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Separate Memory 〜美しい地獄で生きる。その為に世界を見捨てた。〜  作者: 水瀬輝夜
-歪の産声-

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数日間の懸命なリハビリと、優也の献身的な支えが実を結び、ついに卒業式の朝がやってきました。

三月の柔らかな陽光が、校門に掲げられた「卒業証書授与式」の看板を優しく照らしている。

和翠は、医師からの許可を得て、車椅子での参加ではあったが、ついに住み慣れた校舎の門をくぐった。

久しぶりに袖を通した制服の感触に、和翠の胸が小さく高鳴る。


「……帰ってきたんだね、私。本当に、今日ここにいられるなんて……」


車椅子を押す優也の背中に向けて、彼女はどこか信じられないといった様子で、感慨深げに呟いた。

優也は歩みを止め、車椅子の横に屈み込むと、和翠の少し冷たい手を包み込むように握った。


「……何言ってるんだよ。今日ここに来られたのは、和翠先輩が、あんなに苦しいリハビリを必死に頑張った結果だ」


優也の瞳には、弱音を吐かずに懸命に前を向こうとしていた彼女への、深い尊敬と愛おしさが宿っていた。


「俺はただ、背中を押しただけ。先輩が自分の足で、自分の意志で、この春を掴み取ったんだ。……本当によく頑張ったよ」


優也の真っ直ぐな言葉に、和翠の視界がじわりと潤む。


「……ありがとう、優也くん。……私、頑張ってよかった」


体育館の入り口では、唯と久志、そして桜の3人が待っていた。

和翠の姿を見つけるなり、唯が駆け寄ってくる。


「和翠さん! 綺麗……本当によかった!」

「……木原先輩、おめでとうございます」


桜はまだ少し遠慮がちに、けれど真っ直ぐに和翠を見つめて花束を差し出した。

隣では久志が「お前ら、最高の主役だな」と照れくさそうに笑っている。

和翠はその花束を抱きしめ、最高の笑顔で「ありがとう、みんな」と答えた。

式典が始まると、和翠は車椅子のまま、卒業生席の一番端に並んだ。

名前を呼ばれ、彼女が車椅子からゆっくりと立ち上がろうとした時、会場中から静かな、けれど熱い拍手が沸き起こった。

彼女がここに立っていることが、どれほどの奇跡かを知る者たちが、その一歩を祝福していた。



式を終え、校庭へ出ると、冷たかった風の中に確かな春の匂いが混じっていた。

残雪はもうどこにもなく、代わりに早咲きの桜が、薄紅色の蕾を今にも零しそうに膨らませている。


「……ねえ、優也くん。約束、守ってくれたね」


和翠は、ひらりと舞い落ちた一片の花びらを掌で受け止めた。


「『本当の春を、一緒に見に行こう』って。……私、今、すごく幸せだよ」


優也は、和翠の少し赤い鼻先を愛おしそうに見つめ、その細い肩を抱き寄せた。


「これからだよ。卒業は終わりじゃなくて、新しい季節の始まりだ」


和翠は優也の胸に顔を埋め、静かに目を閉じた。

かつて彼女を苦しめた「死」の誘惑も、孤独な影も、もうここにはない。


「……大好きだよ、優也くん」

「……俺も。愛してる、和翠先輩」


優也が万感の思いを込めてそう告げると、彼の胸の中で和翠がふふ、といたずらっぽく笑った。


「……もう、卒業したんだから『先輩』じゃないよ。優也くん?」

「あ……」


優也は虚を突かれたように瞬きを繰り返し、少し照れたように視線を泳がせた。

けれど、和翠の悪戯っぽく、それでいて慈しむような瞳に見つめられ、彼は意を決したように喉を鳴らす。

満開直前の桜の下、二人は静かに唇を重ねた。

それは、長い冬を越え、自らの意志で光を掴み取った二人に贈られた、何よりも温かな春の祝福だった。

優也は顔を離すと、耳まで赤くしながら、けれど確かな熱を込めて、彼女の名を呼んだ。


「……愛してる。……和翠さん」


Chapter ends; the next chapter begins.



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