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死を告げる無機質な電子音が、病室の冷たい空気を震わせ続けていた。
モニターに映る一本の横線は、残酷なまでに動かない。
「……これが、君の望んだ結末かッ!」
一輝の怒号が、静寂を切り裂いた。
彼は崩れ落ちたままの桜を激しく指差し、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら叫ぶ。
「姉さんの心を殺して、命まで奪って……! これで君のお姉さんが戻ってくるとでも思ったのかよ! 満足か、おい!」
桜は何も答えず、ただ床を見つめたまま、魂が抜けたように震えている。
桜雅と花梨は、そんな娘を気遣う余裕すら残されていなかった。
二人は互いの肩を壊れるほど強く抱き寄せ、声を殺して泣き崩れている。
一度は事故で失い、そして今、その一部を宿した少女までもが目の前で物言わぬ体となった。
心臓とはいえ、二度も愛娘を失うという底知れない絶望が、二人を暗闇の淵へと追い詰めていた。
入り口では、駆けつけた久志がその場に縫い付けられたように立ち尽くし、唯は信じられないものを見たように膝から崩れ落ちた。
二人の瞳には、あまりにも唐突に訪れた「終焉」が、現実味のない悪夢として映っていた。
その極限の絶望の中で、優也だけは、和翠の白く冷たくなっていく手を離さなかった。
かつて花桜梨を失ったあの日、自分は何もできなかった。
届かなかった想い、握れなかった手。
その激しい後悔が、今の彼を支えていた。
(逃げない。もう二度と、大切な人の最期から目を逸らしたりしない)
優也はただ、祈るように、誓うように、和翠の指先を強く、強く握りしめる。
機械が死を告げようと、世界が絶望に染まろうと、彼は最期の最期まで希望を捨てない。
その掌の熱だけが、この部屋で唯一、生者の意志を宿していた。
その時、廊下から激しい足音が近づき、病室のドアが勢いよく跳ね上がった。
「失礼します! どいてください!」
数人の医師と看護師が雪崩れ込んでくる。
一瞬にして医療機器が運び込まれ、主治医が迷わず和翠の胸元に両手を重ねた。
「心停止確認! 心臓マッサージ開始!」
鈍い音が病室に響き始める。
医師の額から汗が飛び、救命の怒号が飛び交う。
懸命な蘇生措置が繰り返されるなか、主治医が鋭く叫んだ。
「ダメだ、反応がない……! AEDの準備、急げ! 早く!」
緊迫が最高潮に達し、機械の起動音が重なるなか、優也は和翠の手を握ったまま、その光景をただじっと見つめていた。
to be continued.




