海王(ポセイドン)戦⑧一時の静寂
「涼ッ……! 待っていろ、今俺も行く!」
リリアが武器を構えて飛び出そうとする。
「来るなリリア!巻き込まれるぞ! こいつ、完全にリミッターが外れてやがる……ッ!」
俺は上空からの凶刃を必死に押さえ込みながら、血の混じった声で叫んだ。ギルガメッシュを殺ったのがリリアとバレたら確実に殺されるとも思ったからだ。
「リリア、涼の言う通りだ。次元が違う」
リゼルが鋭い声でリリアを制止する。
「今割って入れば、殺されるぞ」
「賢明な判断だな。そして、貴様の命もここで終わる」
冷酷に告げたライアンが、俺の首を刎ね落とそうと聖剣にさらに力を込めた。
「これで終わりだと……? 勝手に決めるなッ!」
俺はスカウターに表示されたスキルを思い出し、即時使用する。
「スキル発動――『絶望突破』ッ!!」
俺の咆哮と共に、限界を迎えていた身体から爆発的なオーラが噴き上がる。
圧倒的な力量差という『絶望』を打ち破る力が、全身の細胞を焼き切るような勢いで駆け巡った。
「な、に……!?」
俺の首に食い込もうとしていたライアンの聖剣が、内側から弾けるような神気の奔流に押し返される。
俺はその僅かな隙を見逃さず、さらにギアを一段階引き上げた。
「『英雄加速』ッ!!」
世界がスローモーションのように遅くなる。
(凄い、これが勇者の見る世界か。しかし、やつも勇者だ。チャンスは今しかねえ)
「必殺――【神威・天叢雲】!!」
俺はライアンの聖剣を草薙の剣で強引に弾き飛ばし、神速を超えた一撃を奴の胴体へと叩き込んだ。
「ぐぉぉぉッ!?」
さしものライアンも反応しきれず、ドラゴンメイルに炸裂した激しい衝撃で十メートル以上後方へと吹き飛ばされた。
石床を削りながらどうにか踏みとどまったライアンの顔に、明確な『焦り』と、プライドを傷つけられた『怒り』が浮かび上がる。
「成りたての勇者が……私をなめるんじゃない!!」
激昂したライアンの全身から、理性さえも焼き尽くすような凶悪な殺気が膨れ上がった。
だが、俺の方にも限界を超えた代償がすぐにやって来た。
全身の筋繊維が悲鳴を上げ、視界が明滅して膝が勝手に落ちかける。
(まずい……身体が、スキルの出力に追いついてねぇ……!)
見えている。
覚醒した眼で、ライアンの動きははっきりと見えている。
だが、身体が動かない。
殺意の塊と化したライアンが、俺の命を刈り取ろうと神速で姿を掻き消す。
次の瞬間、必殺の輝きを纏った奴の聖剣は、すでに俺の首筋へ迫っていた。
「『聖絶剣・白煌』!!」
間一髪、俺は超絶反射神経により神剣でブロックする。
二つの規格外の力が激突した瞬間、海底神殿全体を揺るがす爆発が起き、硬固な壁や天井に無数のひび割れが稲妻のように走った。
相殺しきれなかった凄まじい衝撃波により、今度は俺が弾き飛ばされる
「うわあああっ!」
バサァッ!!
その時――宙にいる俺の下に巨大な鷲が身体を滑りこませた。
俺の身体をいたわるように大きな羽がクッション代わりになり、石畳への激突を免がれた。
『遅くなったでござる、涼殿』
「涼さん大丈夫ですか?」
「エリス、サスケ……お前、生きて……ッ!!」
死んだと聞かされていたサスケの姿に、俺の胸の奥で暴れ狂っていた殺意が、嘘のようにスッと引いていくのを感じた。
しかし、驚きながらもライアンの殺意は止まらない。
限界を超えた勇者の聖なる力が噴き上がり、そのオーラはまるでライアンの背に翼が生えたかのように見えた。
「ふーっ もう面倒だな。貴様ら全員でかかってこい。まとめて殺してやる!」
「あ゛ーー!?あんま調子に乗ってんじゃねーぞ?ライアン!俺は本当に全員で襲いかかるタイプだぜー!?」
――その時だった。
《EMERGENCY!》
《EMERGENCY!》
《災厄級2体の接近を感知》
俺とライアンのスカウターに警告音が鳴り響いた。
俺とライアンの激突により崩壊しかけた天井の隙間から片翼の蠅王と漆黒のマントを羽織ったオーバーロード(ネクロガル)がゆっくり舞い降りてきた。
『その辺にしておきなよ。勇者同士で潰し合われちゃ困るんだ。君たちには、まだポセイドンとゼウスを倒してもらわなきゃならないんだからさ。あれ?リゼルじゃん。復活出来たの?おめでとう』
リゼルが顔見知りのベルゼブブを無言で睨む。
(あの蠅男め、また訳わからん事をしているんだろ。奴だけは絶対に許さん)
怒りの収まらないライアンがベルゼブブに告げる。
「おい、そこの蠅男、貴様から死にたいか? 何度も見逃さんぞ?」
『何?調子に乗るなよ人間風情が!』
『ベルゼブブ。オチツキナサイ。ここが迷宮の最深部デス。この先の一本道を進めば、ポセイドンの王室に辿り着く。私たちは先に行って、準備をしていマスヨ』
『皆さーん、聞こえたかい? ちなみにポセイドンはハーデスより強いから気を付けてね』
そういって二人は闇に消えた。
サスケの生存も確認され、広場には一時の静寂が戻った。
だが、その静けさには失われた者の重さが、瓦礫と血の匂いの中に沈殿していた。
復活したアナキンが、無言のまま念力でギルガメッシュの亡骸を持ち上げた。
そのまま崩れ落ちた石材を積み上げ、深海の神殿に簡易の墓を築いていく。
(すまん、ギルガメッシュ。俺が未熟だった。深海からは運び出せないが安らかに眠ってくれ)
「……この剛魔剣は父の形見だ」
リリアがそう言って、落ちているグラムを回収する。
いつの間にか両チームが全員最深部のこの広間に集まってきていた。
俺たちは皆の無事の喜びをかみしめ合い、リゼルが皆に挨拶し、最終目的のポセイドンのいる王室へと向かう事にした。
「ライアン。俺たちは先に行くぜ」
ライアンは返事はせずギルガメッシュの墓に黙とうしていた。
カインがアナキンにゼインの2本の刀を差しだす。
「これ、魔王に殺されたゼインの愛刀だ。後で霊廟に行くのなら、この刀だけでも納めてあげて欲しい」
「ゼイン迄もか……今回は嫌な予感がしていたんだ……わかった」
アナキンは力なく返事した。
リゼルは超能力戦士の風貌から戻ったアナキンを見て、ベビードラゴンとして拾ってくれた記憶を思い出し、頭を下げお礼を言った。
「アナキン、俺を拾ってくれて有り難う」
ルークは、泣いているアナキンを初めて見た。
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