海王(ポセイドン)戦⑤サスケとエリス
朱銀色のオーラを纏い、静かに宙に浮くルーク。
その絶対的な力の差を本能で感じ取ったのか、リュウガの顔から、先ほどまでの冷徹な余裕が完全に消え失せていた。
「う、おおおおおっ!」
リュウガは絶叫しながら両手を前に突き出し、残された念力を解放した。
水路の分厚い石畳が左右から凄まじい轟音と共にめくり上がり、巨大な岩の壁となってルークを両側から挟み潰そうと迫る。
だが――ルークの歩みは止まらない。
左右から迫る岩盤は、ルークの纏うオーラに触れた途端に停止し、まるで彼を迎え入れるかのように綺麗なトンネルを形成した。
ルークは悠々と、その岩のトンネルの中を歩いてリュウガへと近づいていく。
「くっ、来るなー!!」
リュウガが恐怖に顔を引き攣らせて叫ぶ。
ルークが静かに左手を伸ばすと、リュウガの身体が見えない巨大な手に掴まれたかのように、為す術もなく空中へと持ち上げられた。
見えない力によって両腕を強制的に広げられ、まるで十字架に張り付けにされたように、リュウガは空中で十文字の金縛りにあう。
続いて、ルークが右手を横に伸ばす。
「なっ、何だー!?」
少し離れた場所でオリハルコンゴーレムと交戦していたケソカの手から、突如として二本の青龍刀が引き剥がされ、ルークの念力に掌握された。
宙に浮いた二本の青龍刀は、刃先をリュウガに向けたまま、ゆっくりと、だが確実に彼の胸元へと近づいていく。
「やっ、やめろー! わかった、俺の負けだー!!」
死の恐怖に直面したリュウガが、プライドも捨てて無様に命乞いをする。
だが、朱銀色の瞳で見下ろすルークの顔に、かつての温厚な青年の面影は一切なかった。
「お前は俺たちに不利益しかもたらさない」
冷たい宣告と共に、最高度の切れ味を持つ二本の青龍刀が、ゆっくりとリュウガの胸に突き刺さってゆく。
ルークの絶大な念力によって押し込まれた凶刃は、硬い肋骨をも容易く断ち割り、リュウガの両胸からドクドクと鮮血が噴き出した。
「ギャアアアアアアアアアアアッ!!」
リュウガは地獄まで響くような断末魔を上げて絶命し、二本の青龍刀と一緒に地面へと力なく落ちていった。
一方その頃、水路の反対側では、フェンリルが圧倒的な蹂躙劇を繰り広げていた。
神速の魔狼は残っていた死霊軍団を次々と食い破り、三十体以上いたはずのアンデッド魔獣を一匹残らず殺し尽くす。
『ルーク、ネクロガルも殺していいか?』
血濡れた牙を剥き出しにしたフェンリルが、主へと問いかける。
『ボクモ……殺してイイ?』
青龍刀を奪われ、忌々しげに舌打ちをして距離を取るケソカを見下ろしながら、オリハルコンゴーレムもまた重々しい声で尋ねた。
「構わない」
ルークが短く冷徹に許可を出す。
オリハルコンゴーレムとフェンリルの凄まじい殺意を向けられ、ケソカとネクロガルの両者は窮地に立たされていた。
『マズイナガレダ』
その時、死霊軍団を失ったオーバーロードのネクロガルが、底冷えするような不気味な声で呟いた。
彼は即座に手にした『七魔石の杖』を振るうと、自身とケソカの足元に濃密な闇の空間を展開する。
圧倒的な力を持つルークと召喚獣たちによる追撃が届く寸前、ネクロガルはケソカと共に、その深い闇の中へと溶けるように消え去っていった。
敵の気配が完全に消えた水路跡で、ルークは静かに息を吐いた。
すると、逆立っていた朱銀色の髪がふわりと下り、燃え盛る両瞳も、いつもの穏やかな色へと静かに戻っていった。
――同時刻、海底神殿最下層。
そこには、サスケの背に乗ったエリスの姿があった。
最下層の石畳の地面に叩きつけられる寸前、サスケが【幻影影遁】を維持したまま影から飛び出し、エリスを救い上げたのだ。
「有難う、サスケ……生きていたのですね」
エリスは驚き、その羽に触れながら安堵の声を漏らした。
『危ない所でしたね、エリス嬢。拙者はこういう時の為に隠れていたでござる』
「でも、涼さんはサスケが生きていることを知らないはずです。急いで探しましょう」
『御意』
サスケは頼もしく応えると、巨大な翼を広げて最下層の空間を滑空した。
気配を完全に遮断した高速飛行の途中、サスケの『鷲の眼』が、前方で禍々しいオーラを放っている魔導士イザークの姿を捉える。
息を呑むエリス。
だがサスケは音もなくイザークの死角をすり抜け、さらに速度を上げた。
神殿の深い闇を切り裂き、二つの影は真っ直ぐに涼のもとへと急ぐ。
危険が渦巻く海底神殿の迷宮で、彼らは一筋の希望を届けるべく、闇の中を一直線に駆け抜けていった。
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