた。


to be continued.

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