海王(ポセイドン)戦⑦伝説の三番勝負・第二戦
《EMERGENCY!》
《EMERGENCY!》
《災厄級1体の接近を感知》
突如、俺の網膜にけたたましい警告が流れた。
通路の奥から、物凄いオーラを含んだような足音が近づいてくる。
後ろの入口から現れたのは――勇者ライアンだった。
ライアンは、地に伏して動かないギルガメッシュと、壁際で倒れ伏すアナキンの姿を視界に収めると、ピタリと足を止めた。
ライアンは以前、自身のスカウターでゼインの死をすでに把握していた。そこへギルガメッシュとアナキンの惨状まで目にしたことで、その怒りは限界を超えていた。
両方のこめかみには、ビキビキと太い青筋が浮き上がっている。
ライアンは無言のまま、すたすたとアナキンの方へ歩み寄った。
手遅れのギルガメッシュを一瞬で切り捨て、ギリギリ生命力が残るアナキンを迷わず優先したのだ。
怒り狂いながらも、その判断には一切の無駄がないのは流石であった。
「……【聖光の癒し】」
ライアンが手をかざすと、淡い光がアナキンを包み込んだ。
「ゲホッ……ライアン……すまん、ギルガメッシュが……」
かろうじて息を吹き返したアナキンがうわ言のように呟くが、ライアンはそれに答える事なく、ゆっくりと立ち上がった。
次の瞬間、ライアンの全身から、凄まじい怒りのオーラが爆発的に噴出した。
「チィッ……! リリア、ライアンからできるだけ離れろ! 奴はヤバすぎる!」
その圧倒的な殺気を肌で感じ取った竜戦士リゼルが、思わず後方へと大きく飛び退きながらリリアに叫んだ。
「涼、受け取れ!」
間髪入れず、リゼルが俺に向かって神剣『草薙の剣』を勢いよく投げ渡す。
俺は宙を舞う柄をガシリと掴み取り、真っ直ぐにライアンへと切っ先を向けた。
普段の冷静さを欠いたライアンの目は完全に据わっており、俺たちを八つ裂きにせんばかりの憎悪を孕んでいる。
「よもや貴様が……二人目の勇者に覚醒するとはな」
地の底から響くような声で、ライアンが俺を睨みつける。
だが――俺も限界だった。
ライアンが嘘をついているとは知らず、奴の言葉通りサスケが殺されたと思い込んでいる俺の中で煮えたぎっていたのは、サスケが死んでいれば俺が勇者になれるはずがないという矛盾にさえ、勇者になっても尚気付けないほどの、絶対的な殺意だけだった。
ライアンには誤算があった。
既に海底神殿に侵入していたサスケを含め、ここで竜戦士が仲間になり七つ目のクリスタルが揃って、俺が勇者になると迄は想定していなかったのだ。
だからこそ、帰還の為のライバルを勇者に成る前の今回で潰してしまおうと、対立を強化する為に「大鷲を殺した」と嘘を吐いたのだが――逆に自分の仲間が殺され、それが完全に裏目に出ていた。
「ライアン……殺し合いだな」
俺の言葉と共に、お互いの視線が交差した瞬間、最深部の空気がバチバチと火花を散らすように軋み始めた。
二人の勇者が放つ凄まじいオーラが空間で衝突し、地鳴りと共に足元の無数の小石が重力を失ったようにフワフワと宙へ浮き上がり始める。
後に語り継がれる、伝説の三番勝負の第二戦が始まった。
「涼! 勇者としての格の違いを見せてやる!!」
「シールド展開ッ!」
怒りに突き動かされるようにライアンが叫び、強固な光の盾が奴の周りに展開される。
対する俺も、覚えたばかりの勇者魔法で即座に防御結界を張った。
(これでイケてるか?)
