表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Separate Memory 〜美しい地獄で生きる。その為に世界を見捨てた。〜  作者: 水瀬輝夜
-歪の産声-

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/106

28

「三百ジュール、全員離れて! 放電!」


三度目の衝撃。

和翠の身体がベッドから浮き上がり、再び沈み込む。

だが、モニターに映る緑の線は、執拗なまでに水平を保ったままだった。


「心拍再開しません」

「心臓マッサージ、継続!」


医師の手が和翠の胸を何度も、何度も圧迫する。

骨が軋むような鈍い音が病室に響くが、彼女の肌からは急速に朱色が失われ、指先は冬の石のように冷たくなっていく。

数分が、永遠のような残酷さで過ぎていった。

やがて、主治医が動きを止めた。

肩を落とし、静かに時計に目をやる。


「……二月二日、午後六時十八分。死亡、確認しました」


その宣告が、終わりの鐘のように病室に突き刺さった。


「嘘だ……嘘だろ、姉さん!」


一輝が絶叫し、やり場のない怒りをぶつけるように壁を拳で叩いた。

その拳からは血が滲んでいるが、姉を守れなかったという絶望に、子供のように声を上げて泣きじゃくることしかできなかった。

桜雅と花梨は、もはや言葉を交わすことすらできず、互いの身体を壊れるほど強く抱き寄せ合った。

一度ならず二度までも、自分たちの未来そのものだった娘を失う。

その耐え難い重みに、二人の背中は力なく丸まっていた。

入り口では、久志が唯の肩を抱き寄せ、震える彼女を支えていた。

唯は顔を覆い、久志の胸に額を押し付けて咽び泣く。

久志はただ、動かなくなった懐中時計をポケットの中で強く握りしめ、茫然と立ち尽くしていた。

そして、桜。

彼女は床に座り込んだまま、感情の枯れ果てた人形のように動かない。

自分の言葉が引き金となって、和翠を死に追いやってしまった。

その事実が彼女の心を空洞に変え、焦点の合わない瞳はただ虚空を見つめていた。

だが、優也だけは違った。

彼は、医師たちが離れ、静まり返った病室で、和翠の白く冷たくなった手を再び握りしめた。

その力強さは、生きている時よりもずっと強く、決して離さないという執念に満ちていた。

彼は何も言わない。

ただ、和翠の指先を自分の胸に押し当て、その冷たさをすべて引き受けるように、ゆっくりと瞼を閉じた。

現実の喧騒が、まるで幕が下りるように遠ざかっていく。

優也が瞼を閉じ、和翠の手の冷たさを自分の胸に深く刻み込んだ瞬間、世界は混じり気のない純白に塗り潰された。

そこは、音も風もない、永遠に続く静寂の場所。

ふと視線を上げると、少し離れた場所に一人の少女が立っていた。

緩やかに波打つ髪、忘れもしないあの優しい眼差し。

二年前、あの日から時を止めてしまったはずの、花桜梨だった。

彼女は、まるで放課後の教室で待ち合わせていた時のように、小さく首を傾げて穏やかに微笑んだ。


「……やっと来たね、優也」


その声は、記憶の中にあるものよりもずっと鮮やかで、優也の乾ききった心に染み渡るようだった。

優也は、自分でも驚くほど自然に、懐かしい日々を取り戻すような柔らかな声で答えた。


「ああ。……お待たせ?花桜梨」


二人の間に流れる時間は、ニ年前のあの日、途切れてしまったはずの続きを埋めるかのように穏やかで、温かなものだった。

けれど、その光景の傍らで、一人の少女が崩れるように座り込んでいた。

和翠だった。

彼女は、先ほどまでの激しい拒絶や悲鳴を上げる気力さえも失い、魂が抜けたような「抜け殻」となってそこにいた。

焦点の合わない瞳は、真っ白な床を虚ろに見つめている。

自分の居場所はどこにもない。

自分はただの器だった。

その絶望が彼女の形を壊し、もはや自分という存在を繋ぎ止める意志すら、彼女の中には残っていなかった。

花桜梨の放つ瑞々しい生命力の輝きと、その隣で灰のように白く霞んでいく和翠。


「……ねえ、優也くん」


花桜梨が、座り込む和翠をそっと見つめながら、優しく、けれどどこか寂しげなトーンで言葉を続けた。


to be continued.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