海王(ポセイドン)戦②サスケのファインプレー
――少し前、遥か上空。
退避していたサスケは、眼下の海を割って降下していく銀竜の背を、鋭い鷲の眼で捉えていた。
同時に、竜の背に立つ黄金の勇者と視線が交錯する。
だが、ライアンは上空の鷲を一瞥しただけで、興味を失ったように視線を落とした。
(涼殿は今回拙者が潜水艦で潜れない事が判明して、竜戦士をみつけてから拙者と合流すると言っていたが……それでは間に合わない気がする。このチャンスを逃す手はないでござる)
サスケは咄嗟の機転ですれ違いざまの一瞬の隙を突き、空中で滑らかに翼を翻した。カインの『シャドウダイブ』をヒントに編み出した独自の隠密技を発動させる。
「【幻影影遁】」
漆黒の羽ばたきと共にサスケの体がブレて、自身の落とす影と完全に同化する。
気配を絶ったサスケは、バハムート零式が落とす巨大な影の中へ音もなく潜り込んだ。
誰にも気づかれることなく、凄まじい速度で深海へと落ちていく。
そして、バハムートが海底付近で急減速した瞬間――影から抜け出したサスケは、誰の目にも触れることなく、海底神殿の天井付近の深い暗がりへと見事に身を隠したのである。
――現在。
荒れ狂っていた水流と衝撃波がようやく収まり、深海の視界が晴れていく。
俺は操舵盤を切り返し、黒ひげたちの潜水艦の横――神殿入口の『海水のない領域』へと、魔導潜水艦を静かに着陸させた。
重いハッチを開け、神殿の乾いた空気を吸い込みながら外へ出る。
カインやリリアたちも武器を手に、警戒を怠らず俺の背後に続いた。
そこで俺たちが目にしたのは、一触即発の睨み合いを続ける二つの勢力の姿だった。
(涼殿たちも無事に着いたようでござるな……)
神殿の天井付近の暗がりに身を潜めたまま、サスケは鋭い鷲の眼で眼下の状況を俯瞰していた。
今ここで飛び出しても、規格外の化け物たちの前では無駄死にするだけだ。ここは隠密の利を活かし、好機を待つのが最善と判断し、サスケは気配を完全に絶ったまま微動だにせず様子を窺っていた。
――神殿の門前。
黄金のオーラを放つライアンたち勇者パーティーと、ティーチ率いる黒ひげ海賊団が対峙している。
ティーチのそばには、ケソカや幹部であるイザークや先ほど異能を見せた9番隊隊長リュウガ、6番隊の女隊長ユリア、そして十名ほどの部下たちが不敵な笑みを浮かべて控えていた。
「ゼハハハ! ハーデスに続いて、ポセイドンも倒しに来たってわけか、勇者サマ」
ティーチが、野太い声で笑う。
「人類のためか、己の欲望のためかは知らねェが、目的は俺たちと同じだな。だが……俺様が見たところ、お前と涼は、何か競い合ってる感じがするんだよなァ」
黒ひげは面白そうに、ライアンと、そして背後に降り立った俺の顔を交互に見比べた。
「まあ、俺たち『LOGOS』からすりゃ、どっちが海王を倒そうが願ったり叶ったりだ。だが、どうせそのうち邪魔になる。お前らで勝手に殺し合って、数を減らしてくれると助かるぜェ?」
その挑発的な言葉に対し、ライアンは表情一つ変えなかった。だが、その右手には、いつの間にか黄金に輝く聖剣が握られている。
「……イグナイトとメフィストを殺した貴様らだけは、絶対に許さん」
ライアンの口から発せられたのは、静かだが、極大の殺気を孕んだ宣告だった。
次の瞬間、ライアンが爆速で踏み出す。
「行くぞー! 全員 殺ってよし!!」
その鋭い号令と共に、黄金の閃光となったライアンは手に握る『聖剣』に莫大な聖気を束ねた。
「【覇王極光斬】!!」
いきなり放たれた極大の光刃が、深海の空間を横一文字に薙ぎ払う。
黒ひげの背後に控えていた十名ほどの戦闘員たちは、反応する間もなく腹を両断され、身体が真っ二つになって光の塵と化し霧散した。
同時に、ライアンばりに凄まじい紅銀のオーラを発するアナキンが一歩前に出る。
「お前ら、これはいらんだろう。どうせ死ぬのだから」
冷酷に言い放つや否や、神殿の外殻で待機していた神龍リヴァイアサンが、黒ひげたちの乗ってきた魔導潜水艦へ極太の超圧水流を放ち、一撃で粉砕して吹き飛ばした。
それを皮切りに、乱戦の火蓋が切って落とされる。
後衛のレイバンが、イザークに向けて三本の氷の矢を同時に放った。
だが、黒ひげがニヤリと笑って虚空を掴むと、空間そのものがグニャリと捻じ曲がり、氷の矢は明後日の方向へと逸らされる。
その横では、巨漢のギルガメッシュが『鬼徹』と『剛魔剣』の二刀流でケソカへと猛然と襲い掛かる。
息つく暇もない激闘の中、突如として黒ひげの足元の影からゼインが姿を現した。
死角である真下からの奇襲。ゼインが突き上げた黒刀『政宗』が、黒ひげの足の裏から甲へと無慈悲に貫通する。
「ぐあああっ!」
黒ひげが苦悶の声を上げた瞬間――その動きを見逃さなかったリュウガが、ゼインに向けて強烈な念を放った。
「【念動縛鎖】!」
ゼインの体が不可視の金縛りに遭い、ピタリと硬直する。
「舐めやがってェ!」
足の痛みに顔を歪めながらも、黒ひげの丸太のような腕が下から跳ね上がり、ゼインのみぞおちへ強烈なアッパーカットをまともに叩き込んだ。
「ガハッ……!」
ゼインが血を吐きながら吹き飛ばされる。
すかさず、後方に控えていたユリアが手をかざし、黒ひげの足の傷を瞬く間に治癒していく。
勇者パーティーと黒ひげ海賊団による、一瞬の油断も許されない超次元の攻防。
だが、この舞台は奴らだけのものではない。
俺は草薙剣を構え、両者の前に堂々と歩み出た。
「便利屋の涼、見参!!」
俺の声が、激戦の響き渡る海底神殿に高らかに木霊した。
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