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最弱職「便利屋」が攻略AIで挑む異世界冒険記 ―チート勇者とのAI対決を便利屋スキルで出し抜く―  作者: 便利屋 涼
― 第二次魔獣大戦 ―

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海王(ポセイドン)戦④ゼインとカイン

 ――同時刻、無数の宝箱がそこここに転がる、怪しくも絢爛けんらんな空間。


 大混乱に陥った迷宮の喧騒を突き破るように、空間が突如として黄金の輝きと共に歪んだ。


『――おや、こんな場所に小賢しいねずみが潜んでいるな』


 傲慢で妖艶な声と共に、崩落した石柱の影から忽然と姿を現したのは、最高神ゼウスより海底神殿へと派遣された魔王マモンだった。

 白と黄金を基調とした贅を尽くした豪奢な貴族服を纏っているが、その袖口から覗く両手は、金色の鱗に覆われた猛禽類のような鋭い爪という異様な姿をしていた。

 その背後から立ち昇る圧倒的な神気のプレッシャーが、周囲の空気を物理的に激しく押し潰す。


『ポセイドン様に内緒で宝箱を漁りに来たが、ネズミがいたか。まあ、出会った者は全て殺していい許可が出ているからな』


「貴様、何者だ……っ!」


 その眼前に、黒マスクを深く身につけた姿で立ち塞がっていたのは、マスターアサシンのゼインだった。


 ゼインは突如現れた未知の強敵が放つ異様な気配に総毛立ちながらも、即座に『正宗』と『村雨』の二刀を引き抜き、鋭い踏み込みと共にマモンへと斬りかかった。


 激しい金属音が暗闇に轟く。


 だが、マモンは不敵な笑みを崩さぬまま、常人離れした身のこなしと圧倒的な魔力障壁でゼインの猛攻をことごとく無力化していく。


『ククク、人間離れした見事な剣技だが生物のレベルが違う。それに……その黒刃の宝刀は珍しい。私のコレクションに加えよう』


「ほざけ……俺の黒刀は、魔神すら断ち切る」


 次の瞬間――ゼインの姿が掻き消える。


 ゼインは両手の『正宗』と『村雨』に全身全霊の闘気を込め、極限の踏み込みから必殺の刃を放った。


「奥義――『虚空斬波こくうざんぱ双無そうむ太刀たち』!!」


 放たれた無音の双閃が、空間ごとマモンの絶対障壁を十字に切り裂く。


『……なっ!?』


 驚愕に目を見開くマモンの胸元に深く刃が食い込み、豪奢な貴族服を引き裂いて黄金の血を噴出させた。


『貴様ぁっ……! よくも私の美しい肉体に傷を……っ!』


 激昂したマモンが、傷の痛みに顔を歪めながらその金色の爪を凶悪に振り下ろした。


『死に絶えなさい! 【強欲魔爪ごうよくまそう万象簒奪破ばんしょうさんだつは】』


 生命力を引き裂くような黄金の爪撃がゼインの防御をぶち破り、その肉体を容赦なく吹き飛ばした。

 神殿の壁に叩きつけられ、激しく血を吐いて膝をつくゼイン。

 圧倒的な神気の前に、彼は瞬く間に満身創痍へと追い込まれていた。


「がはっ……! つっ、強すぎる……ベルゼブブクラスか」


 ゼインが死を覚悟し、マモンが止めの一撃を振り下ろそうとした、その瞬間。


「兄貴ぃぃっ!!」


 迷宮の後方から弾丸のように飛び出してきた人影が、猛烈な速度でゼインの背中へと追いついた。


「兄貴、大丈夫か!?」


 全身を汗まみれにし、肩で激しく息をして叫んだのは、ゼインの後を必死に追ってきたカインだった。


「カインか!? 馬鹿野郎! こっちに来るな!!」


 ボロボロの体を引きずりながら、ゼインが悲痛な声を張り上げる。

 しかし、カインの目はすでに目の前の魔王マモンへと据わっていた。


「兄貴はらせない……! うおぉぉぉっ!! 【紫電改・双撃の太刀】!!」


 カインが鋭い踏み込みと共にすべての身体能力を爆発させ、目にも留まらぬ神速の双剣から紫電の斬撃を繰り出す。

 だが、魔王マモンの底知れぬ力は、その決死の一撃すらも嘲笑った。


『身の程を知れ、ねずみが』


 マモンが無造作に放った反撃の衝撃波が、カインの双剣ごと激しくその身体を弾き飛ばした。


 ズガァァンッ!!


 無惨にも吹き飛ばされたカインは、冷たい床へと激しく叩き落とされ、苦悶の声を上げる。

 その手からこぼれ落ちた二振りの宝刀が、暗闇の中で妖しい光を放っていた。


『ほう……お前も珍しい宝刀を二本持っているようだな。今日はツイてるな、探さずともお宝が集まって来よるわ』


 マモンは残酷に笑い、先ほどゼインを屠った金色の爪を、今度は身動きの取れない瀕死のカインへと向けた。


『まとめて私のにえとなれ!』


 空間が不気味な黄金の輝きに満たされていく。


(くそっ、体が動かねぇ! ようやく兄貴と話せたのに……こんな所で死ぬのか!?)


