海王(ポセイドン)戦⑥ギルガメッシュ散る!
吹き飛ばされたギルガメッシュが宙を舞う間に、俺の肉体と魂が『勇者』という新たな器へと再構築されたスカウター情報が、網膜へと素早く流れこんできた。
《限界突破――勇者スキル追加》
《聖属性付与》
《反射神経・腕力大幅上昇》
《物理・魔法・状態異常耐性上昇》
《勇者系攻撃・回復魔法取得》
《装備適正MAX》
《全言語理解》
《固有スキル【英雄加速】取得》
《固有スキル【絶望突破】取得》
この世界二人目の勇者が誕生した瞬間だった。
(これが勇者の力……凄い、この戦場の全てが俯瞰で見える)
身体の奥底から底知れぬ力が満ち溢れ、俺の全身は眩い聖なる光に包まれていた。
極限まで研ぎ澄まされた感覚が、かつてない全能感を魂に刻み込んでいく。
そして、ギルガメッシュが吹き飛ばされたのと同時刻、もう一つの死闘も決着を迎えようとしていた。
草薙の剣を握る竜戦士が、猛然とキングベヒーモスの懐へと飛び込む。
竜戦士の放った神速の一閃が、キングベヒーモスの顔半分を鮮やかに斬り落とした。
『ギャオオオオオッーー!!』
致命傷を負い、完全に制御を失った神話級の魔獣が狂乱する。
その断ち切られた半分の極太の尻尾がデタラメに振り回され――あろうことか、念力切れで衰弱していた主であるアナキンを勢いよく跳ね飛ばした。
「がはっ……!?」
アナキンの身体が最深部の入り口の石壁に激しく打ち付けられ、崩れ落ちる。
その瞬間、彼を包んでいた凄まじいオーラが霧散し、逆立っていた蒼銀色の髪と両眼が、元の温和な色へと戻っていった。
主の力を失い、限界を迎えたキングベヒーモスの巨体もまた、無数の光の粒子となって空間に溶けるように消滅していく。
一方、極大の閃光によって吹き飛ばされたギルガメッシュは、凄まじい勢いで床を転がり――通路から駆けつけていたリリアの目前で停止した。これは俺の狙いであり偶然ではなかった。
「ゴフッ……」
全身から白煙を上げ、ギルガメッシュが口から大量の血を吐きながらも、ゆっくりと立ち上がる。
その巨大な影を見据え、リリアは背負っていた大剣を静かに引き抜いた。
「うううっ……リリアか。そういや約束でござったな。次に会った時に必ずタイマン勝負をすると」
血まみれの口元を歪め、ギルガメッシュが不敵に笑う。
「ああ、もちろんだが。お前は動けるのか?」
「小娘一人屠るのに問題ないでござる」
「そうか。お前は父の仇だ。遠慮なく殺らせて貰う!」
リリアの纏う空気が鋭く研ぎ澄まされるのを見て、ギルガメッシュはさらに口角を吊り上げた。
左手に妖刀『初代鬼徹』を、そして右手に禍々しいオーラを放つもう一本の剣――『剛魔剣グラム』を構えた。
「拙者を倒し、この剛魔剣を見事取り返してみよ!」
父の遺品である剛魔剣を突きつけられたリリアは、怒りと覚悟をないまぜにして吠えた。
「――竜をも屠る大剣よ。ヤツが真の敵だ。限界を超えて断ち斬れ、ドラゴン・スレイヤー!!」
手にした大剣に膨大な闘気を集中させ、リリアがギルガメッシュへと一直線に踏み込む。
「いくぞ! 【極技・竜牙極絶滅斬】!!」
「来いッ! 【極技・妖星乱舞】!!」
裂帛の気合いと共に、二人の放つ極技が真正面から激突する。
凄まじい衝撃波が最深部を揺るがし、極大の閃光が弾け飛んだ。
二つの規格外の力が交錯し――限界を超えたドラゴン・スレイヤー改の無慈悲な一撃が、妖星の如き連撃を打ち砕き、ギルガメッシュの巨体を深々と薙ぎ払った。
ズバーーー!!
「み……見事!」
大量の鮮血が舞い散る中、ギルガメッシュの巨体がゆっくりと地に崩れ落ちていく。
薄れゆく意識と死の淵――彼の脳裏に、かつての記憶が走馬灯のように蘇った。
――3年程前。
「拙者の勝ちでござるな」
激闘の末、地に伏した男を見下ろし、ギルガメッシュは静かに告げた。リリアの父、ガレス・ロックハートである。
「ガハッ……流石だな、ギルガメッシュ」
「何故、拙者を狙ったでござるか?」
「本当にすまない。お前を殺さないと、代わりに娘を探して殺すと……ゼウスに脅されたんだ」
男の言葉に、ギルガメッシュの目が僅かに見開かれる。
「神が、拙者を狙っているのでござるか」
「そうだ、気をつけろ……この剛魔剣は、今日からお前のものだ。……俺の着ているこのアーマはゼウス達の魔法探知を防ぐ。すまんがこれをこの地図の娘の元へ届けてくれ……」
事切れる寸前の男から託された思いがけない願いに、ギルガメッシュは眉をひそめた。
「何故、拙者がそんな事を」
「届けてくれるさ。 お前は……心に武士道を持っているからな。 たの、んだ……」
「……」
――1年程前。
「ううう……拙者がここまで追い込まれたのは、人生初めてでござる。貴殿の名前は?」
満身創痍で膝をつき、ギルガメッシュは目の前に立つ強者を見上げた。
「ライアンだ。 勇者になって、この世界を救う男。貴様の名は?」
「ギルガメッシュでござる。 世界を救う……?」
理解できないというように呟くギルガメッシュに対し、ライアンは眩しい笑みを向け、右手を真っ直ぐに差し出した。
「ああ、貴様もふらふらお宝ばかり集めてないで、私とともに伝説を作らないか?」
そう言ってライアンは、差し伸べた右手でギルガメッシュの腕を力強く掴み、その巨体をぐいと引っ張り起こした。
「伝説……?」
「ああ。私と一緒に、この世界を滅ぼす神々と戦うのさ」
「……フッ、よかろう。ならば拙者も共に、その伝説とやらを創るでござるよ」
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