ライアンが自身の左目に装着したスカウターで俺を捕捉する。
ピッピピッ――。
レンズの奥で、ライアンは驚愕の事実を目の当たりにしていた。
俺の戦闘力を示す数字が凄まじい勢いで跳ね上がっていたのだ。
3000、3300、3500――。
想定外の異常な数値にライアンの表情が一瞬だけ曇る。
展開した結界が淡い光を放った直後、前方のライアンの姿が掻き消えた。
怒りに任せた神速の踏み込みによる強襲だ。
だが、勇者として覚醒した今の俺の眼には、その軌道がはっきりと見えている。
「燃えろ俺様! サスケの仇だ! テメーはここで必ずブッ殺すッ!!」
俺は全身から溢れ出す聖なるオーラを草薙の剣に纏わせ、全力で迎撃の斬撃を放った。
ガガガガガガガッ!!
神代より伝わる東方の神剣『草薙の剣』。
勇者の象徴たる西方の聖剣『エクスカリバー』。
神剣と聖剣。
二つの伝説が、互いの主を通して激突した。
二つの黄金の光が激しく明滅し、俺とライアンは音を置き去りにした超高速の斬り合いへと突入した。
「勇者になったからと言って互角になったと勘違いするんじゃない! 貴様と私では元々(ベース)の戦闘力が違う!!」
「黙れ! 俺はお前の計算を超えてやる!!」
ガィィィィンッ!!
無数の斬撃が交錯した果てに、右手に握り締めた俺の神剣と、ライアンの聖剣が真正面から激突し、海底神殿の最深部を揺るがすほどの極大の衝撃波が爆発する。
強烈な火花が弾け飛び、互いの力が拮抗して顔が至近距離まで接近した――その瞬間。
俺とライアンは同時に空いた左手を、相手の真正面へと突き出した。
「「【天戒の白閃】ッ!!」」
二人の勇者の口から、全く同じ詠唱が同時に放たれる。
ゼロ距離で撃ち出された二つの極大の閃光が激突し、海底神殿の最深部を白く染め上げるほどの爆発を引き起こした。
「ぐあぁぁぁッ!?」
「チィッ……!?」
凄まじい衝撃波が荒れ狂い、俺とライアンの身体は共に後方へと大きく吹き飛ばされた。
俺の身体は石床を何度も転がり、ようやく停止した。
「ぐっ……!」
全身がひどく軋む。
勇者の力がなければ、今の一撃だけで身体が粉々に砕けていたかもしれない。
だが、視線の先ではライアンもまた、壁際まで吹き飛ばされながらも、すでに片膝をついて体勢を立て直していた。
「……なるほど。出力だけなら、確かに勇者だ」
ライアンが口元の血を乱暴に拭い、冷たく俺を見据える。
「だが、力を得たばかりの貴様と、死線を越えてきた私とでは、勇者としての練度も違う」
次の瞬間、ライアンの姿が掻き消えた。
「速っ――」
覚醒した眼で軌道は追えていたはずなのに、反応が一瞬遅れた俺の懐へ、ライアンが滑り込む。
神速の踏み込みから放たれた聖剣エクスカリバーの柄が、アーマー越しに俺の鳩尾へと正確に叩き込まれた。
装甲を透過した凄まじい衝撃に内臓を揺らされ、肺の空気が一気に抜ける。
「がはっ……!」
膝が折れかけた俺の首筋へ、容赦なく聖剣の刃が迫る。
俺は草薙の剣を無理やり跳ね上げ、辛うじてその凶刃を受け止めた。
ギィィィンッ!!
火花が散る。
重い。速い。
何より、動きに一切の無駄がない。
同じ勇者の力を纏っているはずなのに、ライアンの一撃には微塵の迷いすらなかった。
「涼よ、勇者になっただけで、私と並んだつもりか?」
絶対的な強者の宣告が、冷たく響く。
だが――俺は口の中に溜まった血を横に吐き捨て、その冷酷な眼差しを真っ直ぐに睨み返した。
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