『死ね、消え損ないどもが! 【強欲魔爪ごうよくまそう万象簒奪破ばんしょうさんだつは】!!』


 逃れようのない絶対的な死の爪撃を前に、カインの全身の血が凍りつき、己の命の終わりを直感した。



 ――だが、その刹那。


 彼の前に立ちはだかる、大きな背中があった。


 ズバァァァァァァンッ!!!!


「ぐあぁぁっ……!!」


 凄まじい衝撃音と共に、ゼインがカインをその身で庇い、マモンの極大の爪撃を正面からその身に受け止めていた。

 容赦なく放たれた黄金の斬撃がゼインの肉体を深く激しく引き裂き、噴き出した大量の鮮血がカインの顔や全身へと容赦なく降り注ぐ。

 カインの纏う黒装束が、見る間に兄の血でどす黒い朱色へと染まっていく。


「あ……兄貴……? 嘘だろ、おい……!」


 カインが震える手で、ゆっくりと倒れ込んできたゼインの身体を抱きとめる。

 ゼインの呼吸は今にも途切れそうなほどに浅く、その瞳からは急速に光が失われつつあった。


「寂しくさせてすまなかった……ゴフッ…… 最後に、兄ちゃんに顔をよく見せてくれ……」


 ゼインは血にまみれた手でカインの頬にそっと触れた。

 その目尻から、血と混じり合った一筋の涙が静かに溢れ落ちる。

 ゼインは優しい、兄としての笑顔を浮かべた。


「大きくなったな、カイン……本当は俺も寂しかったんだ……」


「あ……あぁ……」


 そのまま、ゼインの手が力なく床へと落ちる。

 カインにとって唯一の家族が、静かにその目を閉じて絶命した。


「いやだ……いやだ、兄貴ぃぃぃぃーーーッ!!」


 カインの慟哭が、海底神殿の闇に虚しく響き渡る。


 ダメージを負った身体と大切な者を失った絶望と激しい怒りがトリガーとなり、瀕死のカインの体内で、ゼクス族の特性――死線を超えるたびに進化する「生存臨界」が凄まじい勢いで爆発した。


 ドクン、とカインの心臓が不自然に大きく脈打つ。


 全身の傷が目に見える速さで塞がっていき、その身体から立ち昇るオーラは、先ほどまでの比ではない漆黒の闘気へと変貌していた。


 アサシンから、その限界を超えた頂点――『マスターアサシン』へのクラスチェンジ。


 カインは涙を流しながら、これまで使っていた愛刀『雷切』と『村正』を静かにその場に置いた。

 そして、兄の形見となった黒刃の宝刀――『正宗』と『村雨』をその手にしっかりと握り直し、ゆっくりと立ち上がる。


『ほう、死に際に面白い進化を見せるじゃないか。だが、私の前では無駄な足掻きだ』


 マモンが不気味に目を細め、再び手をかざす。


「……許さない。お前だけは、絶対に、生かしておかない……!」


 カインの両手に握られた兄の二刀には、マスターアサシンの漆黒の神速の闘気が極限まで凝縮されていく。


「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーッ!!」


 怒りの咆哮と共に、カインの姿が一瞬で消失した。


『なっ、消えた!? どこだ!?』


 初めてマモンの顔に戦慄が走る。

 

 次の瞬間、マモンを中心に無数の黒閃が十文字に奔り、周囲の空間の理ごと断ち裂いた。

 カインの新必殺技――【神速絶影しんそくぜつえい黒閃断界斬こくせんだんかいざん】。

 防御すら許さぬ、次元超えの神速連撃だった。


『がはっ……!? ば、馬鹿な、この私が……人間にぃぃぃっ!?』


 魔王マモンの肉体と魔力障壁は、カインが兄の遺志を継いで放った怒りの刃によって瞬く間にバラバラに切り刻まれ、絶叫と共に跡形もなく粉砕されて神殿の闇へと消え去ったのだった。


 静寂が戻った空間に、マモンの残滓が塵となって消えていく。


 カインは、血に染まった朱色の装束のまま、その場にぽつりと立ち尽くしていた。


「……兄貴」


 激しい闘気が消え去ると同時に、カインは力なくその場に膝をつく。


 涙で視界を滲ませながらも、彼は冷たくなったゼインの身体を優しく抱き上げ、神殿の崩落を免れた石柱の根元へと運んだ。


 カインは震える手で崩れた石材を積み上げ、精一杯の弔いとして粗末な墓を作った。

  最後の石を積み終え、兄の眠る瓦礫の前に膝をつく。

  血に濡れた手を強く握りしめ、声にならない嗚咽を漏らしたその瞬間――。

「生存臨界」の反動と、最愛の兄を失った絶望が、一気にカインを襲った。

  墓標の傍らへ崩れ落ちると、そのまま深い闇の底へと意識を手放した。

 最後までお読みいただきありがとうございます。

 現在ストックは無く、可能な限り新規エピソード執筆に励んでおります。

 その為、 誤字や矛盾点等チェック漏れが稀に出てくるとは思いますが、気付き次第、随時修正・加筆のブラッシュアップを行っていきますので温かい目でみて頂けると嬉しいです。

 皆様の評価やブックマークが、何よりの執筆の励みになります。

 今後とも応援よろしくお願致しますm(_ _)m


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